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第5話 先輩と、ひとつになりたい(7)
しおりを挟む後始末を終えると、不破は犬塚にミネラルウォーターのペットボトルを渡した。それを受け取るなり、犬塚はごくごくと音を鳴らして喉を潤していく。
「体、平気か?」隣に腰掛けながら、不破が問いかける。
犬塚はベッドの上で布団にくるまっていた。事後の余韻に浸っているのか、先ほどから服も着ないでこの調子だ。不破にしたって上半身裸でいるのだから、人のことは言えないが。
「思ったよりへーきですっ。先輩がやさしくしてくれたから」
答えつつ、犬塚が無邪気な笑顔を向けてくる。
初めてのセックス、しかも受け入れる側としてあれだけ激しくされたのだ。体への負担があるだろうに、おくびにも出さないのだから大したものである。
「なに言ってんだよ、ほとんどお前が頑張ってくれたおかげだろ? ほーら、こっち来てご褒美」
と、犬塚の体を布団ごと横から抱きしめる。そのまま首筋や肩口にキスを落としていけば、くすぐったがりながらも嬉しそうな反応を見せた。
「やっぱりだ」ふと犬塚が呟く。
「何が?」
訊き返すと、クスクスという笑い声が返ってきた。犬塚はこちらを見上げながら答える。
「先輩、初めて会ったときと印象変わったなあって。なんか、コワモテじゃなくな――あっ、ちがうちがう!」
「……今、コワモテつったか?」
「明るくなった! 明るくなった、です! 顔つきからして違うってゆーか!」
何を言うのかと思えば、そんなことか――と思ってしまった。
犬塚の言うとおり、どこか不破自身もそう感じている節があった。勿論、心当たりなんて一つしかない。
「俺が変わったってんなら、それは犬塚のおかげだな」
「俺の?」
きょとんとした表情を見せる犬塚に、不破は微笑みを浮かべた。
「そりゃ、お前といると楽しいし、心だって安らぐし? なんか俺までガキくさくなるっつーか」
「よ、余計! 余計なこと言ってるっ!」
「はは、わりィ」
笑い交じりに不破が謝ると、犬塚は頬をぷくっと膨らませる。
しかし、それも束の間だった――すぐに笑顔が戻ってきて二人して笑い合う。そしてまた、満ち足りた気持ちになっていくのだ。
(コイツと出会えてなかったら、今の俺もいなかったんだろうな)
今まで生きてきて、誰かと付き合って、こんなにも一人の人間に夢中になったのは初めてだった。
犬塚拓哉という男は、自分にはもったいないくらいの相手だと思う。「可愛い」だの「エロい」だの――勿論、そういったところも含めて好きだが――なにも外見的要因だけで好きになったわけではない。
子供のような純粋さと明るさを持ち合わせていながらも、どこまでも健気で、じつは芯が強い一面もある。不破にとっては何もかも眩しく、魅力的に思えてならないのだ。
確かに、最初は単なる後輩でしかなかった。それも、若干鬱陶しさを感じるような。
だが、彼のことを知れば知るほど惹かれる自分がいて、もはやかけがえのない存在になっている。始まりこそ、ちょっとしたきっかけに過ぎなかったけれど、今ではその出会いに感謝したい気分だ。
「ありがとな、俺にこんな気持ちを教えてくれて」
不破は素直な想いを口にする。
すると腕の中の犬塚は、恥ずかしげに、けれど嬉しそうにはにかんで言った。
「俺もおんなじ気持ちです。これからもたくさん、よろしくおねがいしますっ!」
きっとこれからも、自分はこの愛らしい恋人に振り回され続けるのだろう。しかし、そんな日々も悪くない。
――こちらこそ、末永くよろしく。
不破は笑い返し、唇に優しく口づけたのだった。
fin.
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