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第3話 いちゃいちゃ、したくなっちゃって(1)
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前回までのあらすじ――いや、これはもういい。突然だが、《自称舎弟》の犬塚拓哉と付き合うことになった。周囲からはすっかり舎弟として認知され、もはや話題にも上がらないレベルになってしまったが、何を隠そう二人は恋人になったのである。
「不破先輩、パン買ってきました! 一緒にお昼食べましょう!」
今日も今日とて、三年生の教室に犬塚の元気な声が響く。
今だって、クラスメイトからは使いっぱしりのように思われているのかもしれない。が、当の本人たちは――最初こそ周囲の目を気にしていた不破も――ちっとも気にしていなかった。
いや、むしろそう思ってくれていた方が好都合だ。こうして互いの教室を行き来するのにも、何ら違和感はないのだから。
(ま、さすがに人前でイチャつくのは無理あっけどな)
男同士以前の問題として、だ。そこで不破は提案した。
「たまには別のとこで食おうぜ」
そう言って、犬塚とともに向かったのは、屋上へと続く階段の踊り場だった。
屋上は閉鎖されているし、こんな場所にわざわざ来る生徒なんてそういない。同じ考えの先客が来ていたとしても、そこは何も言わずに譲るのが暗黙の了解というものだ。
壁際に座り込むと、不破は総菜パンの封を切った。犬塚も隣に座ってきて、弁当を膝の上に広げる。
(相変わらず、美味そうなモン食ってんな)
ぼんやりと考えていたら、不意に犬塚がこちらを見上げてきた。どうやら視線に気がついたらしい。
「あのっ、よかったら一口食べてみませんか?」
「いいのか?」
「先輩、いつもパンとかおにぎりだから飽きちゃうかなーって。それに、今日の卵焼きはちょっと自信作なんですっ」
「は? ちょっと待て……お前、自分で弁当作ってたのかよ!?」
「えっ? そうですけど?」
それがどうかしたんですか、と言わんばかりに、きょとんと首を傾げられる。普通は母親に作ってもらうものではないだろうか。同じ男子高校生として信じられない。
不破は改めて、犬塚が作ったという弁当を見る。玉子焼き、ウインナー、ベーコンのアスパラ巻き、プチトマト……まさに定番中の定番といったラインナップだが、手づくり弁当ならではの温かみを感じた。
「お前がいいって言うなら、食ってみてェ」
「はい、どーぞっ!」
犬塚が卵焼きを箸で摘まんで差し出してくる。特に照れた様子もなく、ひたすらにまっすぐな眼差しで見つめてくるのだが、これはいわゆる「あーん」というやつではないか。
(こんなことで動揺するとか、小学生かよ……)
不破は内心どぎまぎしつつも、意を決してぱくりと食らいつく。瞬間、卵のいい香りが鼻腔をくすぐって、ほんのりと甘い味が舌の上に広がった。
「美味いな」
「えへへ、やったあ!」
正直な感想を口にしたら、犬塚は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。見た目からして美味しそうだとは思っていたが、味も文句なしの逸品だった。
「いや、マジか……ちょっと意外っつーか。お前、料理とかできたんだな?」
「ああ、うち両親が離婚してて父子家庭なんですよ。それで、家事は俺が担当してるんです」
「不破先輩、パン買ってきました! 一緒にお昼食べましょう!」
今日も今日とて、三年生の教室に犬塚の元気な声が響く。
今だって、クラスメイトからは使いっぱしりのように思われているのかもしれない。が、当の本人たちは――最初こそ周囲の目を気にしていた不破も――ちっとも気にしていなかった。
いや、むしろそう思ってくれていた方が好都合だ。こうして互いの教室を行き来するのにも、何ら違和感はないのだから。
(ま、さすがに人前でイチャつくのは無理あっけどな)
男同士以前の問題として、だ。そこで不破は提案した。
「たまには別のとこで食おうぜ」
そう言って、犬塚とともに向かったのは、屋上へと続く階段の踊り場だった。
屋上は閉鎖されているし、こんな場所にわざわざ来る生徒なんてそういない。同じ考えの先客が来ていたとしても、そこは何も言わずに譲るのが暗黙の了解というものだ。
壁際に座り込むと、不破は総菜パンの封を切った。犬塚も隣に座ってきて、弁当を膝の上に広げる。
(相変わらず、美味そうなモン食ってんな)
ぼんやりと考えていたら、不意に犬塚がこちらを見上げてきた。どうやら視線に気がついたらしい。
「あのっ、よかったら一口食べてみませんか?」
「いいのか?」
「先輩、いつもパンとかおにぎりだから飽きちゃうかなーって。それに、今日の卵焼きはちょっと自信作なんですっ」
「は? ちょっと待て……お前、自分で弁当作ってたのかよ!?」
「えっ? そうですけど?」
それがどうかしたんですか、と言わんばかりに、きょとんと首を傾げられる。普通は母親に作ってもらうものではないだろうか。同じ男子高校生として信じられない。
不破は改めて、犬塚が作ったという弁当を見る。玉子焼き、ウインナー、ベーコンのアスパラ巻き、プチトマト……まさに定番中の定番といったラインナップだが、手づくり弁当ならではの温かみを感じた。
「お前がいいって言うなら、食ってみてェ」
「はい、どーぞっ!」
犬塚が卵焼きを箸で摘まんで差し出してくる。特に照れた様子もなく、ひたすらにまっすぐな眼差しで見つめてくるのだが、これはいわゆる「あーん」というやつではないか。
(こんなことで動揺するとか、小学生かよ……)
不破は内心どぎまぎしつつも、意を決してぱくりと食らいつく。瞬間、卵のいい香りが鼻腔をくすぐって、ほんのりと甘い味が舌の上に広がった。
「美味いな」
「えへへ、やったあ!」
正直な感想を口にしたら、犬塚は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。見た目からして美味しそうだとは思っていたが、味も文句なしの逸品だった。
「いや、マジか……ちょっと意外っつーか。お前、料理とかできたんだな?」
「ああ、うち両親が離婚してて父子家庭なんですよ。それで、家事は俺が担当してるんです」
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