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おまけSS 夏合宿、一方その頃

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(ああ、情けない)
 大樹は布団の上で羞恥心に苛まれていた。
 今日は映研の夏合宿一日目。入浴時にサウナで風間と、あれやこれやと言い合いになったのだが、うっかりのぼせて気分を悪くしてしまったのだ。
 浴衣に着替えて部屋に戻って来たはいいが、気が緩んだ途端このざまである。もはや、体を起こしてなどいられなかった。
「大樹もバカだよなあ。我慢比べとか何やってんだよ」
 言いながら、誠はうちわで風を送ってくる。
 決して我慢比べではなかったのだが、説明するのも面倒で「うるさい」とだけ返した。
「なんかお前、めちゃくちゃ不機嫌じゃね?」
 誠に顔を覗き込まれる。浴衣がはだけて無意識的に目を向けてしまった。
「………………」
 ピンク色をした胸の突起がちらつき、妙にいやらしく思えてならない。
 合宿所で二人部屋を割り当てられたとき、少しだけ魔が差す思いだったが、さすがに手を出すわけにはいかないだろう――とは考えていたものの、
「生殺しだな」
「は?」
「……なんでもない。ただの独り言だ」
 呟きつつ、誠の頬に手を伸ばす。くすぐったそうに誠は首をすくめた。
「な、なんだよう」
「触りたくなっただけ」
 そうやり取りしている間も、誠は大人しく撫でられている。まるで犬のようだと思っていたら、誠が「あのさ」と、らしくもなく小声で口にする。
「ここ、来る?」
 言って、ぽんぽんと手で示したのは膝の上だった。
「え……」
「いや、元気ないみたいだから。こーゆーときは膝枕、ってお約束だろ?」
 予期せぬ展開にどぎまぎしてしまう。そんな魅力的な提案に乗らないわけがない。
「誠がいいなら」
「お、おう。どーぞ」
 その言葉を受けて、そっと膝の上に頭を乗せた。ほどよく筋肉のついた硬い感触を通して、温かな体温が伝わってくる。
「えっと、どうですか」
「……想像してたよりも、ずっと心地がいい」
「ホント? よかったあ!」
「――」
 瞳を閉じて深く息を吐く。
 しばらくして、誠がもぞもぞと動く気配がした。
「あ、悪ィ。じっとしてるの苦手だから動いちゃうかも」
「いいよ。そんなの気にしない」
 すでに心地のよさに微睡んでいる。些細な揺れなど、まったく気にも留めなかった。
「お前、眠くなってるだろ?」
「十分くらいしたら起こせ」
 ぼんやりとした意識で返事する。誠は困惑しているようだった。
「え、いや、これから映画観賞会やるって」
「だから十分って言っただろ」
「ええーっ! マジ寝するつもり!?」
 誠の声を耳に聞き入れながら、大樹はしばしの眠りにつく。その寝顔は少し綻んでいた。
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