上 下
122 / 142
extra

おまけSS 休息デートな日

しおりを挟む
 時刻は深夜一時半。バーテンダーのアルバイトを終えた玲央は、ふらふらとした足取りで家路を急いだ。
(頭痛がする……)
 頭の芯がズキズキと痛み、眼鏡を掛けているはずなのに焦点が定まらない。ついでに、なんだか寒気もしてきた。
 それでも心は軽く、久々に取れた休日である明日のことを思えば、活力が湧いてくる。しかも、雅と一日デートする予定だ。これが楽しみでないわけがない。
(早く休んで、うんと明日は楽しみてーな)
 重い体に鞭を打って、なんとか自宅へと辿り着く。玄関で靴を脱いでいると、「おかえりなさい」と雅が出迎えてくれた。
「ぁ……」
 その姿にほっとしたのも束の間、返事をする前に玲央の体がぐらりと傾く。
 もはや己の体を支える余力もなかった。あっと思ったときには床に倒れ込んでいて、雅の焦る声を耳にしながら、意識がどんどん遠のくのを感じたのだった。

    ◇

 目覚めはいつもの天井だった。昨夜からの記憶が飛んでいるが、寝室のベッドに寝かされていて、着替えもいつの間にかなされていた。
「あ、起きたんですね。おはようございます」
 タイミングよく雅がやってくる。また情けないところを見せてしまったと思いつつ、気怠い体を起こした。
「今、何時……?」
「えっと、お昼の十一時ですね」
 返事を聞いて一瞬固まる。それからワンテンポ遅れて、
「悪ィ、寝過ごした!」
 慌てて跳び起きるも、雅がすぐに押し止めてきた。
「今日は家でゆっくりしましょう?」
「いや、すぐ支度するしっ」
「……玲央さん」
 雅の顔が近づいてきて反射的に目をつぶる。こつんと額同士が合わさり、二人の体温の違いを感じた。
「ちょっと熱、ありますよね?」
「………………」
「無理しないでください。こんな状態の玲央さんと出かけても、きっとイマイチ楽しめないです」
 雅の言うとおりだ。確かに、自分でも体調の悪さには気づいている。
 しかし、今日は久々のデートの予定で、行きたい場所も事前に二人で話していたのだ。
 一緒に出かけるのを楽しみにしていたのに、と心が痛む。相手もきっとそうであろうと考えればなおさらだ。
「ごめん」
「俺は玲央さんと一緒にいられれば、何だっていいですよ」
 雅は微笑んで返してくる。
「玲央さんは頑張りすぎだな、って思うことが多々あります。本当はもっと自分を大事にしてほしいし、金銭面だって俺が……とも思うんですけど、言ったってどうにもならないって知ってます。だから、強くは言いません」
 でも、と言葉を区切って、
「俺には、いつだってあなたを支える覚悟があるんだってこと。それだけは忘れないでください」
「雅……」
 雅の言葉に胸が震える。また心がそっと解かれるのを感じた。
 こういった場面でどうこうできるほど、自分はうまくできていない。それでも、精一杯の勇気を振り絞って、意思表示を試みようと思った。
「今日は大人しく休むことにするから――う、腕枕しろ……そんで、話がしたい。久々にゆっくり、どんなことでもいいから……」
 やっとのことで伝えるとベッドが静かに沈んだ。雅が身を寄せてくるなり、玲央は不器用ながらに甘えるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話

ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。 悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。 本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ! https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209

病み男子

迷空哀路
BL
〈病み男子〉 無気力系主人公『光太郎』と、4つのタイプの病み男子達の日常 病み男子No.1 社会を恨み、自分も恨む。唯一心の支えは主人公だが、簡単に素直にもなれない。誰よりも寂しがり。 病み男子No.2 可愛いものとキラキラしたものしか目に入らない。溺れたら一直線で、死ぬまで溺れ続ける。邪魔するものは許せない。 病み男子No.3 細かい部分まで全て知っていたい。把握することが何よりの幸せ。失敗すると立ち直るまでの時間が長い。周りには気づかれないようにしてきたが、実は不器用な一面もある。 病み男子No.4 神の導きによって主人公へ辿り着いた。神と同等以上の存在である主を世界で一番尊いものとしている。 蔑まれて当然の存在だと自覚しているので、酷い言葉をかけられると安心する。主人公はサディストではないので頭を悩ませることもあるが、そのことには全く気づいていない。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ
BL
 部活に出かけてケーキを作る予定が、高校に着いた途端に大地震?揺れと共に気がついたら異世界で、いきなり巨大な魔獣に襲われた。助けてくれたのは金髪に碧の瞳のイケメン騎士。王宮に保護された後、騎士が昼食のたびに俺のところにやってくる!  砂糖のない異世界で、得意なスイーツを作ってなんとか自立しようと頑張る高校生、ユウの物語。魔獣退治専門の騎士団に所属するジードとのじれじれ溺愛です。 🌟第10回BL小説大賞、応援していただきありがとうございました。 ◇他サイト掲載中、アルファ版は一部設定変更あり。R18は※回。 🌟素敵な表紙はimoooさんが描いてくださいました。ありがとうございました!

ずっと、ずっと甘い口唇

犬飼春野
BL
「別れましょう、わたしたち」 中堅として活躍し始めた片桐啓介は、絵にかいたような九州男児。 彼は結婚を目前に控えていた。 しかし、婚約者の口から出てきたのはなんと婚約破棄。 その後、同僚たちに酒の肴にされヤケ酒の果てに目覚めたのは、後輩の中村の部屋だった。 どうみても事後。 パニックに陥った片桐と、いたって冷静な中村。 周囲を巻き込んだ恋愛争奪戦が始まる。 『恋の呪文』で脇役だった、片桐啓介と新人の中村春彦の恋。  同じくわき役だった定番メンバーに加え新規も参入し、男女入り交じりの大混戦。  コメディでもあり、シリアスもあり、楽しんでいただけたら幸いです。    題名に※マークを入れている話はR指定な描写がありますのでご注意ください。 ※ 2021/10/7- 完結済みをいったん取り下げて連載中に戻します。   2021/10/10 全て上げ終えたため完結へ変更。  『恋の呪文』と『ずっと、ずっと甘い口唇』に関係するスピンオフやSSが多くあったため  一気に上げました。  なるべく時間軸に沿った順番で掲載しています。  (『女王様と俺』は別枠)    『恋の呪文』の主人公・江口×池山の番外編も、登場人物と時間軸の関係上こちらに載せます。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

処理中です...