てなずけたポメラニアンはSubで鬼上司でした

有村千代

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第6.5話 二人で迎えた朝

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 あたたかな腕に抱かれて迎えた朝は、なんとも心地のいいものだった。
 カーテンの隙間から差し込む朝日に、犬飼はゆっくりと瞼を開く。隣には、裸のまま眠る羽柴の姿があった。

(朝起きて、隣に誰かがいるだなんて……不思議な感覚だ)

 寝顔をまじまじと眺めていると、不意に昨夜の記憶が蘇ってくる。
 とにかく、「すごい」としか言いようがなかった。本能のままに互いを求め合い、数えきれないほどに絶頂を極め――思い出すだけで顔が熱くなるし、体の奥がじんと疼くようだ。
 おかげですっかり寝不足だし、下半身が痛くて敵わなかったが、それもまた幸せというものだろう。

 ……と、そんなことを考えているうちに目を覚ましたのか、羽柴が小さく身じろぐのがわかった。

「蓮也……さん?」
「おはよう、羽柴」
「おはようございます……今、何時ですか?」
「ん? ああ、まだ六時過ぎだな」
「六時っ!?」

 枕元の時計に目をやりながら答えると、羽柴は素っ頓狂な声を上げて飛び起きた。ベッドから出るや否や、そそくさと着替えを始めるので、犬飼も慌てて身を起こす。

「もう出るつもりか? まだ出勤には早いだろ」
「でも俺、一度帰らないと。昨日と同じ服装ってのはちょっと」
「それなら俺のを貸す。Yシャツもサイズ違いで大きいのがあるし、ネクタイも好きなものを選ぶといい」
「えっ、あの」
「だから……もう少しくらい、ゆっくりしていけばいいだろう?」

 戸惑う羽柴の腕を引き、ベッドへと引き戻してしまう。相手は目を白黒させていたが、構わずに抱き寄せれば大人しくなった。
 そのうちに下腹部が触れ合って、犬飼はいたずらっぽく笑みを浮かべる。

「朝から随分と元気だな」
「せ、生理現象ですから!」

 昨夜あれほど体を重ねたというのに、羽柴のそれは力強く布地を押し上げていた。手でやんわりと刺激を与えてやれば、たちまち質量が増していく。

「ちょっ、その……そう煽られると、また止まんなくなっちゃいそうなんすけど」
「べつに構わないぞ。まあ、できて一回程度だろうが」
「いやいやいやっ! 俺、意地でも先に出勤するんで!」

 羽柴はこちらの肩を押して、真っ赤になりながらも拒む素振りを見せる。昨夜とは打って変わって理性的な反応だ。

「なんだ、今朝はやたらと強情だな」
「……だって。格好悪いとこ、好きな人にあんま見せたくないし」

 こてん、と羽柴の頭が肩口に乗せられる。

 この男は本当に人たらしというか――いや、無自覚なのだろうが――、裏表のない言動に、甘酸っぱい気持ちが込み上げてきてならない。こちらはすっかり惚れこんで夢中になっているというのに、いったい何を気にしているのだろうか。

(ったく。まだまだ俺のことがわかっていないようだ)

 犬飼は頭を優しく撫でてやりながら、小さく笑みをこぼす。すると、その気配を感じ取ったのか、羽柴が拗ねたように声を発した。

「今、ガキっぽいとか思ったでしょ?」
「いや、そういったところも好ましいと思っただけだ」
「もーっ……」

 そうしてじゃれ合っているうちに、自然と唇が重なって、甘ったるい朝のひと時を過ごすこととなった。
 羽柴は少しだけ長居してくれたが、犬飼のYシャツとネクタイを借りると、一足先に部屋を出て行ってしまう。

「あ、蓮也さん! 首輪は自由に外しちゃっていいですからね?」

 最後に投げかけられたのは、そのような言葉だった。もしかすると、こちらの体裁を気にかけているのかもしれない。

「……馬鹿だな。外すわけがないだろう?」

 苦笑とともに独りごちて、両手で包み込むように首輪へと触れる。

 その後のことは、言わずもがなというやつだ。犬飼は首輪をしたまま堂々と出社し、周囲にパートナーの存在を知らしめたのだった。
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