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season3
scene19-03
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「で、なに? どこに向かってるワケ?」
恐る恐る訊いてみれば、
「ホテルだけど?」
思わず息を呑んだ。冗談ではないと動揺していたら、彼はプッと吹き出して続けた。
「ウソウソ、ウソだって。しーちゃんの家まで送ってあげるから安心しなよ」
どうして自宅を知っているのかと疑問に思ったのだが、宮下の車に乗るなり――タクシーとでも勘違いしたのか――住所を口にしたらしい。
それを聞いて「駅までで十分だ」と言い直すも、「いいからいいから」と返されて、自宅まで送ってもらうことになってしまった。
(マジで最悪だ)
言いようのない不快感を抱えつつも、自宅のマンションが見えてくる。隣接する駐車場に車を停めてもらって、シートベルトを外した。
「悪かったな、宮下。じゃ……」
声をかけて、早々に車のドアを開けようとする。
と、そのときだった。宮下が強引に腕を掴んで迫ってきたのは。
「ッ! ぶっ殺されてーのかッ!?」
顔が接近して唇が接触しそうになった瞬間、もう片方の腕で咄嗟に拒んだ。宮下がフッと笑う。
「お礼のキスも許してくれねーの?」
「は!?」
「手、震えてるし。……やっぱいいな、オマエ」
「放せよ、クソったれ。これっきりにするって言ってただろーがッ」
玲央の腕は未だに掴まれていた。
相手も俳優として舞台を控えている。万が一にでも怪我をさせたらと思うと、無暗に暴れて引き剥がすことはできなかった。もちろん殴りかかるなんて論外だ。
「ここ最近のひっでえ演技、プライベートなコト関係してんじゃねーの?」
本当は「いいから放せ!」と怒鳴ってやりたかったが、喉の奥につっかえて、何一つ言葉にならない。
宮下は目を細めてさらに畳みかけてくる。
「あの後輩とはまだ続いてんの? 正直辛くね? 生活リズムだって違うだろうし、すれ違い多いだろ?」
普段の軽薄さとは裏腹に、獣のような眼光で責められる。棘のある物言いは玲央の心に重く響いた。
「なに、言って」
「あ、俺好みのいい顔。アイツより俺の方が合ってるよ。同じ職業柄でオマエのこと理解してあげられるし、タメだから気もつかわねーじゃん?」
「俺はっ」
「一回試すくらいイイだろ? そしたら絶対、俺の方がよくなるに決まってる。――《カーセックス》、スリルあってキモチイイよ?」
耳元で吐息交じりに囁かれる。途端、カッと頭に血が上った。
「俺様は、アイツと真剣に付き合ってんだよ! テメェなんぞに勃つワケねーだろッ!」
もうどうにでもなれ――考えるのをやめ、思い切り突き放して拘束から逃れる。もはや付き合ってなどいられなかった。
「あーあ、マジになっちゃってさ。恋愛なんて所詮遊びじゃん? その方が気楽で楽しいよー?」
車のドアを開けて外に出たところ、そのような言葉が返ってきて余計に腹が立ったが、無視して足早にマンションへ向かう。
共同玄関先のエレベーターに入った途端、震える体を掻き抱くように身を縮こませた。どうやら思ったよりも恐怖を感じていたらしい。
(早く帰りてえ)
息を落ち着けている間にエレベーターのドアが開く。廊下に出ると、一室だけ当たり前のように電気が点いていて、平常心が戻ってくるのを感じた。
「おかえりなさい」
部屋に上がるなり、パッと雅がやってきた。
「さ、先寝とけって言っただろーが。俺もなるべく起こさないようにするし」
横をすり抜けてジャケットを脱ぎながら言う。意図せず、ぶっきらぼうな言い方になってしまった。
「……こういったの重いですか? 玲央さん、毎日頑張ってるから『おかえりなさい』ってちゃんと言いたいんです」
いや、嬉しいに決まっている。しかし、手放しに喜べるような性格はしていない。
「嫌になんねーの? もっと早く帰ってきてほしいとか、ちゃんと恋人らしいことしてほしいとか……お前ばっか損してフェアじゃないじゃん」
振り返って言うと、雅は首を横に振った。
「ずっと言ってるでしょう? 好きだから純粋に支えたいんだって。独占欲だとかちょっとした変化はあっても、最初に感じたこの気持ちを失うことはないです」
「そうは言ったってさ」
「確かに以前の俺だったら、玲央さんの言うことも感じてたと思います。だけど、俺だって少しは成長してるんですよ?」
「………………」
思い余って俯いたら、優しく諭すように名を呼ばれた。見上げた顔は、どこまでも穏やかだった。
「夢を追っているあなたは本当に格好よくて――苦しくても諦めない姿はヒーローみたいだって、いつも思うんです。だから俺は……」
「雅」
雅が言い終わる前に、「ごめんな」と彼の胸に体を預けた。深く息を吐いてから想いを口にする。
