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第4話 女の子だったら…よかったのかな(4)
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「や、先ぱ……見られちゃ……」
「いーから少し落ち着け、犬塚」
不破の温かい体温が伝わってくる。頭を撫でてくれる大きな手が心地よく、高まっていた感情が少しずつ落ち着いていくのを感じた。
それからしばらくして、ようやく犬塚の嗚咽が止んだ頃。不破はそれを見計らっていたかのごとく身を離して、ゆっくりと口を開いた。
「『やなこと』ってなに? 一体、どうしちまったんだよ?」
「……言ったら、先輩に怒られそう」
「怒んねェから、なんでも言えよ。俺はお前の彼氏なんだろ?」
「先輩……」
そんなふうに言われたら、言わないわけにはいかなくなる。もう観念するほかないだろう。
覚悟を決めると、犬塚は内に秘めた想いをぽつりぽつりと話していった。
不破は最初こそ穏やかな表情で耳を傾けていたものの、次第にその顔つきが険しくなっていく。すべて話終えたときには、眉間に深いシワがすっかり刻まれていた。
「バッカ野郎! 付き合ってるうちから、ンなこと考えんなよ!?」
「怒った! やっぱり怒ったあ!」
――予想どおりの反応だ。やはり言うんじゃなかった。
犬塚は体を縮こまらせて後悔したが、時すでに遅し。不破に嫌われてしまったら元も子もないというのに。
「ったく、信じらんねえ! そりゃあ付き合ってれば、別れることもあるかもしんねェけどよっ。俺だって元カノ……」
そこで、不破はハッとした様子で口をつぐんだ。
「あー、そうか。俺が不安にさせちまってたんだな……悪かった」
そう続けて、申し訳なさそうに謝ってくる。
聞けば、帰り際に水族館で話していた相手は、不破の元カノなのだという。なんとなく察しがついていたが、どうりで言葉を濁すわけだ。デート中のことだったし、こちらを気遣ってくれていたのだろう。
「いえ、勝手に俺がモヤモヤしちゃっただけでっ。それに俺、男だし――」
「そんなの関係ねェよ。犬塚は犬塚だろ」
「でも、でもでもっ」
先輩にはもっとふさわしい人が――喉まで出かかった言葉を呑みこむ。さすがに、それを言ってしまったらもう終わりだ。
思わず押し黙っていたら、頭上からため息が降ってきてギクリとした。
呆れられたかもしれない。面倒くさいと思われたかもしれない。そんな不安に駆られる。
「あーあ、捨てられた子犬みてェな顔しちまって」
ところが、不破は優しく微笑んでくれた。頭に手を乗せられると同時に、わしわしと髪をかき混ぜるようにして撫でまわされる。
「あ、あの?」
「なあ、犬塚。お前が高校卒業したらルームシェアでもすっか?」
「は……はいっ?」
突飛な提案に目を丸くする。あまりに脈絡がなく、何故そのような話になったのだろうか、と頭にクエスチョンマークを並べているうちにも話は進んでいく。
「大学はできれば同じとこがいいよな、希望する学科があればだけど。そんで、俺は就職もこのまま都内にするつもりだから、そっちも問題なし。あとはまァ、《パートナーシップ制度》っての? 別に誰かに認めてもらう必要はねェけど、いずれは……」
「ま、待って、先輩! 急になに言っちゃってるの!?」
いくらなんでも飛躍しすぎて、理解が追いついていかない。
しかし、当人は真剣そのものといった面持ちで、
「なにって……お前との将来の話だろ? だって、この先もずっと一緒がいいもんな」
などと、さらりと言ってくるものだから困ってしまう。
「いーから少し落ち着け、犬塚」
不破の温かい体温が伝わってくる。頭を撫でてくれる大きな手が心地よく、高まっていた感情が少しずつ落ち着いていくのを感じた。
それからしばらくして、ようやく犬塚の嗚咽が止んだ頃。不破はそれを見計らっていたかのごとく身を離して、ゆっくりと口を開いた。
「『やなこと』ってなに? 一体、どうしちまったんだよ?」
「……言ったら、先輩に怒られそう」
「怒んねェから、なんでも言えよ。俺はお前の彼氏なんだろ?」
「先輩……」
そんなふうに言われたら、言わないわけにはいかなくなる。もう観念するほかないだろう。
覚悟を決めると、犬塚は内に秘めた想いをぽつりぽつりと話していった。
不破は最初こそ穏やかな表情で耳を傾けていたものの、次第にその顔つきが険しくなっていく。すべて話終えたときには、眉間に深いシワがすっかり刻まれていた。
「バッカ野郎! 付き合ってるうちから、ンなこと考えんなよ!?」
「怒った! やっぱり怒ったあ!」
――予想どおりの反応だ。やはり言うんじゃなかった。
犬塚は体を縮こまらせて後悔したが、時すでに遅し。不破に嫌われてしまったら元も子もないというのに。
「ったく、信じらんねえ! そりゃあ付き合ってれば、別れることもあるかもしんねェけどよっ。俺だって元カノ……」
そこで、不破はハッとした様子で口をつぐんだ。
「あー、そうか。俺が不安にさせちまってたんだな……悪かった」
そう続けて、申し訳なさそうに謝ってくる。
聞けば、帰り際に水族館で話していた相手は、不破の元カノなのだという。なんとなく察しがついていたが、どうりで言葉を濁すわけだ。デート中のことだったし、こちらを気遣ってくれていたのだろう。
「いえ、勝手に俺がモヤモヤしちゃっただけでっ。それに俺、男だし――」
「そんなの関係ねェよ。犬塚は犬塚だろ」
「でも、でもでもっ」
先輩にはもっとふさわしい人が――喉まで出かかった言葉を呑みこむ。さすがに、それを言ってしまったらもう終わりだ。
思わず押し黙っていたら、頭上からため息が降ってきてギクリとした。
呆れられたかもしれない。面倒くさいと思われたかもしれない。そんな不安に駆られる。
「あーあ、捨てられた子犬みてェな顔しちまって」
ところが、不破は優しく微笑んでくれた。頭に手を乗せられると同時に、わしわしと髪をかき混ぜるようにして撫でまわされる。
「あ、あの?」
「なあ、犬塚。お前が高校卒業したらルームシェアでもすっか?」
「は……はいっ?」
突飛な提案に目を丸くする。あまりに脈絡がなく、何故そのような話になったのだろうか、と頭にクエスチョンマークを並べているうちにも話は進んでいく。
「大学はできれば同じとこがいいよな、希望する学科があればだけど。そんで、俺は就職もこのまま都内にするつもりだから、そっちも問題なし。あとはまァ、《パートナーシップ制度》っての? 別に誰かに認めてもらう必要はねェけど、いずれは……」
「ま、待って、先輩! 急になに言っちゃってるの!?」
いくらなんでも飛躍しすぎて、理解が追いついていかない。
しかし、当人は真剣そのものといった面持ちで、
「なにって……お前との将来の話だろ? だって、この先もずっと一緒がいいもんな」
などと、さらりと言ってくるものだから困ってしまう。
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