てなずけたポメラニアンはSubで鬼上司でした

有村千代

文字の大きさ
上 下
19 / 63

第3話 もっと支配されたい(4)★

しおりを挟む





 帰宅してシャワーを浴びると、犬飼は早々にベッドへ横になった。

 このまま寝てしまってもいいのだが、まだこの浮ついた気分を味わっていたい気もする。なんせ、こんなふうに誰かを想うのは初めてのことなのだ。
 デートにしたって待ち遠しいというか、会社でもなんでもいいから、もう会いたくなっている。どうせなら、今日も自宅に誘えばよかったかもしれない。

(いや、それはさすがに早計か。がっついていると思われたくはない)

 我ながら浮かれすぎだ。犬飼は眉間を抑えて、甘ったるい考えを打ち消す。
 せっかく尊敬してくれているのだし、上司としてイメージを損なうことは避けたい。そう、避けたいのだが――、

(手遅れのような気もするな……) 

 羽柴と仮パートナーになってから、もう何度かプレイを繰り返していた。その度に犬飼は、《サブスペース》と呼ばれるトリップ状態に陥り、無防備な姿を晒してしまっている。

 サブスペースとはSubがDomを受け入れ、完全に支配下にある状態だ。このときのSubは多幸感に包まれて、陶酔感を味わうことになる。

 とはいえ、実のところ――サブスペースに入ったのは、羽柴とのプレイが初めてだった。それもそのはずで、ポメラニアンが云々といった事情も含め、自らを委ねきることができなかったのだ。

「自分をさらけ出して、受け入れてもらえることが……こんなにも幸せだなんて」

 犬飼は枕に顔を埋めて、あらためて羽柴の顔を思い浮かべる。

(……好きだ)

 胸の内でそう呟いた途端、トクンと心臓が跳ねるのがわかった。相手の好意を知ったところで、現金なものだと思いつつも、自覚した感情はもう抑えられない。

 ただし、それとは別のところで、物足りなさを感じているのも事実だった。引け目を感じているようだから、決して強要はできないが、Subとしてはもっと――、

「――……」

 そうこう考えているうちに、瞼が重くなってきた。
 犬飼は欠伸を噛み殺しつつ、掛け布団を手繰り寄せる。そのまま意識を委ねるように、ゆっくりと目を閉じたのだった。


    ◇

 
 室内は照明が落とされ、しんと静まり返っていた。
 そんななか、ほのかに点けられたベッドサイドランプだけが、ぼんやりと人影を照らしている。

 ――目を凝らせば、それは羽柴だった。羽柴はベッドの縁に腰かけ、跪いている犬飼のことを見下ろす。

「蓮也、Strip服を脱いで

 その口から告げられたコマンドは、思いもよらぬものだ。
 犬飼は驚きのあまり言葉を失うも、言いようのない高揚感を覚えてたまらなくなる。次の瞬間には、自然と手が動いていた。

「………………」

 カーディガン、Tシャツ、スキニー……と一枚ずつ服を脱いでいく。その様子を羽柴がつぶさに見つめてくるものだから、居たたまれない気分でいっぱいになった。
 やがて、下着一枚になったところで手を止めるも、羽柴の視線が突き刺さる。

「嫌ならセーフワード言っていいよ? そしたら、すぐにやめてあげる」

 そう言われても、抗うすべなど持ち合わせていない。犬飼は羞恥に震えながら、最後の一枚も脱ぎ捨てた。

 股間を手で隠しつつも、一糸まとわぬ姿になると、羽柴が柔和な笑みを浮かべる。が、いつもの人懐っこい顔ではなく、どこか嗜虐的な色を帯びていた。

「綺麗だよ、蓮也。恥ずかしいのに、ちゃんと言うこときけてえらいね――Good boyいい子

 優しく紡がれた誉め言葉に、犬飼はうっとりと目を細める。

 ご褒美とばかりに頬を撫でられれば、悦びをあらわにするかのように自身が頭をもたげ始めた。それに気づいてか、羽柴が目ざとく腕を掴んでくる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

絶対服従執事養成所〜君に届けたいCommand〜

ひきこ
BL
少数のDomが社会を支配する世界。 Subと診断された者にはDomに仕える執事となるため英才教育が施され、衣食住が保証され幸せに暮らす……と言われているのは表向きで、その実態は特殊な措置によりDomに尽くすべき存在に作り変えられる。 Subの少年ルカも執事になるほかなかったが、当然そこには人権など存在しなかった。 やがてボロボロに使い捨てられたルカと、彼のことをずっと気にかけていた青年との初恋と溺愛とすれ違い(ハッピーエンド)。 ◆Dom/Subユニバース設定の世界観をお借りしたほぼ独自設定のため、あまり詳しくなくても雰囲気で読んでいただけるかと思います。ハードなSM的描写はありません。 ◆直接的な描写はありませんが、受け・攻め どちらも過去にメイン相手以外との関係があります。 ◆他サイト掲載作に全話加筆修正しています。 ※サブタイトルは試験的に付けており、変更の可能性があります ※表紙画像はフリー素材サイトぴよたそ様よりお借りしています

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

敏感リーマンは大型ワンコをうちの子にしたい

おもちDX
BL
社畜のサラリーマン柊(ひいらぎ)はある日、ヘッドマッサージの勧誘にあう。怪しいマッサージかと疑いながらもついて行くと、待っていたのは――極上の癒し体験だった。柊は担当であるイケメンセラピスト夕里(ゆり)の技術に惚れ込むが、彼はもう店を辞めるという。柊はなんとか夕里を引き止めたいが、通ううちに自分の痴態を知ってしまった。ただのマッサージなのに敏感体質で喘ぐ柊に、夕里の様子がおかしくなってきて……? 敏感すぎるリーマンが、大型犬属性のセラピストを癒し、癒され、懐かれ、蕩かされるお話。 心に傷を抱えたセラピスト(27)×疲れてボロボロのサラリーマン(30) 現代物。年下攻め。ノンケ受け。 ※表紙のイラスト(攻め)はPicrewの「人間(男)メーカー(仮)」で作成しました。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

処理中です...