2 / 110
第1話 俺と結婚するか?(1)★
しおりを挟む
「結婚は人生の墓場」だの、「楽しいのは最初のうちだけ」だの――。
いつだったか社内で交わされていた言葉を、瀬名侑人は思い出していた。
二十七歳・独身という身として焦りは少なからずある。晩婚化が進んでいるとは聞くが、周囲は着々と身を固めているし、それが当たり前なのだと思わざるを得ない。
そんなふうに考えを巡らせていたら、不意に背後から声をかけられた。
「おい、また他のこと考えてるだろ」
侑人は声の主を見やって、ジトリと目を細める。悪いか、と。
すると、相手は不満げに眉をひそめた。
名は高山健二といい、一つ歳上の男である。清潔感のある短い黒髪に、凛々しい目鼻立ち。侑人より五センチは背の高いがっしりとした体型で、営業マンらしく身だしなみにも気を配っている。――まあ、有り体にいえば《イケメン》と形容するのが一番だろう。
「こんなときだってのに随分と余裕だな? 抱かれてるときくらい、俺のこと考えてくれてもいいんじゃねえの?」
高山は軽口を叩きながら、こちらに覆い被さってくる。
時刻は深夜十一時過ぎ。二人の姿はラブホテルの一室にあり、お互い一糸纏わぬ姿で肌を密着させていた。
とはいっても、決して恋人などではない。ふとしたときに連絡しては、後腐れなく体を重ねるような間柄だ。
「っあ、ちょ――ナカ、かき回すなっ」
柔らかくほぐれているそこに、高山の太い指先が潜り込んできた。
二本の指をバラバラに動かされて、ローションがクチュクチュと卑猥な水音を奏でる。こうしてわざと音を立ててくるあたり、タチが悪いというか厄介だ。
「かき回してほしいんだろ? ほら、すっげえエロい音。俺の指、美味そうに咥えこんでるぜ?」
「くっ、最悪……いちいちオヤジくさいんだよ!」
加えてこれだ。表面上は抗議してみせるも、いやらしい囁きに興奮してしまう自分が嫌になる。
「好きなくせに」
高山が口角を上げて言う。
今さら何を言っても無駄なことはわかりきっていた。なんせ、この体は嫌というほど知り尽くされていて、もう知らぬことなど存在しないようなレベルなのだから。
「ん、っは、好きなわけあるか……っ!」
それでも口ごたえしてしまうのは性分ゆえだろう。
高山は見透かしているように笑い、うなじに舌を這わせてきた。侑人が小さく身を震わせると気をよくしたのか、今度は耳朶を甘噛みしてくる。
「あっ、耳やだって」
「敏感だもんな。こうして可愛がってやると、すぐ後ろが締まりやがる」
「は、あんっ、言うな……あ」
耳朶をねっとり舐め上げられ、ぴちゃりと唾液の音が響いた。同時に中の指も動かしてくるものだから、侑人はたまらず腰を浮かせる。
感じるのは、快感よりもじれったさだった。背後からだと逆手になってしまい、ピンポイントで好きなところに触れてもらえない。
(もっと、欲しいのに)
これでは焦らされているようなものだ。もどかしさから自ら腰を揺らせば、高山はククッと喉を鳴らした。
「ったく、やらしいな。腰なんて揺らして物足りないってか?」
「いちいちうるさ――ああっ!」
反論しようとするも、指を引き抜かれた拍子に甲高い嬌声へと変わってしまった。
高山は何ら気にせずアメニティの中からコンドームを手に取り、パッケージを荒っぽく歯で破る。肩越しに侑人が振り返れば、その口元がいやらしく歪んだ。
「何が欲しい?」
そう問いかけながらコンドームを装着する高山は、どこからどう見てもひどく楽しげである。
いつだったか社内で交わされていた言葉を、瀬名侑人は思い出していた。
二十七歳・独身という身として焦りは少なからずある。晩婚化が進んでいるとは聞くが、周囲は着々と身を固めているし、それが当たり前なのだと思わざるを得ない。
そんなふうに考えを巡らせていたら、不意に背後から声をかけられた。
「おい、また他のこと考えてるだろ」
侑人は声の主を見やって、ジトリと目を細める。悪いか、と。
すると、相手は不満げに眉をひそめた。
名は高山健二といい、一つ歳上の男である。清潔感のある短い黒髪に、凛々しい目鼻立ち。侑人より五センチは背の高いがっしりとした体型で、営業マンらしく身だしなみにも気を配っている。――まあ、有り体にいえば《イケメン》と形容するのが一番だろう。
「こんなときだってのに随分と余裕だな? 抱かれてるときくらい、俺のこと考えてくれてもいいんじゃねえの?」
高山は軽口を叩きながら、こちらに覆い被さってくる。
時刻は深夜十一時過ぎ。二人の姿はラブホテルの一室にあり、お互い一糸纏わぬ姿で肌を密着させていた。
とはいっても、決して恋人などではない。ふとしたときに連絡しては、後腐れなく体を重ねるような間柄だ。
「っあ、ちょ――ナカ、かき回すなっ」
