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第2話 俺ら、付き合ってみっか?(1)
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【前回までのあらすじ】コワモテだけど、不破龍之介はごく普通の男子高校生。しかし、新入生の犬塚拓哉との出会いから一変。彼は不良に絡まれていたところを助けてくれた恩義に、不破の舎弟になりたいと申し出たのだった!
「シモの世話でもしてもらうか」と、不破が意地悪に言ったって受け入れる始末。しかも、そんな犬塚に何故かドキドキしてしまい……これってもしかして恋!?
――と、いったところだろうか。
(いや、ありえねェ!)
ふざけた思考を振り払うかのように、ぶんぶんと頭を横に振る。
一夜明けても、不破の頭には常に犬塚の顔があった。こうして学校で授業を受けている最中だって、ふとした拍子に昨日の一件を思い出してしまいそうになる。
つい勘違いしてしまいそうだが、これは絶対に恋とかそういう類のものではありえない……はずだ。多分。
(なんであやふやになってんだよ、俺……)
昼休みになって、不破は気分を変えようと廊下に出た。紙パックのジュースを手元に置き、窓から何気なく中庭の景色を眺める。
しばらくぼうっとしていたら、どこからともなくパタパタという軽い足音が聞こえてきてハッとした。おそらく犬塚だろう、と不破はどぎまぎしつつ振り向く。
「龍之介っ、何してんの?」
そう気安く声をかけてきたのは、勿論犬塚などではない――去年クラスが一緒だった女子生徒だった。といっても、それだけの関係ではないのだが。
「……ちょっと黄昏てた」
「うっわ、何それ? 似合わなすぎて草生えるんですけどっ」
彼女は笑いながら体を密着させてくる。言うまでもないが、柔らかな感触を腕に感じた。
「ねえ、久々に家来ない? 今日親いなくってさ」
なんてわかりやすい誘いだろうか。ここまであからさまだと、さすがに引いてしまうものがある。
「『新しい彼氏できた』って言ってなかったか、お前」
「別れちゃったんだも~ん。あたし、寂しくってさあ」
言いつつ、さらに身を寄せられる。
こういったタイプはあまり好きではないのだけれど、こんなふうに異性から迫られて断れる男というのも、なかなかいないと思う。ましてや、性欲旺盛な年頃なのだから。
(いい匂いするし、やわらけェし……やっぱ女だよな)
それならば、と返事をしようとしたそのときだった。視界の端に犬塚の姿が映ったのだ。
「っ!?」
その姿は、先ほどまで見ていた中庭にあった。
何事かと不破は目を見張る。というのも、犬塚が屈強そうな男子生徒に迫られているのだ。犬塚も困った表情をしており、どう見ても穏便な雰囲気ではない。
「わりィ、他をあたってくれ!」
何か揉めているのかもしれない――そう思った瞬間、体が勝手に動いて彼女の肩を突き放していた。
二段飛ばしで階段を駆け下り、急いで外に出る。犬塚のもとへ辿り着いた矢先、不破は叫んだ。
「犬塚っ!」
と、同時に犬塚の声が響く。
「ごめんなさい、あなたの気持ちには応えられません!」
目に飛び込んできたのは、犬塚が頭を下げているところだった。相手の男はそれを聞き、一言二言言い残してとぼとぼと去っていく。
(あ、これって……)
途端、状況からすべてを察し、不破の体から力が抜けていくのを感じた。
そこへ、犬塚がパッと駆け寄ってくる。
「先輩、お昼待たせちゃってすみませんっ。というか、あれ……? どうしてこんなところにいるんですか?」
「……お前が、またヘンなのに絡まれてるのかと思ったんだよ」
「えっ、あ――それで駆けつけてくれたんですか!? えー、えーっ!」
犬塚が嬉しそうに目を輝かせる。尻尾があったなら、ぶんぶんと振っているに違いない。
(可愛いな、クソッ!)
