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第1話 あなたの舎弟にしてください!(1)
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不破龍之介は何というか人相が悪く、見た目こそ《不良のそれ》ではあるが、生まれてこの方そういった自覚はない。喧嘩なんて滅多なことではしないし、学校の授業だってサボることはない――ごくごく普通の男子高校生だ。
だから、目の前にいる男子生徒が発した言葉にひどく困惑した。
「俺をあなたの舎弟にしてください!」
放課後の体育館裏。桜の花びらが舞うなかでのことだった。
こんなところに呼び出されたと思ったら、待っていたのは男子生徒だったし、開口一番に「舎弟にしてください」だ。予期せぬ事態に頭がくらくらとしてしまう。
「とりあえずツラ上げろよ。ンなこと、突然言われても困るっての」
「あ、すみませんっ……とにかくですね、不破先輩のお役に立ちたいんです!」
なおも相手は真剣な様子で、こちらをまっすぐに見つめてくる。
おそらくは先日入学したばかりの一年生だろう。制服がまだ真新しい感じだし、身長だって女子と大して変わらない。おまけに随分と童顔だ。
(マジでどこからどう見ても、中坊にしか見えねェ)
そんな彼が一体どうして自分に絡んでくるのか。理由がわからず、不破は首を傾げた。
そもそも初対面のはずなのに、こちらのことを知っている口ぶりなのもおかしい。もしかして、どこかで一度会ったことがあるのだろうか。
「『役に立ちたい』ってなんでだよ。俺とお前って、前になんかあったっけ?」
「ありますよっ、あるから言ってるんです! つい数か月前、俺はあなたに助けられて――覚えてませんか?」
勢い込んで言うなり、彼は不破の手を握ってきた。
熱っぽい眼差しに気圧されながらも、なんとなくその手を振り払うこともできなくて、そのままの状態で記憶を手繰り寄せる。
「数ヶ月前って」
「駅前で絡まれてた俺のこと、先輩が助けてくれたじゃないですか」
「……あ」
そう言われてやっと思い出した。《チンピラ》に絡まれている中学生が目について、ひと暴れしたことがあった。というのも彼は小さな少女を背負っていて――それがあまりにも悲壮感を漂わせていたので――、つい手が出てしまったのだ。
「正義感とかそーゆーので動いたワケじゃねェんだけど。見ててムカついた、ってだけて」
「だとしても、俺にとっては恩人なんです。あのとき、じつは妹が高熱出しちゃって、タクシーで病院に連れて行こうとしてたんですけど……」
慌てるあまり、ガラの悪い連中と衝突してしまったのだと。そこへ颯爽と現れたのが不破だったというわけだ。
「こんな漫画みたいなことあるんだなあって、胸がギュ~ってして。それで、あまりのカッコよさに一目惚れしちゃったんです。しかも、ちょうど志望校の制服着てたんで、舞い上がっちゃって――これはもう是が非でも舎弟になるしかないと!」
と、一気にまくし立てて顔を寄せてくる。相変わらず不破の手を握りしめたままなので、なんだか妙な気分になってしまう。
「ちょっと待て、やっぱ理解が追い付かねェ。つか、近ェし」
ここでようやく相手が身を引いた。けれど、少しも怯むことなく、朗らかな笑顔を浮かべて、
「俺をあなたの舎弟にしてください!」
「いや、それはわかったっつーの!」
だから、目の前にいる男子生徒が発した言葉にひどく困惑した。
「俺をあなたの舎弟にしてください!」
放課後の体育館裏。桜の花びらが舞うなかでのことだった。
こんなところに呼び出されたと思ったら、待っていたのは男子生徒だったし、開口一番に「舎弟にしてください」だ。予期せぬ事態に頭がくらくらとしてしまう。
「とりあえずツラ上げろよ。ンなこと、突然言われても困るっての」
「あ、すみませんっ……とにかくですね、不破先輩のお役に立ちたいんです!」
なおも相手は真剣な様子で、こちらをまっすぐに見つめてくる。
おそらくは先日入学したばかりの一年生だろう。制服がまだ真新しい感じだし、身長だって女子と大して変わらない。おまけに随分と童顔だ。
(マジでどこからどう見ても、中坊にしか見えねェ)
そんな彼が一体どうして自分に絡んでくるのか。理由がわからず、不破は首を傾げた。
そもそも初対面のはずなのに、こちらのことを知っている口ぶりなのもおかしい。もしかして、どこかで一度会ったことがあるのだろうか。
「『役に立ちたい』ってなんでだよ。俺とお前って、前になんかあったっけ?」
「ありますよっ、あるから言ってるんです! つい数か月前、俺はあなたに助けられて――覚えてませんか?」
勢い込んで言うなり、彼は不破の手を握ってきた。
熱っぽい眼差しに気圧されながらも、なんとなくその手を振り払うこともできなくて、そのままの状態で記憶を手繰り寄せる。
「数ヶ月前って」
「駅前で絡まれてた俺のこと、先輩が助けてくれたじゃないですか」
「……あ」
そう言われてやっと思い出した。《チンピラ》に絡まれている中学生が目について、ひと暴れしたことがあった。というのも彼は小さな少女を背負っていて――それがあまりにも悲壮感を漂わせていたので――、つい手が出てしまったのだ。
「正義感とかそーゆーので動いたワケじゃねェんだけど。見ててムカついた、ってだけて」
「だとしても、俺にとっては恩人なんです。あのとき、じつは妹が高熱出しちゃって、タクシーで病院に連れて行こうとしてたんですけど……」
慌てるあまり、ガラの悪い連中と衝突してしまったのだと。そこへ颯爽と現れたのが不破だったというわけだ。
「こんな漫画みたいなことあるんだなあって、胸がギュ~ってして。それで、あまりのカッコよさに一目惚れしちゃったんです。しかも、ちょうど志望校の制服着てたんで、舞い上がっちゃって――これはもう是が非でも舎弟になるしかないと!」
と、一気にまくし立てて顔を寄せてくる。相変わらず不破の手を握りしめたままなので、なんだか妙な気分になってしまう。
「ちょっと待て、やっぱ理解が追い付かねェ。つか、近ェし」
ここでようやく相手が身を引いた。けれど、少しも怯むことなく、朗らかな笑顔を浮かべて、
「俺をあなたの舎弟にしてください!」
「いや、それはわかったっつーの!」
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