幼馴染みとアオハル恋事情

有村千代

文字の大きさ
上 下
3 / 77

第1話 好きなヤツいるから(3)

しおりを挟む
 明が踵を返す。話はこれで終わりだ、と背中が語っていた。
 単純に関心がないのだろう。これまでも何人もの女子が明に告白していたようだが、そのすべてを彼は断っていた。
(だからこそ、こうして一緒にいてバカやってられるんだけど。でも、性欲とかねーの? 男としてあり得なくない?)
 ふと下劣なことを考えてしまう。
 普段が淡泊なだけに想像がつかないけれど、そこまであの男は枯れているのだろうか。健全な男子として、さすがにそれはないと思いたいが。
(どの子もタイプじゃねーのかな? 中原さんまでフるとか正気かよ……)
 中原の愛らしい容姿を考えれば、どうにも信じられない。モテる男の考えることが理解できなくて、千佳は頭を抱えるのだった。



 その日の授業が終わって放課後。いつもならクラスメイトとともに下校するのだが、今日ばかりは気が進まなかった。
(俺に隠れて付き合うとかいう流れにならねーだろうな? そんなん許してたまるかっ)
 頭にあるのは明と中原の一件だ。中原に会えば、あの明も手のひらを返すのではないか――気になって、千佳はこっそりと廊下の角で見張ることにしたのだった。
 しばらくすると中原が教室にやって来て、千佳もドアの前へ移動する。ソワソワとしながら聞き耳を立てた。
「私、瀬川くんのことが好きなの。私と付き合ってください!」
 わああっ、と叫びたい気持ちになる。こんな告白を受けて断れる男がいるのだろうか。
「悪い」
 ――いた。
(マジかよ! 別に付き合ってほしいワケじゃねーし、むしろ付き合うなって感じだけど……マジかよ!?)
 困惑しつつも、ホッと胸を撫で下ろす。やはり何というか、明の隣に特別な女子がいる光景は想像つかないものがある。
「あ……ううん、こっちこそ突然ごめんね。もしかして彼女いた?」
「いや、いないけど」
(はいはい、関心がないからってね!)
 そう高を括っていたが、続く言葉は予想だにしないものだった。
「好きなヤツ、いるから」
 瞬間、心臓がドクンッと脈打った。
 驚きのあまり窓から教室を覗けば、切なげな表情を浮かべている明がいた。初めて見る彼の表情に、千佳は動揺を隠しきれない。
(……恋、してるんだ)
 率直にそう思った。自分が中原に感じていた感情とは、きっと度合いが違うだろう。
 しかし、好きな人ができたなんて聞いていない。千佳からは事あるごとに話してきたが、明の口からそういった話は一つも出てこなかった。
(なんか、モヤモヤする)
 中原に対してではない。明に対してだ。
 自分の知らない明がいると考えただけで、心がざわついてしまう。もはや二人の会話など耳に入らなくて、静かにその場を離れたのだった。
しおりを挟む
□おまけイラスト・漫画はコチラから
https://poipiku.com/401008/
感想 0

あなたにおすすめの小説

恋愛対象

すずかけあおい
BL
俺は周助が好き。でも周助が好きなのは俺じゃない。 攻めに片想いする受けの話です。ハッピーエンドです。 〔攻め〕周助(しゅうすけ) 〔受け〕理津(りつ)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

「誕生日前日に世界が始まる」

悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です) 凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^ ほっこり読んでいただけたら♡ 幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡ →書きたくなって番外編に少し続けました。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...