そんな感想しか浮かんでこなくて、不破は唇をぐっと噛み締めた。
これはもう手遅れなのだろうか。いやそんな馬鹿なことがあってたまるか。
「シモの世話でもしてもらうか」と、不破が意地悪に言ったって受け入れる始末。しかも、そんな犬塚に何故かドキドキしてしまい……これってもしかして恋!?
――と、いったところだろうか。
(いや、ありえねェ!)
ふざけた思考を振り払うかのように、ぶんぶんと頭を横に振る。
一夜明けても、不破の頭には常に犬塚の顔があった。こうして学校で授業を受けている最中だって、ふとした拍子に昨日の一件を思い出してしまいそうになる。
つい勘違いしてしまいそうだが、これは絶対に恋とかそういう類のものではありえない……はずだ。多分。
(なんであやふやになってんだよ、俺……)
昼休みになって、不破は気分を変えようと廊下に出た。紙パックのジュースを手元に置き、窓から何気なく中庭の景色を眺める。
しばらくぼうっとしていたら、どこからともなくパタパタという軽い足音が聞こえてきてハッとした。おそらく犬塚だろう、と不破はどぎまぎしつつ振り向く。
「龍之介っ、何してんの?」
そう気安く声をかけてきたのは、勿論犬塚などではない――去年クラスが一緒だった女子生徒だった。といっても、それだけの関係ではないのだが。
「……ちょっと黄昏てた」
「うっわ、何それ? 似合わなすぎて草生えるんですけどっ」
彼女は笑いながら体を密着させてくる。言うまでもないが、柔らかな感触を腕に感じた。
「ねえ、久々に家来ない? 今日親いなくってさ」
なんてわかりやすい誘いだろうか。ここまであからさまだと、さすがに引いてしまうものがある。
「『新しい彼氏できた』って言ってなかったか、お前」
「別れちゃったんだも~ん。あたし、寂しくってさあ」
言いつつ、さらに身を寄せられる。
こういったタイプはあまり好きではないのだけれど、こんなふうに異性から迫られて断れる男というのも、なかなかいないと思う。ましてや、性欲旺盛な年頃なのだから。
(いい匂いするし、やわらけェし……やっぱ女だよな)
それならば、と返事をしようとしたそのときだった。視界の端に犬塚の姿が映ったのだ。
「っ!?」
その姿は、先ほどまで見ていた中庭にあった。
何事かと不破は目を見張る。というのも、犬塚が屈強そうな男子生徒に迫られているのだ。犬塚も困った表情をしており、どう見ても穏便な雰囲気ではない。
「わりィ、他をあたってくれ!」
何か揉めているのかもしれない――そう思った瞬間、体が勝手に動いて彼女の肩を突き放していた。
二段飛ばしで階段を駆け下り、急いで外に出る。犬塚のもとへ辿り着いた矢先、不破は叫んだ。
「犬塚っ!」
と、同時に犬塚の声が響く。
「ごめんなさい、あなたの気持ちには応えられません!」
目に飛び込んできたのは、犬塚が頭を下げているところだった。相手の男はそれを聞き、一言二言言い残してとぼとぼと去っていく。
(あ、これって……)
途端、状況からすべてを察し、不破の体から力が抜けていくのを感じた。
そこへ、犬塚がパッと駆け寄ってくる。
「先輩、お昼待たせちゃってすみませんっ。というか、あれ……? どうしてこんなところにいるんですか?」
「……お前が、またヘンなのに絡まれてるのかと思ったんだよ」
「えっ、あ――それで駆けつけてくれたんですか!? えー、えーっ!」
犬塚が嬉しそうに目を輝かせる。尻尾があったなら、ぶんぶんと振っているに違いない。
(可愛いな、クソッ!)
そんな感想しか浮かんでこなくて、不破は唇をぐっと噛み締めた。
これはもう手遅れなのだろうか。いやそんな馬鹿なことがあってたまるか。
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