「恋人として、持ちつ持たれつの関係でありたいとは思ってるんだ」
恐る恐る訊いてみれば、
「ホテルだけど?」
思わず息を呑んだ。冗談ではないと動揺していたら、彼はプッと吹き出して続けた。
「ウソウソ、ウソだって。しーちゃんの家まで送ってあげるから安心しなよ」
どうして自宅を知っているのかと疑問に思ったのだが、宮下の車に乗るなり――タクシーとでも勘違いしたのか――住所を口にしたらしい。
それを聞いて「駅までで十分だ」と言い直すも、「いいからいいから」と返されて、自宅まで送ってもらうことになってしまった。
(マジで最悪だ)
言いようのない不快感を抱えつつも、自宅のマンションが見えてくる。隣接する駐車場に車を停めてもらって、シートベルトを外した。
「悪かったな、宮下。じゃ……」
声をかけて、早々に車のドアを開けようとする。
と、そのときだった。宮下が強引に腕を掴んで迫ってきたのは。
「ッ! ぶっ殺されてーのかッ!?」
顔が接近して唇が接触しそうになった瞬間、もう片方の腕で咄嗟に拒んだ。宮下がフッと笑う。
「お礼のキスも許してくれねーの?」
「は!?」
「手、震えてるし。……やっぱいいな、オマエ」
「放せよ、クソったれ。これっきりにするって言ってただろーがッ」
玲央の腕は未だに掴まれていた。
相手も俳優として舞台を控えている。万が一にでも怪我をさせたらと思うと、無暗に暴れて引き剥がすことはできなかった。もちろん殴りかかるなんて論外だ。
「ここ最近のひっでえ演技、プライベートなコト関係してんじゃねーの?」
本当は「いいから放せ!」と怒鳴ってやりたかったが、喉の奥につっかえて、何一つ言葉にならない。
宮下は目を細めてさらに畳みかけてくる。
「あの後輩とはまだ続いてんの? 正直辛くね? 生活リズムだって違うだろうし、すれ違い多いだろ?」
普段の軽薄さとは裏腹に、獣のような眼光で責められる。棘のある物言いは玲央の心に重く響いた。
「なに、言って」
「あ、俺好みのいい顔。アイツより俺の方が合ってるよ。同じ職業柄でオマエのこと理解してあげられるし、タメだから気もつかわねーじゃん?」
「俺はっ」
「一回試すくらいイイだろ? そしたら絶対、俺の方がよくなるに決まってる。――《カーセックス》、スリルあってキモチイイよ?」
耳元で吐息交じりに囁かれる。途端、カッと頭に血が上った。
「俺様は、アイツと真剣に付き合ってんだよ! テメェなんぞに勃つワケねーだろッ!」
もうどうにでもなれ――考えるのをやめ、思い切り突き放して拘束から逃れる。もはや付き合ってなどいられなかった。
「あーあ、マジになっちゃってさ。恋愛なんて所詮遊びじゃん? その方が気楽で楽しいよー?」
車のドアを開けて外に出たところ、そのような言葉が返ってきて余計に腹が立ったが、無視して足早にマンションへ向かう。
共同玄関先のエレベーターに入った途端、震える体を掻き抱くように身を縮こませた。どうやら思ったよりも恐怖を感じていたらしい。
(早く帰りてえ)
息を落ち着けている間にエレベーターのドアが開く。廊下に出ると、一室だけ当たり前のように電気が点いていて、平常心が戻ってくるのを感じた。
「おかえりなさい」
部屋に上がるなり、パッと雅がやってきた。
「さ、先寝とけって言っただろーが。俺もなるべく起こさないようにするし」
横をすり抜けてジャケットを脱ぎながら言う。意図せず、ぶっきらぼうな言い方になってしまった。
「……こういったの重いですか? 玲央さん、毎日頑張ってるから『おかえりなさい』ってちゃんと言いたいんです」
いや、嬉しいに決まっている。しかし、手放しに喜べるような性格はしていない。
「嫌になんねーの? もっと早く帰ってきてほしいとか、ちゃんと恋人らしいことしてほしいとか……お前ばっか損してフェアじゃないじゃん」
振り返って言うと、雅は首を横に振った。
「ずっと言ってるでしょう? 好きだから純粋に支えたいんだって。独占欲だとかちょっとした変化はあっても、最初に感じたこの気持ちを失うことはないです」
「そうは言ったってさ」
「確かに以前の俺だったら、玲央さんの言うことも感じてたと思います。だけど、俺だって少しは成長してるんですよ?」
「………………」
思い余って俯いたら、優しく諭すように名を呼ばれた。見上げた顔は、どこまでも穏やかだった。
「夢を追っているあなたは本当に格好よくて――苦しくても諦めない姿はヒーローみたいだって、いつも思うんです。だから俺は……」
「雅」
雅が言い終わる前に、「ごめんな」と彼の胸に体を預けた。深く息を吐いてから想いを口にする。
「恋人として、持ちつ持たれつの関係でありたいとは思ってるんだ」
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