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season3
scene17-03
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風間の言葉に目を瞬いた。何故そこで自分が出てくるのだろうか。
「あの、どうしてですか? 自分で言うのもなんですけど、なんかこう関心を持てる要素ってないような」
「そんなことない。戌井君は素敵だよ。君の純粋な瞳と笑顔に、俺は惹かれたんだ」
彼はそう切り出して、静かな口調で語りだす。
「高校のとき、毎日遅くまで自主練してたよね。俺も遅くなることが多かったから遠目に見てたんだ。……あの身長じゃバスケなんて厳しいだろうに、って気になって」
「………………」
実際、中学三年間は一度も試合に出してもらえなかった。
ただ純粋に好きだからという理由で、高校でも同じようにバスケットボール部に入部し、今度こそはと毎日飽きもせず自主練習をしていただけだ。
まさか、そのようなところを見ていた人物が大樹の他にいたとは思わず、少し驚いてしまう。
「君を見ているうち、綺麗な目をしてるって気づいてさ。――この子には一体何が見えているんだろう。彼が傍にいたら俺も同じ光景を見られるのかな。それはどんなに素敵な世界なんだろうって。……考えだしたら、心から君のことが欲しくなったんだ」
だから自分のことを。けれど、だとしたら根本的に見誤っている。
「全部大樹のおかげです」はっきりとした口調で返した。「大樹がいなかったら、あなたが惹かれたような俺はいなかったと思います」
都合のいい頭をしているとはいえ、毎日が楽しいことや嬉しいことの連続ではないし、辛いことや苦しいことだってもちろんある。単に、ありふれた日常から小さな幸せを見つけるのが得意なだけだ。
そしてそれは、かけがえのない存在が傍にいてくれるからこそだった。自分はいかに大樹に支えられているか、無自覚だった感情に気づかされたのだ。
「そっか」
小さく息を吐いてから、風間が相槌を打った。
「ごめんなさい。どうやっても風間さんの気持ちには答えられません」
「いいよ。そんなつもりで言ったわけじゃないし、もうわかってる。こう何度も断られるようじゃ、さすがに諦めるって」
「そう、ですか」
風間の顔が見ていられなくて、俯いてしまう。
傷つけていることはわかっているが、手を差し伸べることもできなくて、どうしようもない申し訳なさがあった。
「あーあ、暗い顔しちゃって。いつもの笑顔はどうしたの? こうして諦めた意味がなくなっちゃうじゃん」
「風間さん……」
「……にしても悔しいなあ、桜木くんが言ってたことがやっと理解できた。これじゃ話にもならないわけだ」
「え?」
顔を上げれば、風間は荷物を持って立ち上がるところだった。
「さてと、これから寄りたい所もあるし行くね。就活、不安だろうけど焦らず頑張って」
「あっ! ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
咄嗟に引き留める。このまま帰してはいけないような気がした。
「風間さんとはそういった関係になれません……けど、風間さんも素敵な人だと思います! きっと俺より相応しい人と出会えます! 応援してますから!」
自分でも言いたいことがまとまっていないのは明白だったが、必死に言葉を探し、
「元気、出してください!」
その結果がこうだ。あまりにも無神経な物言いに、相手も苦笑する。
「フッた人がそれ言う?」
「あーっ! そうですよね!? で、でもでもっ、元気ないと楽しいことしてても楽しくないし、ウマいもの食ってもウマくないと思うんで……あのっ」
だんだん不安になってきて語尾が小さくなっていく。仕舞いには、パクパクと口を動かすことしかできなかった。
一方、風間はプッと噴き出したかと思うと、普段の彼からは想像できないほどに声をあげて笑い出したのだった。
「くっ……あははははっ!」
「か、風間さん?」
こちらがぽかんとしているうちに、ひとしきり笑い終えたようで、風間は目に浮かんだ涙を指で拭いながら言った。
「はー、おかしい。本当に君は面白い子だよね」
「ええと、褒めているのか貶しているのか……」
「両方?」
「うぐっ」
「でもね、ありがとう」
それから心底穏やかな微笑みを見せて、
「やっぱり君を好きになれてよかった。俺もここから始めたいと思う――今度は自分本位じゃなくてさ」
風間は最後にそう言い残す。
