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extra
おまけSS 甘ったるいキスの味
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仕事帰り。ふと甘いものが恋しくなった玲央は、洋菓子店でケーキを買って帰宅した。
「ケーキ買ってきた。お前も食うだろ?」
言って、玄関まで出迎えてきた雅にケーキ箱を渡す。彼は嬉しそうな笑顔を見せた。
「わあっ、いいんですか?」
「甘いモン食いたくなっただけだし。テキトーに二種類買ってきたから、好きなの選べよ」
「ええ? 玲央さんが買ってきたんだから、玲央さんが選んでくださいよ。俺はなんでもいいですし」
「そうか? じゃあ、苺のショートにするわ」
「わかりました。せっかくなんでお茶淹れますね」
「……相変わらずだな」
雅の女子力の高さを感じつつ、ひとまず洗面所に向かう。手を洗い、上着を脱いでラフな格好になると、どっさりとソファーに腰かけた。
雅はまだ湯を沸かしているようだ。ここで待つような性格はしていないので、ケーキ箱から目当てのショートケーキを勝手に取り出し、そのまま手づかみで口に運ぶ。
「わ、豪快なっ」
ケーキを数口食べたところで、ティーセットをトレイに乗せた雅がやってきた。
気にせず最後の塊を大口で平らげて、指先を舐めながら口を開く。
「洗い物増えるのメンドいし」
「あーっ! しかも、もう食べちゃったんですか? 俺、そっちのも一口食べたかったのになあ」
「はあ? 野郎同士でそんな女々しいこと……」
と、目の前に影が差した。
雅が顔を寄せてきて、玲央の口元をぺろりと舐めたのだ。
「ちょ!?」
「クリームついてました」
「お、お前な!」
「えへへ、ちょびっとだけ食べられてラッキーです」
「~~ッ」
狼狽えていたらクスッと薄く笑われて、今度は唇を奪われる。下唇をやんわりと食まれただけでゾクリと体が震えた。
「玲央さんの唇、甘い」
雅は低く囁き、イタズラでもしているかのように唇を啄んでくる。それも、しつこいくらいに何度も角度を変えながら。
「おい、雅ッ」
甘ったるい口づけに、どうにかなってしまいそうで名を呼んだ。
しかし、だからといって手を緩めてくれるような相手ではない。目を細めて笑い、こちらの体をソファーに押し倒しては、
「口の中はどうかな」
再び唇を重ねて、雅は強引に歯列を割ってくる。気がついたときには、大きく口を抉じ開けられて、熱い舌が口内を弄っていた。
「ん、んん……っ」
舌をきつく吸いあげられ、息苦しくなるほどに執拗に舐めまわされる。
こんなものキスなどと言えるのだろうか。互いの吐息が混ざり合い、どちらのものとも判別つかぬ唾液が口の端から伝い落ちていく。
「んはっ……ん、ぁ」
言葉のままに貪るような荒々しい行為だ。息を弾ませながら、雅の服をぎゅっと掴む。
苦しくて堪らないのに、どうしようもなく胸が昂ってしまい、例によって卑しい自分に涙がじんわりと滲んだ。
そんな玲央の気を知ってか知らずか、そっと唇が離れていく。
「美味しい。まだケーキの味しますね」
二人の間を透明な糸が伝う。雅はそれを手で切りつつ、小さく喉を鳴らした。
先ほどまで朗らかな笑みを浮かべていたのが嘘のようだ。飢えた獣を思わせる眼光に射抜かれて、目を離すことができない。
「み、みや……」
もはや、名を呼ぶこともままならなかった。
雅が頬を愛おしげに撫でてくる。そして――、
「でも、玲央さんの方がずっと美味しそう」
彼のとんでもない物言いに、《エセ草食系》という言葉が脳裏に浮かんだのだった。
「ケーキ買ってきた。お前も食うだろ?」
言って、玄関まで出迎えてきた雅にケーキ箱を渡す。彼は嬉しそうな笑顔を見せた。
「わあっ、いいんですか?」
「甘いモン食いたくなっただけだし。テキトーに二種類買ってきたから、好きなの選べよ」
「ええ? 玲央さんが買ってきたんだから、玲央さんが選んでくださいよ。俺はなんでもいいですし」
「そうか? じゃあ、苺のショートにするわ」
「わかりました。せっかくなんでお茶淹れますね」
「……相変わらずだな」
雅の女子力の高さを感じつつ、ひとまず洗面所に向かう。手を洗い、上着を脱いでラフな格好になると、どっさりとソファーに腰かけた。
雅はまだ湯を沸かしているようだ。ここで待つような性格はしていないので、ケーキ箱から目当てのショートケーキを勝手に取り出し、そのまま手づかみで口に運ぶ。
「わ、豪快なっ」
ケーキを数口食べたところで、ティーセットをトレイに乗せた雅がやってきた。
気にせず最後の塊を大口で平らげて、指先を舐めながら口を開く。
「洗い物増えるのメンドいし」
「あーっ! しかも、もう食べちゃったんですか? 俺、そっちのも一口食べたかったのになあ」
「はあ? 野郎同士でそんな女々しいこと……」
と、目の前に影が差した。
雅が顔を寄せてきて、玲央の口元をぺろりと舐めたのだ。
「ちょ!?」
「クリームついてました」
「お、お前な!」
「えへへ、ちょびっとだけ食べられてラッキーです」
「~~ッ」
狼狽えていたらクスッと薄く笑われて、今度は唇を奪われる。下唇をやんわりと食まれただけでゾクリと体が震えた。
「玲央さんの唇、甘い」
雅は低く囁き、イタズラでもしているかのように唇を啄んでくる。それも、しつこいくらいに何度も角度を変えながら。
「おい、雅ッ」
甘ったるい口づけに、どうにかなってしまいそうで名を呼んだ。
しかし、だからといって手を緩めてくれるような相手ではない。目を細めて笑い、こちらの体をソファーに押し倒しては、
「口の中はどうかな」
再び唇を重ねて、雅は強引に歯列を割ってくる。気がついたときには、大きく口を抉じ開けられて、熱い舌が口内を弄っていた。
「ん、んん……っ」
舌をきつく吸いあげられ、息苦しくなるほどに執拗に舐めまわされる。
こんなものキスなどと言えるのだろうか。互いの吐息が混ざり合い、どちらのものとも判別つかぬ唾液が口の端から伝い落ちていく。
「んはっ……ん、ぁ」
言葉のままに貪るような荒々しい行為だ。息を弾ませながら、雅の服をぎゅっと掴む。
苦しくて堪らないのに、どうしようもなく胸が昂ってしまい、例によって卑しい自分に涙がじんわりと滲んだ。
そんな玲央の気を知ってか知らずか、そっと唇が離れていく。
「美味しい。まだケーキの味しますね」
二人の間を透明な糸が伝う。雅はそれを手で切りつつ、小さく喉を鳴らした。
先ほどまで朗らかな笑みを浮かべていたのが嘘のようだ。飢えた獣を思わせる眼光に射抜かれて、目を離すことができない。
「み、みや……」
もはや、名を呼ぶこともままならなかった。
雅が頬を愛おしげに撫でてくる。そして――、
「でも、玲央さんの方がずっと美味しそう」
彼のとんでもない物言いに、《エセ草食系》という言葉が脳裏に浮かんだのだった。
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