21 / 77
第4話 幼馴染みには戻れない(3)
しおりを挟む
(お前の言うとおりだっての)
最悪なのはこちらの方だ。後ろめたいことを隠しておきながら、相手に心配をかけさせ、挙げ句の果てには怒鳴りつけてしまった。明への想いを自覚してからというものの、自分の心がどうにも制御できない。
己の不甲斐なさに、だんだんと泣きたい気分になってくる――自己嫌悪に陥りかけたそのとき、
「悪かった」
ぽん、と頭の上に、明の大きな手が乗せられた。
「とにかく、なんかあったとしても無理すんなよ。そんで元気出せ」
そのまま優しく撫でられてドキッとする。すぐに明は離れていったけれど、心地のいい感触に千佳の胸はいっぱいになった。
(ああ、どうしよう――好きだ……)
明のこういった一面に、すこぶる自分は弱いのだと実感させられる。もう何度だって、それこそ幼いときからずっと。
「こっちこそごめん……それから、あんがとな」
なんだか少しだけいつもの二人に戻れた気がして、千佳は返事をしながら明の隣に並んだのだった。
その後、ファミリーレストランで昼食をとり、書店に立ち寄る流れになった。
千佳は雑誌、明は文庫本……と、それぞれ目的とする分野が違うので、店内に入ってからは別行動である。
千佳が向かった先は、雑誌コーナーの中でも特にきらびやかな印象のある《女性ファッション誌》の棚だった。
(フラゲできるといいんだけどなあ、『mom-mo』――)
女性ファッション誌『mom-mo』は、千佳の《推しメン》である《萌木坂46》の“さっちん”が専属モデルを務めている。千佳にとってそれ以上の関心はないが、つい手に取ってしまうのがファン心理というものだ。
(あった!)
最新号の早売りを見つけて、千佳はすかさず手に取った。
表紙を飾る“さっちん”の姿は表現できないほどに愛らしく、「推しが尊い」という言葉しか浮かんでこない。しかも、初となる単独カバーで特集まで組まれている――ファンとしては何とも喜ばしいことだった。
(くうう……速攻レジに持っていくか、それとも立ち読みしていくかっ)
と、迷いに迷ってうろうろしていたら、不意に誰かとぶつかってしまった。「すみません」と相手の方を見ると、それは見覚えのある人物だった。
「ああ、ごめんなさいね……って、あら?」
向こうも気づいたようで、まさかの再会に目を丸くする。シルバーマッシュの髪をした男――以前、ラブホテル街で出会った《オネエ系》だった。
(こ、こんなことある!?)
なんという偶然だろう。あのときのことを思い出し、千佳は反射的に距離を取る。それから軽く会釈をして、そそくさと去ろうとしたのだが、
「……“さっちん”好きなの?」
最悪なのはこちらの方だ。後ろめたいことを隠しておきながら、相手に心配をかけさせ、挙げ句の果てには怒鳴りつけてしまった。明への想いを自覚してからというものの、自分の心がどうにも制御できない。
己の不甲斐なさに、だんだんと泣きたい気分になってくる――自己嫌悪に陥りかけたそのとき、
「悪かった」
ぽん、と頭の上に、明の大きな手が乗せられた。
「とにかく、なんかあったとしても無理すんなよ。そんで元気出せ」
そのまま優しく撫でられてドキッとする。すぐに明は離れていったけれど、心地のいい感触に千佳の胸はいっぱいになった。
(ああ、どうしよう――好きだ……)
明のこういった一面に、すこぶる自分は弱いのだと実感させられる。もう何度だって、それこそ幼いときからずっと。
「こっちこそごめん……それから、あんがとな」
なんだか少しだけいつもの二人に戻れた気がして、千佳は返事をしながら明の隣に並んだのだった。
その後、ファミリーレストランで昼食をとり、書店に立ち寄る流れになった。
千佳は雑誌、明は文庫本……と、それぞれ目的とする分野が違うので、店内に入ってからは別行動である。
千佳が向かった先は、雑誌コーナーの中でも特にきらびやかな印象のある《女性ファッション誌》の棚だった。
(フラゲできるといいんだけどなあ、『mom-mo』――)
女性ファッション誌『mom-mo』は、千佳の《推しメン》である《萌木坂46》の“さっちん”が専属モデルを務めている。千佳にとってそれ以上の関心はないが、つい手に取ってしまうのがファン心理というものだ。
(あった!)
最新号の早売りを見つけて、千佳はすかさず手に取った。
表紙を飾る“さっちん”の姿は表現できないほどに愛らしく、「推しが尊い」という言葉しか浮かんでこない。しかも、初となる単独カバーで特集まで組まれている――ファンとしては何とも喜ばしいことだった。
(くうう……速攻レジに持っていくか、それとも立ち読みしていくかっ)
と、迷いに迷ってうろうろしていたら、不意に誰かとぶつかってしまった。「すみません」と相手の方を見ると、それは見覚えのある人物だった。
「ああ、ごめんなさいね……って、あら?」
向こうも気づいたようで、まさかの再会に目を丸くする。シルバーマッシュの髪をした男――以前、ラブホテル街で出会った《オネエ系》だった。
(こ、こんなことある!?)
なんという偶然だろう。あのときのことを思い出し、千佳は反射的に距離を取る。それから軽く会釈をして、そそくさと去ろうとしたのだが、
「……“さっちん”好きなの?」
2
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
猫をかぶるにも程がある
如月自由
BL
陽キャ大学生の橘千冬には悩みがある。声フェチを拗らせすぎて、女性向けシチュエーションボイスでしか抜けなくなってしまったという悩みが。
千冬はある日、いい声を持つ陰キャ大学生・綱島一樹と知り合い、一夜の過ちをきっかけに付き合い始めることになる。自分が男を好きになれるのか。そう訝っていた千冬だったが、大好きオーラ全開の一樹にほだされ、気付かぬうちにゆっくり心惹かれていく。
しかし、弱気で優しい男に見えた一樹には、実はとんでもない二面性があって――!?
ノンケの陽キャ大学生がバリタチの陰キャ大学生に美味しく頂かれて溺愛される話。または、暗い過去を持つメンヘラクズ男が圧倒的光属性の好青年に救われるまでの話。
ムーンライトノベルズでも公開しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる