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season3
scene20-01 俺様ヒーローな君にヒロイン役は(9)
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十二月二十四日、クリスマスイヴ。
俳優業の仕事を終え、獅々戸玲央は足早に自宅を目指した。
「悪ィ、遅くなった!」
帰宅するなり、頭を下げる。
今夜は、恋人の藤沢雅と過ごす約束があったのだ。夕方には帰ってこられると伝えていたのだが、予定よりも撮影が長引いてしまい、気づけば夜の帳が下りていた。
「いえ、いいタイミングでしたよ。ちょうど夕食の支度が済んだところです」
捲ったシャツの袖を下ろしながら、雅が玄関まで出迎えてくる。
「おかえりなさい。外は寒かったでしょう?」
「あー、うん……ただいま」
そのまま抱きしめられてドキリとした。雅の体温が冷え切った体にじんわりと染みて、身も心も満たされるようだった。
「へへ、ここからは二人の時間ですね。いろいろ作ってみたんで、冷めないうちに食べましょ?」
自然な動作で手を引かれて、ダイニングへ向かう。テーブルの上にはいつもより豪華な食事が並んでいて、思わず目を瞠った。
「おおー、すげーじゃん……!」
チェスターコートを脱ぎながら呟くと、嬉しそうな笑い声が返ってくる。
「ちょっと張り切っちゃいました。――あ、ハンガーにかけてきます。玲央さんは手でも洗って待っててください」
「おう、サンキュ」
礼を言って、脱いだコートを渡す。
言われたとおりに支度を済ませると席に着き、雅が戻ってきたところで「メリークリスマス」と、まずはシャンパンで乾杯をした。
「甘口でいいな。酸味がなくて飲みやすい」
こちらの率直な感想に、雅は頷く。
「玲央さんのバイト先で教えていただいたんです」
「そーいや来てたな……」
日頃のアルバイトの一つに、ワンショットバーでの仕事がある。バーテンダーとして働いている姿を一目見たいと、雅が店にやってきたのを思い出した。
(学生のクセに一人で来るとか、どんだけ肝座ってんだよ。ま、確かにガキくさいトコもあっけど普段は落ち着いてて――いや、最近は俺よりも大人っぽく……)
考えていたら、なんだか無性に恥ずかしくなってきた。気分を誤魔化そうと、グイッとグラスを煽る。
「それなりに度数あるんだから、飲みすぎないでくださいよ?」
「わーってるって。つか、肉食いたいんだけど」
「はいはい」
催促したら、やれやれといった感じで返事をされた。フォークとナイフを手に取った雅が、メインディッシュのチキンソテーを切り分けていく。
「ローズマリーとレモンでマリネして、あと塩コショウで味付けしただけなんですけど……うまく焼けたと思うんでどうぞ」
そう口上を受けてから、チキンを口に運ぶ。
途端、爽やかで香ばしい香りが鼻を抜けた。パリッとした皮と、柔らかくジューシーな肉感のバランスが良く、なんとも美味だ。
「買ってきたのよか、ずっとウマいなこれ!」
「ふふ、よかった」
微笑みを交わしながら、用意された料理の数々に舌鼓を打つ。
チキンソテーの他に、ペペロンチーノ、ディップソース付きのフランスパン、生ハムのサラダ……どれもが美味しく、また玲央好みのさっぱりとした味付けで、あっという間に完食してしまうのだった。
「お前って、なんでも器用にこなすよな。ケーキまで焼けるとかヤベーだろ」
言いつつ、デザートのシフォンケーキを口に運ぶ。
デザートは別腹とよく言うが、まさにそのとおりだと思った。軽い触感で食後でも食べやすく、アールグレイの紅茶の風味が鼻腔をくすぐる。
「俺、いい主夫になれますかね?」
雅の爆弾発言に、思わずむせそうになった。
「バカ野郎ッ! また変なこと言いやがって!」
「あははっ」
といったくだらないやり取りもしつつ、食事を終えると二人で後片付けをする。
それから、落ち着いた頃合いを見計らって、
「雅、これ」
「え?」
「クリスマスプレゼント。よ、よかったら使えよ」
ラッピング包装された化粧箱をバッグから取り出し、そっぽを向きながら手渡す。
いつも色気のない渡し方をしていると自分でも呆れてしまうのだが、雅は嬉しそうに受け取ってくれて、毎回ありがたくも申し訳なくもあった。
「ありがとうございます! あの、開けても?」
「いーからさっさと開けろよ」
「はいっ」
雅はプレゼントを受け取るなり、丁寧な手つきで包装を解く。
その姿をドキドキしながら見つめた。何を贈っても喜んでもらえるとわかっているのだが、ついつい緊張してしまう。
「あっ、ネクタイだ。清潔感があって素敵な色!」
プレゼントに選んだのは、オーソドックスな紺色のネクタイだ。一見無地のように見えるが、よく見ると細かいピンドットがあしらわれており、真面目で品のある彼の印象にぴったりだと思ったのだ。
「これから何かと入用になるかと思ってさ。落ち着いたヤツ選んだから、無難に使えるだろうし」
「玲央さん……俺、すごく嬉しいですっ」
「お、おう、そりゃよかったな」
「えへへ。玲央さんのセンスならきっと間違いないですし、これ大切に使わせていただきますね」
ぱあっと、雅の顔に笑顔が咲いた。
喜んでもらえて何よりだが、どうにも照れくさくて頬を掻いていると、
「そうだ。ちょっと待っててくださいね」
雅が寝室に向かう。
しばらくして、彼はYシャツとスラックスに着替えて戻ってきたのだった。
俳優業の仕事を終え、獅々戸玲央は足早に自宅を目指した。
「悪ィ、遅くなった!」
帰宅するなり、頭を下げる。
今夜は、恋人の藤沢雅と過ごす約束があったのだ。夕方には帰ってこられると伝えていたのだが、予定よりも撮影が長引いてしまい、気づけば夜の帳が下りていた。
「いえ、いいタイミングでしたよ。ちょうど夕食の支度が済んだところです」
捲ったシャツの袖を下ろしながら、雅が玄関まで出迎えてくる。
「おかえりなさい。外は寒かったでしょう?」
「あー、うん……ただいま」
そのまま抱きしめられてドキリとした。雅の体温が冷え切った体にじんわりと染みて、身も心も満たされるようだった。
「へへ、ここからは二人の時間ですね。いろいろ作ってみたんで、冷めないうちに食べましょ?」
自然な動作で手を引かれて、ダイニングへ向かう。テーブルの上にはいつもより豪華な食事が並んでいて、思わず目を瞠った。
「おおー、すげーじゃん……!」
チェスターコートを脱ぎながら呟くと、嬉しそうな笑い声が返ってくる。
「ちょっと張り切っちゃいました。――あ、ハンガーにかけてきます。玲央さんは手でも洗って待っててください」
「おう、サンキュ」
礼を言って、脱いだコートを渡す。
言われたとおりに支度を済ませると席に着き、雅が戻ってきたところで「メリークリスマス」と、まずはシャンパンで乾杯をした。
「甘口でいいな。酸味がなくて飲みやすい」
こちらの率直な感想に、雅は頷く。
「玲央さんのバイト先で教えていただいたんです」
「そーいや来てたな……」
日頃のアルバイトの一つに、ワンショットバーでの仕事がある。バーテンダーとして働いている姿を一目見たいと、雅が店にやってきたのを思い出した。
(学生のクセに一人で来るとか、どんだけ肝座ってんだよ。ま、確かにガキくさいトコもあっけど普段は落ち着いてて――いや、最近は俺よりも大人っぽく……)
考えていたら、なんだか無性に恥ずかしくなってきた。気分を誤魔化そうと、グイッとグラスを煽る。
「それなりに度数あるんだから、飲みすぎないでくださいよ?」
「わーってるって。つか、肉食いたいんだけど」
「はいはい」
催促したら、やれやれといった感じで返事をされた。フォークとナイフを手に取った雅が、メインディッシュのチキンソテーを切り分けていく。
「ローズマリーとレモンでマリネして、あと塩コショウで味付けしただけなんですけど……うまく焼けたと思うんでどうぞ」
そう口上を受けてから、チキンを口に運ぶ。
途端、爽やかで香ばしい香りが鼻を抜けた。パリッとした皮と、柔らかくジューシーな肉感のバランスが良く、なんとも美味だ。
「買ってきたのよか、ずっとウマいなこれ!」
「ふふ、よかった」
微笑みを交わしながら、用意された料理の数々に舌鼓を打つ。
チキンソテーの他に、ペペロンチーノ、ディップソース付きのフランスパン、生ハムのサラダ……どれもが美味しく、また玲央好みのさっぱりとした味付けで、あっという間に完食してしまうのだった。
「お前って、なんでも器用にこなすよな。ケーキまで焼けるとかヤベーだろ」
言いつつ、デザートのシフォンケーキを口に運ぶ。
デザートは別腹とよく言うが、まさにそのとおりだと思った。軽い触感で食後でも食べやすく、アールグレイの紅茶の風味が鼻腔をくすぐる。
「俺、いい主夫になれますかね?」
雅の爆弾発言に、思わずむせそうになった。
「バカ野郎ッ! また変なこと言いやがって!」
「あははっ」
といったくだらないやり取りもしつつ、食事を終えると二人で後片付けをする。
それから、落ち着いた頃合いを見計らって、
「雅、これ」
「え?」
「クリスマスプレゼント。よ、よかったら使えよ」
ラッピング包装された化粧箱をバッグから取り出し、そっぽを向きながら手渡す。
いつも色気のない渡し方をしていると自分でも呆れてしまうのだが、雅は嬉しそうに受け取ってくれて、毎回ありがたくも申し訳なくもあった。
「ありがとうございます! あの、開けても?」
「いーからさっさと開けろよ」
「はいっ」
雅はプレゼントを受け取るなり、丁寧な手つきで包装を解く。
その姿をドキドキしながら見つめた。何を贈っても喜んでもらえるとわかっているのだが、ついつい緊張してしまう。
「あっ、ネクタイだ。清潔感があって素敵な色!」
プレゼントに選んだのは、オーソドックスな紺色のネクタイだ。一見無地のように見えるが、よく見ると細かいピンドットがあしらわれており、真面目で品のある彼の印象にぴったりだと思ったのだ。
「これから何かと入用になるかと思ってさ。落ち着いたヤツ選んだから、無難に使えるだろうし」
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「お、おう、そりゃよかったな」
「えへへ。玲央さんのセンスならきっと間違いないですし、これ大切に使わせていただきますね」
ぱあっと、雅の顔に笑顔が咲いた。
喜んでもらえて何よりだが、どうにも照れくさくて頬を掻いていると、
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