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第9話 やっと隣に並べた(2)
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「にしても、二人してピュアすぎて妬けちゃう。幼馴染みの子、忍耐強いっていうか……随分とアナタのこと大切にしてるのね」
口の端に付いたソースを親指で拭いながら、琥太郎が言う。照れくさくてどう返事をしたものか悩んでいたら、クスッと笑われた。
「な、なんすか」
「ふふ、可愛いなあと思って」
「うーん、そう言われるとなんか複雑っつーか」
「やだ、純粋に恋してるのが伝わってきて羨ましいのよ。男同士って続かないものだし、なかなか珍しいわよ?」
「えっ、うそ!?」
「そりゃそうでしょ。結婚もできなけりゃ、子供だって作れないし、『やっぱり女がいい』って言われたら終わりだもの……って、もしかしてビビらせちゃったかしら?」
琥太郎の言うことはもっともだ。そういった障害があることもわかっている。
が、千佳は首を横に振って否定した。
「そんなわかんねーこと気にしてるの、楽しい“今”が勿体ないと思うし」
楽観的といえばそれまでだ。けれども、難しいことなんてまだ考えられないし、悔いのないよう、今は“今”だけの時間を楽しみたいと思う。
それに、十年以上ずっと一緒だったからこそ信じられる――明となら、これから先もきっと大丈夫だと。たとえ、どのような障害があろうとも。
「あ~、ほんっと眩しい。ご飯奢ってくれるって話だったのに、ノロケまでご馳走になるとはね」
「これノロケなんすか!?」
「ノロケでしょ。はあ、若いっていいなあ」
「そんな歳変わんないでしょうに」
「もう、変わるわよっ。アタシもそんな青春、過ごせるものなら過ごしたかったし」
琥太郎はため息をついて、残りのハンバーガーを一気に頬張る。そして、紙ナプキンで口元を綺麗にすると、「ご馳走様でした」と手を合わせた。
「さてと。アオハルなお話も聞けたことだし、そろそろお暇しますか」
「あ、ハンバーガーで申し訳ないんすけど、マジありがとうございました!」
「あらま、そんなのいいわよ~。楽しかったし、高校生のお財布事情はわかってるもの。その代わりに――」
「え? ちょっ……!?」
琥太郎が妖艶に微笑んだかと思えば、千佳の首筋に顔を近づけてきた。次いで、濡れた感触とともに痺れるような鈍痛が走る。
「言ったでしょ、可愛い子が好きって。これくらいはお礼に……ね?」
唇を離すなり、琥太郎はイタズラっぽい表情で舌舐めずりをした。
千佳は嫌な予感がして、スマートフォンのカメラアプリで確認してみる。信じられないことに、千佳の首元には赤い鬱血痕が残されていた。
「ききっ、キスマーク!?」
「心配しなくても、軽くだからすぐ消えるわよ。じゃあね~」
琥太郎はクスッと笑い、手を振りながら颯爽と立ち去っていく。残された千佳は、ただ呆然とするのだった。
口の端に付いたソースを親指で拭いながら、琥太郎が言う。照れくさくてどう返事をしたものか悩んでいたら、クスッと笑われた。
「な、なんすか」
「ふふ、可愛いなあと思って」
「うーん、そう言われるとなんか複雑っつーか」
「やだ、純粋に恋してるのが伝わってきて羨ましいのよ。男同士って続かないものだし、なかなか珍しいわよ?」
「えっ、うそ!?」
「そりゃそうでしょ。結婚もできなけりゃ、子供だって作れないし、『やっぱり女がいい』って言われたら終わりだもの……って、もしかしてビビらせちゃったかしら?」
琥太郎の言うことはもっともだ。そういった障害があることもわかっている。
が、千佳は首を横に振って否定した。
「そんなわかんねーこと気にしてるの、楽しい“今”が勿体ないと思うし」
楽観的といえばそれまでだ。けれども、難しいことなんてまだ考えられないし、悔いのないよう、今は“今”だけの時間を楽しみたいと思う。
それに、十年以上ずっと一緒だったからこそ信じられる――明となら、これから先もきっと大丈夫だと。たとえ、どのような障害があろうとも。
「あ~、ほんっと眩しい。ご飯奢ってくれるって話だったのに、ノロケまでご馳走になるとはね」
「これノロケなんすか!?」
「ノロケでしょ。はあ、若いっていいなあ」
「そんな歳変わんないでしょうに」
「もう、変わるわよっ。アタシもそんな青春、過ごせるものなら過ごしたかったし」
琥太郎はため息をついて、残りのハンバーガーを一気に頬張る。そして、紙ナプキンで口元を綺麗にすると、「ご馳走様でした」と手を合わせた。
「さてと。アオハルなお話も聞けたことだし、そろそろお暇しますか」
「あ、ハンバーガーで申し訳ないんすけど、マジありがとうございました!」
「あらま、そんなのいいわよ~。楽しかったし、高校生のお財布事情はわかってるもの。その代わりに――」
「え? ちょっ……!?」
琥太郎が妖艶に微笑んだかと思えば、千佳の首筋に顔を近づけてきた。次いで、濡れた感触とともに痺れるような鈍痛が走る。
「言ったでしょ、可愛い子が好きって。これくらいはお礼に……ね?」
唇を離すなり、琥太郎はイタズラっぽい表情で舌舐めずりをした。
千佳は嫌な予感がして、スマートフォンのカメラアプリで確認してみる。信じられないことに、千佳の首元には赤い鬱血痕が残されていた。
「ききっ、キスマーク!?」
「心配しなくても、軽くだからすぐ消えるわよ。じゃあね~」
琥太郎はクスッと笑い、手を振りながら颯爽と立ち去っていく。残された千佳は、ただ呆然とするのだった。
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