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第3話 もっと支配されたい(3)
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「羽柴……」
「むしろ、こっちが寂しくなるっていうか。人間、どうにもならないことってあるし――そういうときは人のこと頼ってもいいじゃないですか。ただでさえ、犬飼さんはいつも厳しくて、何でも抱え込んじゃうタイプなのに……」
しょんぼりとしながらも、羽柴は真摯にそのような言葉を言ってのけた。
犬飼は目を細めて、感じたままに呟く。
「人の心に入り込むのが上手いな、君は」
「ちょ、どういうことです!?」
「どういうことも何も、そのままの意味だ」
「ええ~っ」
羽柴が情けない声を漏らす一方、犬飼はフッと笑みを浮かべた。
こうも真っ直ぐだと、こちらもどう接したらいいのか、ますますわからなくなってしまう。
しかし、悪い気はしなかった。むしろ心地いいとすら思えるのだから、不思議なものだ。
(まったく、厄介な感情だ)
内心でぼやくも、羽柴の目をしっかりと見据える。戸惑いはあるにせよ――今はただ、純粋な気持ちを正直に伝えたいと思った。
「でもまあ、羽柴の気遣いにはいつも感謝している。……ありがとう」
「!」
はっきりと告げれば、羽柴が大きく目を見開いて、じわじわと頬を紅潮させる。ややあって、照れくさそうに頭をかいてみせた。
「なんか……照れます」
この男ときたら何なのだろう。そんな反応を見てしまうと、こちらまで妙な気分になってしまうではないか。
「………………」
犬飼は胸の高鳴りを覚えて、同じように頭をかいた。
大の男が二人で照れ合っているだなんて、滑稽にもほどがある。が、羽柴は「あの……」と、さらなる追い打ちをかけてくるのだった。
「い、犬飼さんがよかったらなんですけど。今度の休み、一緒にどこか出かけませんか?」
……もう少しスマートに誘えばいいものを。
こんなタイミングで、なんともわかりやすい誘いだ。打って変わって、今度はこちらがドキリとさせられる。
「それは、デー……」
「もちろんプレイの練習も兼ねてっていうか! たまには気分転換もどうかなって……ははっ、ぶっちゃけ俺が遊びたいだけなんすけど。駄目っすかね?」
「デートということで構わないのか」と尋ねようとしたのだが、まくし立てるように遮られてしまった。
格好がつかないが、羽柴らしいといえば羽柴らしい。なおも期待に満ちた眼差しを向けてくるものだから、大型犬でも相手にしているような気分になる。
もっとも、そこに込められた意味を察せぬほど、鈍感ではないつもりだ。
(そうだった。この男は死ぬほど不器用なくせに、いつだって一生懸命で――)
柄にもなく浮かれているあたり、認めざるを得ないだろう。
淡い感情だったはずのものが、いつの間にか自分のなかで確かな熱をもっている。顔が熱いのは、なにもアルコールのせいだけではない。
「そうだな。たまには外をぶらつくのも悪くない」
「っし!」
犬飼が頷くと、羽柴は嬉しそうに拳を握り締めた。
それから、いそいそとスマートフォンを取り出したので、こちらも足を止めてやる。どうやらスケジュールを確認しているらしいが、やたらと上機嫌で鼻歌混じりだ。
(ったく、子供じゃあるまいし。どうして俺なんかを、ここまで慕ってくれるんだか)
呆れ半分、嬉しさ半分といったところか。ただ、羽柴の無邪気な笑顔を見ていると、自然と口元が緩んでしまうからどうしようもなかった。
そうして互いの予定をすり合わせたあと、羽柴とは駅のホームで別れることになる。
「おやすみなさい、犬飼さん。気をつけて帰ってくださいね!」
「ああ、おやすみ」