去っていく背中を誠は無言で見送った。彼も自分なりの幸せを見つけられるように、と心から願いながら。
「あの、どうしてですか? 自分で言うのもなんですけど、なんかこう関心を持てる要素ってないような」
「そんなことない。戌井君は素敵だよ。君の純粋な瞳と笑顔に、俺は惹かれたんだ」
彼はそう切り出して、静かな口調で語りだす。
「高校のとき、毎日遅くまで自主練してたよね。俺も遅くなることが多かったから遠目に見てたんだ。……あの身長じゃバスケなんて厳しいだろうに、って気になって」
「………………」
実際、中学三年間は一度も試合に出してもらえなかった。
ただ純粋に好きだからという理由で、高校でも同じようにバスケットボール部に入部し、今度こそはと毎日飽きもせず自主練習をしていただけだ。
まさか、そのようなところを見ていた人物が大樹の他にいたとは思わず、少し驚いてしまう。
「君を見ているうち、綺麗な目をしてるって気づいてさ。――この子には一体何が見えているんだろう。彼が傍にいたら俺も同じ光景を見られるのかな。それはどんなに素敵な世界なんだろうって。……考えだしたら、心から君のことが欲しくなったんだ」
だから自分のことを。けれど、だとしたら根本的に見誤っている。
「全部大樹のおかげです」はっきりとした口調で返した。「大樹がいなかったら、あなたが惹かれたような俺はいなかったと思います」
都合のいい頭をしているとはいえ、毎日が楽しいことや嬉しいことの連続ではないし、辛いことや苦しいことだってもちろんある。単に、ありふれた日常から小さな幸せを見つけるのが得意なだけだ。
そしてそれは、かけがえのない存在が傍にいてくれるからこそだった。自分はいかに大樹に支えられているか、無自覚だった感情に気づかされたのだ。
「そっか」
小さく息を吐いてから、風間が相槌を打った。
「ごめんなさい。どうやっても風間さんの気持ちには答えられません」
「いいよ。そんなつもりで言ったわけじゃないし、もうわかってる。こう何度も断られるようじゃ、さすがに諦めるって」
「そう、ですか」
風間の顔が見ていられなくて、俯いてしまう。
傷つけていることはわかっているが、手を差し伸べることもできなくて、どうしようもない申し訳なさがあった。
「あーあ、暗い顔しちゃって。いつもの笑顔はどうしたの? こうして諦めた意味がなくなっちゃうじゃん」
「風間さん……」
「……にしても悔しいなあ、桜木くんが言ってたことがやっと理解できた。これじゃ話にもならないわけだ」
「え?」
顔を上げれば、風間は荷物を持って立ち上がるところだった。
「さてと、これから寄りたい所もあるし行くね。就活、不安だろうけど焦らず頑張って」
「あっ! ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
咄嗟に引き留める。このまま帰してはいけないような気がした。
「風間さんとはそういった関係になれません……けど、風間さんも素敵な人だと思います! きっと俺より相応しい人と出会えます! 応援してますから!」
自分でも言いたいことがまとまっていないのは明白だったが、必死に言葉を探し、
「元気、出してください!」
その結果がこうだ。あまりにも無神経な物言いに、相手も苦笑する。
「フッた人がそれ言う?」
「あーっ! そうですよね!? で、でもでもっ、元気ないと楽しいことしてても楽しくないし、ウマいもの食ってもウマくないと思うんで……あのっ」
だんだん不安になってきて語尾が小さくなっていく。仕舞いには、パクパクと口を動かすことしかできなかった。
一方、風間はプッと噴き出したかと思うと、普段の彼からは想像できないほどに声をあげて笑い出したのだった。
「くっ……あははははっ!」
「か、風間さん?」
こちらがぽかんとしているうちに、ひとしきり笑い終えたようで、風間は目に浮かんだ涙を指で拭いながら言った。
「はー、おかしい。本当に君は面白い子だよね」
「ええと、褒めているのか貶しているのか……」
「両方?」
「うぐっ」
「でもね、ありがとう」
それから心底穏やかな微笑みを見せて、
「やっぱり君を好きになれてよかった。俺もここから始めたいと思う――今度は自分本位じゃなくてさ」
風間は最後にそう言い残す。
去っていく背中を誠は無言で見送った。彼も自分なりの幸せを見つけられるように、と心から願いながら。
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