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第3.5話 頑張る部下へのご褒美
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「――そういえばなんすけど。最近、雰囲気変わりましたよね」
「は?」
羽柴と仮パートナーになってから、数週間ほど経った頃のことだ。自宅で夕食をともにしていると、不意に突拍子もない話題が飛んできた。
思わず間の抜けた声を返すこちらに、羽柴が慌てたように言葉を付け加える。
「会社でも『雰囲気が柔らかくなった』とかって、話題なんですよ。ほら、眉間に皺を寄せてることも減ったっつーか」
「……逆に以前の俺は、どんなだったと言うんだ」
犬飼が呆れ半分に返すと、相手は箸を止めて、「あっ」と小さく声を上げた。
ただ、思い当たる節はあるので、それ以上は互いのために追及しないことにする。
「まあ、ダイナミクスの欲求不満もあったし、ピリピリしていたのは確かだ。特に羽柴には、手厳しいことを言ったかもしれないしな」
「あ、あー……それはもしかして、俺があまりにも不出来だから――ですかね?」
羽柴はしょんぼりと肩を落とすものの、犬飼とて不出来だからとは思っていない。
むしろ、その逆だ。見込みのある男だと思っているからこそ、口うるさくもなってしまうのである。
だが、それを正直に打ち明けるのもいかがなものか。犬飼は少しの逡巡のあと、代わりにフォローの言葉をかけてやることにした。
「いや。君が日々頑張っていることは、これでも以前から認めていたんだ。その点は評価に値する」
「ほ、本当ですか?」
「ああ」
しっかりと頷いてみせるも、羽柴は複雑そうな表情を浮かべる。
何かまずいことでも言ったかと、首を傾げていれば、
「初耳っすよ、それ。……たまにでいいから、ちゃんと褒めてほしいです」
と、拗ねたように唇を尖らせるものだから、犬飼は思わずギクリとしてしまった。
そう言われると弱い。確かに、今まで褒めるという行為はしてこなかったかもしれない。思い返せば、厳しい言葉を投げかけるばかりで、あまり《いい上司》とは言えないような気もする。
しかしどうしろと言うんだ、と思わずにはいられなかった。
たとえば、頭を撫でたりすればいいのか? いや、それは自分がSubだから嬉しく感じるだけで――あれこれ頭を悩ませながらも、夕食を食べ終えて箸を置く。
それから咳払いを一つして、静かに口を開いた。
「その、なんだ……羽柴はよくやっているよ」
腰を上げると、そっと羽柴の頭に手を伸ばす。わしゃわしゃと栗色の髪をかき混ぜてやれば、相手は驚いたように目を瞠った。
が、すぐさま嬉しそうに表情をほころばせて、満面の笑みを向けてくる。
「っ、ありがとうございます! おかげで犬飼さんのこと――今、めっちゃくちゃに甘やかしたい気分です!」
「……ん?」
頑張る部下へのご褒美のつもりが、これいかに。
その後のプレイで存分に甘やかされてしまい、まったくどちらがご褒美なのか、犬飼はわからなくなってしまった。
「は?」
羽柴と仮パートナーになってから、数週間ほど経った頃のことだ。自宅で夕食をともにしていると、不意に突拍子もない話題が飛んできた。
思わず間の抜けた声を返すこちらに、羽柴が慌てたように言葉を付け加える。
「会社でも『雰囲気が柔らかくなった』とかって、話題なんですよ。ほら、眉間に皺を寄せてることも減ったっつーか」
「……逆に以前の俺は、どんなだったと言うんだ」
犬飼が呆れ半分に返すと、相手は箸を止めて、「あっ」と小さく声を上げた。
ただ、思い当たる節はあるので、それ以上は互いのために追及しないことにする。
「まあ、ダイナミクスの欲求不満もあったし、ピリピリしていたのは確かだ。特に羽柴には、手厳しいことを言ったかもしれないしな」
「あ、あー……それはもしかして、俺があまりにも不出来だから――ですかね?」
羽柴はしょんぼりと肩を落とすものの、犬飼とて不出来だからとは思っていない。
むしろ、その逆だ。見込みのある男だと思っているからこそ、口うるさくもなってしまうのである。
だが、それを正直に打ち明けるのもいかがなものか。犬飼は少しの逡巡のあと、代わりにフォローの言葉をかけてやることにした。
「いや。君が日々頑張っていることは、これでも以前から認めていたんだ。その点は評価に値する」
「ほ、本当ですか?」
「ああ」
しっかりと頷いてみせるも、羽柴は複雑そうな表情を浮かべる。
何かまずいことでも言ったかと、首を傾げていれば、
「初耳っすよ、それ。……たまにでいいから、ちゃんと褒めてほしいです」
と、拗ねたように唇を尖らせるものだから、犬飼は思わずギクリとしてしまった。
そう言われると弱い。確かに、今まで褒めるという行為はしてこなかったかもしれない。思い返せば、厳しい言葉を投げかけるばかりで、あまり《いい上司》とは言えないような気もする。
しかしどうしろと言うんだ、と思わずにはいられなかった。
たとえば、頭を撫でたりすればいいのか? いや、それは自分がSubだから嬉しく感じるだけで――あれこれ頭を悩ませながらも、夕食を食べ終えて箸を置く。
それから咳払いを一つして、静かに口を開いた。
「その、なんだ……羽柴はよくやっているよ」
腰を上げると、そっと羽柴の頭に手を伸ばす。わしゃわしゃと栗色の髪をかき混ぜてやれば、相手は驚いたように目を瞠った。
が、すぐさま嬉しそうに表情をほころばせて、満面の笑みを向けてくる。
「っ、ありがとうございます! おかげで犬飼さんのこと――今、めっちゃくちゃに甘やかしたい気分です!」
「……ん?」
頑張る部下へのご褒美のつもりが、これいかに。
その後のプレイで存分に甘やかされてしまい、まったくどちらがご褒美なのか、犬飼はわからなくなってしまった。
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