ぶんぶんと手を振りつつ、羽柴が反対方向に歩いていく。つられて犬飼も手を振り返してから、電車に乗り込むのだった。
「むしろ、こっちが寂しくなるっていうか。人間、どうにもならないことってあるし――そういうときは人のこと頼ってもいいじゃないですか。ただでさえ、犬飼さんはいつも厳しくて、何でも抱え込んじゃうタイプなのに……」
しょんぼりとしながらも、羽柴は真摯にそのような言葉を言ってのけた。
犬飼は目を細めて、感じたままに呟く。
「人の心に入り込むのが上手いな、君は」
「ちょ、どういうことです!?」
「どういうことも何も、そのままの意味だ」
「ええ~っ」
羽柴が情けない声を漏らす一方、犬飼はフッと笑みを浮かべた。
こうも真っ直ぐだと、こちらもどう接したらいいのか、ますますわからなくなってしまう。
しかし、悪い気はしなかった。むしろ心地いいとすら思えるのだから、不思議なものだ。
(まったく、厄介な感情だ)
内心でぼやくも、羽柴の目をしっかりと見据える。戸惑いはあるにせよ――今はただ、純粋な気持ちを正直に伝えたいと思った。
「でもまあ、羽柴の気遣いにはいつも感謝している。……ありがとう」
「!」
はっきりと告げれば、羽柴が大きく目を見開いて、じわじわと頬を紅潮させる。ややあって、照れくさそうに頭をかいてみせた。
「なんか……照れます」
この男ときたら何なのだろう。そんな反応を見てしまうと、こちらまで妙な気分になってしまうではないか。
「………………」
犬飼は胸の高鳴りを覚えて、同じように頭をかいた。
大の男が二人で照れ合っているだなんて、滑稽にもほどがある。が、羽柴は「あの……」と、さらなる追い打ちをかけてくるのだった。
「い、犬飼さんがよかったらなんですけど。今度の休み、一緒にどこか出かけませんか?」
……もう少しスマートに誘えばいいものを。
こんなタイミングで、なんともわかりやすい誘いだ。打って変わって、今度はこちらがドキリとさせられる。
「それは、デー……」
「もちろんプレイの練習も兼ねてっていうか! たまには気分転換もどうかなって……ははっ、ぶっちゃけ俺が遊びたいだけなんすけど。駄目っすかね?」
「デートということで構わないのか」と尋ねようとしたのだが、まくし立てるように遮られてしまった。
格好がつかないが、羽柴らしいといえば羽柴らしい。なおも期待に満ちた眼差しを向けてくるものだから、大型犬でも相手にしているような気分になる。
もっとも、そこに込められた意味を察せぬほど、鈍感ではないつもりだ。
(そうだった。この男は死ぬほど不器用なくせに、いつだって一生懸命で――)
柄にもなく浮かれているあたり、認めざるを得ないだろう。
淡い感情だったはずのものが、いつの間にか自分のなかで確かな熱をもっている。顔が熱いのは、なにもアルコールのせいだけではない。
「そうだな。たまには外をぶらつくのも悪くない」
「っし!」
犬飼が頷くと、羽柴は嬉しそうに拳を握り締めた。
それから、いそいそとスマートフォンを取り出したので、こちらも足を止めてやる。どうやらスケジュールを確認しているらしいが、やたらと上機嫌で鼻歌混じりだ。
(ったく、子供じゃあるまいし。どうして俺なんかを、ここまで慕ってくれるんだか)
呆れ半分、嬉しさ半分といったところか。ただ、羽柴の無邪気な笑顔を見ていると、自然と口元が緩んでしまうからどうしようもなかった。
そうして互いの予定をすり合わせたあと、羽柴とは駅のホームで別れることになる。
「おやすみなさい、犬飼さん。気をつけて帰ってくださいね!」
「ああ、おやすみ」
ぶんぶんと手を振りつつ、羽柴が反対方向に歩いていく。つられて犬飼も手を振り返してから、電車に乗り込むのだった。
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