柔らかくほぐれているそこに、高山の太い指先が潜り込んできた。
二本の指をバラバラに動かされて、ローションがクチュクチュと卑猥な水音を奏でる。こうしてわざと音を立ててくるあたり、タチが悪いというか厄介だ。
「かき回してほしいんだろ? ほら、すっげえエロい音。俺の指、美味そうに咥えこんでるぜ?」
「くっ、最悪……いちいちオヤジくさいんだよ!」
加えてこれだ。表面上は抗議してみせるも、いやらしい囁きに興奮してしまう自分が嫌になる。
「好きなくせに」
高山が口角を上げて言う。
今さら何を言っても無駄なことはわかりきっていた。なんせ、この体は嫌というほど知り尽くされていて、もう知らぬことなど存在しないようなレベルなのだから。
「ん、っは、好きなわけあるか……っ!」
それでも口ごたえしてしまうのは性分ゆえだろう。
高山は見透かしているように笑い、うなじに舌を這わせてきた。侑人が小さく身を震わせると気をよくしたのか、今度は耳朶を甘噛みしてくる。
「あっ、耳やだって」
「敏感だもんな。こうして可愛がってやると、すぐ後ろが締まりやがる」
「は、あんっ、言うな……あ」
耳朶をねっとり舐め上げられ、ぴちゃりと唾液の音が響いた。同時に中の指も動かしてくるものだから、侑人はたまらず腰を浮かせる。
感じるのは、快感よりもじれったさだった。背後からだと逆手になってしまい、ピンポイントで好きなところに触れてもらえない。
(もっと、欲しいのに)
これでは焦らされているようなものだ。もどかしさから自ら腰を揺らせば、高山はククッと喉を鳴らした。
「ったく、やらしいな。腰なんて揺らして物足りないってか?」
「いちいちうるさ――ああっ!」
反論しようとするも、指を引き抜かれた拍子に甲高い嬌声へと変わってしまった。
高山は何ら気にせずアメニティの中からコンドームを手に取り、パッケージを荒っぽく歯で破る。肩越しに侑人が振り返れば、その口元がいやらしく歪んだ。
「何が欲しい?」
そう問いかけながらコンドームを装着する高山は、どこからどう見てもひどく楽しげである。
105
お気に入りに追加
638
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
二十歳の同人女子と十七歳の女装男子
クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。
ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。
後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。
しかも彼は、三織のマンガのファンだという。
思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。
自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。
てなずけたポメラニアンはSubで鬼上司でした
有村千代
BL
ポメラニアン(※上司)を躾けて甘やかして♥ Dom/Subユニバース×ポメガバース!
<あらすじ>
「上司があんなに可愛いポメラニアンだとか! 忘れる方が無理ってもんでしょう!?」
駆け出しの商社マン・羽柴は、鬼上司の犬飼に叱られてばかりの日々を送っている。
ある日、終業後のオフィスで、なぜか一匹のポメラニアンと遭遇するのだが――その正体はまさかの犬飼だった!
犬飼は過度のストレスを感じると、ポメラニアンに変化してしまう特異体質。さらにはSubとして欲求不満を抱えていたのだ。
羽柴は力になりたいと思うも、実はプレイが苦手なDomで、コマンドなんて飼い犬相手にしか使ったことがない。
そんな羽柴に対して犬飼が提案してきたのは、プレイ練習という名の仮パートナーで…!?
【無邪気ワンコ部下×クーデレ鬼上司(プレイが苦手なDom×ポメ化するSub)】
※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています。
※全7話+番外編5話(断章含む)、毎日更新。
※ピュアな下剋上Dom/Subユニバース。プレイは甘々褒め、ソフトSM。
(Dom/Subが初めての方にも楽しんでいただけたら幸いです!)
作者X(Twitter)【https://twitter.com/tiyo_arimura_】
掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv】
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる