ほだされ兄貴とわんこ舎弟。

有村千代

文字の大きさ
上 下
14 / 37

第3話 いちゃいちゃ、したくなっちゃって(2)

しおりを挟む
「………………」
 さらりと衝撃の事実が明かされた気がする。
 なんでも父親は仕事人間で家にほとんど帰ってこないため、家事の類は必然的に自分が担うようになったのだと言う。さらには、歳の離れた弟と妹がいて、彼らの面倒を見るのも自分なのだと。
 それを聞いた不破は、どこか胸が締めつけられるような気持ちになる。まさかそんな家庭環境にあったとは――付き合い始めて二週間が経つが、まだまだ知らないことだらけだ。
「そうだ、これも言っておかなきゃなんですけど」
 ぼんやりとしていたら、犬塚が思い出したように切り出した。
「先輩と……でぇと、とかもしたいんですが、なかなか都合がつかなくって。お父さんが休みの日じゃないと……」
 ごめんなさい、と犬塚は申し訳なさそうにしゅんと肩を落とす。別に気にすることなど、何一つないというのに。
「ゆっくりでいーよ。つか、その歳で家のことやってるなんて偉いな」
 不破が頭を撫でると、犬塚はホッとした顔になった。そして、そのまま甘えるようにすり寄ってくる。
「ありがとうございます――先輩、やさしい」
「べ、つに。思ったこと言っただけだし」
「へへ……先輩のそういったところ好きだなあって思います」
 不意打ちの告白に、不破の心臓が大きく跳ねた。
 犬塚はおそらく天然なのだろう――それもかなりのレベルの。本人に自覚がないぶん、余計にタチが悪い。
(あークソッ! 可愛いかよ!)
 こうして好意を示されるたび、胸の奥がむずむずと痒くなる。他人の言動にいちいち振り回されるなんて自分らしくないけれども、こればかりは仕方ない。
 不破にとって、犬塚は間違いなく特別な存在だ。理屈ではなく、直感的にそう思う。彼の前では平静を装うこともままならないし、どうにも格好悪い姿を見せてしまうのだ。
「なあ、犬塚。キスしてェんだけど」
 互いに昼食を終えたところで、ふと湧き上がった衝動を告げる。すると、犬塚の顔がじわじわと赤くなった。
「は、はい……っ」
 こくりと頷くと、犬塚はぎゅうっと音が聞こえそうな勢いで目を閉じる。
 不破は思わず苦笑しつつ、そろりと身を乗り出して距離を詰めた。それから犬塚の頬に触れて、ゆっくりと顔を近づけていく。互いの唇が触れ合うまであと数センチ、といったところで、
「やっぱり待って! アメ舐めてからでいいですか!?」
「……あ?」
「お弁当食べたばっかだし、味とか匂いとかっ」
 犬塚が突然何か言い出したかと思えば、慌ただしくズボンのポケットの中を探り出す。
「おい、そんなの気にしないって」
 そう言うも、犬塚は聞く耳を持ってはくれない。取り出したキャンディの包みを開いて、ぱくっと口の中に放ってしまうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

処理中です...