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第6話 信頼の証とつながる心(1)

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 ――俺は、一人でいい。
 犬飼の胸中には、ずっとそのような考えがあった。

 なるべく人と深く関わらぬよう、一定の距離を置いて、淡々と日々を過ごす。それが犬飼の処世術だったし、そのスタンスを苦に思ったこともない。もともと人付き合いが得意でなかったこともあり、孤独にもすっかり慣れていた。

 他人に迷惑はかけられない――それが根本にあったのだ。が、今思えば、他人を信頼することができなかっただけだろう。

 だから、こんな日が来るだなんて、以前の自分なら考えられなかった。

「俺と、正式なパートナーになってくれませんか」

 目の前で跪いた羽柴が、首輪カラーを差し出している。
 それを目にした途端、犬飼の胸がいっぱいになった。だというのに、体はポメラニアンの姿のままで、「クウゥン……」と情けない声を上げることしかできない。

 その一方で羽柴は、心底穏やかに微笑みかけてくれるのだった。

「俺、蓮也さんが好きです。厳しいところもあるけど、本当はすごくお人好しで、いつも真摯に向き合ってくれる……そんな蓮也さんのことが大好きです」

 緊張しているのか、少しだけ声が震えていた。それでも、懸命に言葉を紡ごうとする。

「蓮也さんからしたら、俺はまだまだガキかもしれない。けど、あなたの〝信頼〟にきっと応えてみせます。だからどうか、恋人として――俺だけのSubになってください」

 まるでプロポーズの言葉だ。一生添い遂げるとでも言うかのように、羽柴は甘ったるい口説き文句を口にしてみせる。
 こうなっては、もうどうしようもない。犬飼は感極まって、いっそう視界をぼやけさせた。

(君はいつも、本当に真っ直ぐだな……)

 そう思うとともに、ポメラニアンから人間の姿へと戻っていく。

 そのさまを目の当たりにした羽柴は、慌てたように膝立ちになって、脱ぎ捨てられていたYシャツをこちらの肩に羽織らせてきた。

「えっと、パンツ……パンツ!」
「今はそうじゃないだろ」

 言わずもがな全裸ではあったが、気にしてなどいられるものか。犬飼は羽柴の腕を引くと、首輪の方へ目を向ける。

「付けてくれないか」

 言わんとすることを察した羽柴は、少しの間のあとに行動で示した。
 首輪を手に取るなり、ゆっくりと犬飼の首にかけてくる。首輪はワンタッチで留めるバックルタイプで、慎重に長さを調整している様子が見受けられた。

 犬飼は「Kneelおすわり」の姿勢を保ったまま、身動き一つせずに待つ。カチャリ、と金具のはまる音がするのに、そう時間はかからなかった。

「首、キツくないですか?」
「ああ。そこにある鏡を取ってくれるか?」

 羽柴は言われるまま、棚からスタンドミラーを持ち出してくる。それを犬飼の眼前に差し出すと、不安げに顔を覗き込んできた。

「ど、どうでしょう?」
「羽柴はどう思う?」

 鏡に自分の姿を収めつつ、いたずらっぽい笑みで返してやる。すると、羽柴はぐっと息を詰めてから声を発した。

「めちゃくちゃ似合ってます!」
「俺も同意見だ」

 シンプルなデザインの首輪は、犬飼の白い肌に映え、しっくりと馴染んでいた。
 犬飼は革の表面を撫でて、あらためてその所有印を確かめる。パートナーであることの証明――カラーがあるだけで、こんなにも満たされるとは思いもしなかった。

「ありがとう、羽柴。俺をパートナーに選んでくれて……今、最高に満たされている」
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