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season2
intermission 俺様ヒーローな君にヒロイン役は(EX3)
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玲央は電車に揺られつつ、隣に座る雅のことをこっそり盗み見た。
雅は静かに瞼を閉じている。ガタンゴトンと小さく揺れる電車内には、柔らかな春の陽射しが降り注いでいて、眠気に誘われるのも無理はない。
(こういったときなら、寄りかかっても変じゃないよな?)
先日同棲することが決まり、心が浮き立っているのかもしれない。普段は電車内で寝るようなタイプではないのだが、恋人である彼の体に触れたい気持ちが湧いてきた。
ドキドキしながら体を倒そうとする。と、ふと視線に気づいた。
「………………」
前に立っている黒髪の女――おそらく同じ歳の頃合いで、男性から支持される清純タイプだ――がこちらを見ている。
なんとなく気まずさを感じてスマートフォンを取り出すものの、女が依然として視線を送ってくるので気になって仕方ない。
席を譲ってほしいのかとも思ったけれど、空席なら他にある。どういったことだろう。
(え、なに? 自意識過剰なだけ?)
しばらくして視線に気づいたのか、雅が瞼を開ける。女と目が合うと一言、
「香織ちゃん?」
「わっ、やっぱり雅くんだよね? すごい偶然~!」
女の名を呼ぶ雅に、ドクンッと心臓が脈打った。どうやら知り合いらしいが、ずいぶんと親しげな雰囲気を感じるのは気のせいか。
「あ、座る?」雅が訊いた。
「そんないいよ~。降りるの次だし」
「いいから。女の子に立たせてるの居心地悪いし」
言いながら雅は席を立ち、遠慮していた香織も結局は腰を下ろす。
「雅くんのそういったとこ、変わらないね」
「そう? 香織ちゃんは雰囲気変わったよね。前より綺麗になった感じがする」
さらりと返す雅に呆気にとられた。あまりにも自然すぎて動揺を隠せない。
(こ、このタラシが! マジでエセ草食系じゃねーか!)
憤りをふつふつと感じつつも、二人のやり取りに耳をそばだてる。
他愛のない会話が繰り返されるうち、わかったことがあった。どうやら二人は高校時代に付き合っていた恋人同士らしい。
話としては聞いていたし、玲央だって異性と付き合った経験はそれなりにある。今さらどうこう言うつもりはない。
だが、実際にこうして目の当たりにしてしまうと、心が波立つ思いだった。
(……俺の知らない雅がいる)
などと感じてしまうのは、こちらの方が年上だからか。
同い年の恋人相手にはどう接していたのだろう。二人のやり取りから、汲み取るように想像してしまう自分が嫌だった。
「そうだ、よかったら今度ご飯行かない?」
香織の言葉にギクリとする。横目で雅の顔に目を向けると、彼は平然と笑っていた。
「ごめんね。俺、付き合ってる人いるから、そういうのはちょっとできないかな」
と、嫌味なく率直に断る。
やがて電車がホームに到着して、二人は軽く挨拶をしたあと別れたのだった。
(そりゃそうだよな、今付き合ってるのは俺なんだし。目の前で約束しだしたらビビるし、当たり前なんだけど、なんか……照れるっつーか)
頬が熱を持って、赤くなっているのがわかった。
はっきりと断ってくれたのが嬉しくて、先ほどまでの鬱屈とした気分はいつの間にやらどこかへ消えていた。
(ヤバい。野郎同士とか関係なく、ちゃんと恋人なんだって再認識させられた……)
雅の些細な言動に、心はいつも揺れ動かされっぱなしだ。
こんなにも甘ったるいことを考えるなんて、男として恥ずかしい。そう思うも、胸の高鳴りは抑えられなかった。
「ごめんなさい、玲央さん。つい話し込んじゃって」
雅の声に意識が引き戻される。顔を背けつつ、平静を装うことを決めた。
「いいって。お前が人のこと無下にできない性格なのは知ってるし。それに、元カノなんだろ?」
「……あー、もしかして怒ってますか?」
「は!?」
ところが思いもよらぬ勘違いをさせてしまったようで、雅は慌てて弁解してくる。
「せっかく告白してくれたのに悪いとは思うんですけど、あの子とは続かなくて。だから、なんというか……」
「わーってるよ。ンなの単なるきっかけにすぎないし、結局は一人の人間として好きになるかっつー相性の問題だろ? 好きになろうとか努力するモンでもねえし、大体――」
そこで口をつぐむ。フォローしているうちに、自分のことを言っているような気になって、最後まで続けられなかった。
雅が不思議そうに目をぱちくりさせる。
「ええ、確かにそうですけど……玲央さん?」
「寝る! 肩貸せ!」
どうにもこうにも照れくさくなって、雅に寄り添って寝る体勢に入った。
「えっと、あの」
声の調子から困惑している様子がうかがえる。こちらの態度を気にしているのだろう。
(普段は押し付けがましいくせに)
距離が近づくにしたがって、相手のネガティブなところも次第にわかってきた。そのようなところも含めて愛おしいと思えるのだから、恋というものは厄介だ。
「玲央さん……」
雅が不安げに名を呼んでくる。
ここで無視するほど歪んだ性格はしていない。さも独り言だとでも言うように、目を閉じながら、
「怒ってるとかじゃなくてさ。付き合ってるヤツがいるって、隠さず言ってくれて……嬉しかっただけだよ」
その言葉に雅は何も返さず、重ねるようにして頭を寄せてくる。
触れ合った箇所からまた愛おしさが込み上げてきて、より胸の高鳴りを感じるのだった。
雅は静かに瞼を閉じている。ガタンゴトンと小さく揺れる電車内には、柔らかな春の陽射しが降り注いでいて、眠気に誘われるのも無理はない。
(こういったときなら、寄りかかっても変じゃないよな?)
先日同棲することが決まり、心が浮き立っているのかもしれない。普段は電車内で寝るようなタイプではないのだが、恋人である彼の体に触れたい気持ちが湧いてきた。
ドキドキしながら体を倒そうとする。と、ふと視線に気づいた。
「………………」
前に立っている黒髪の女――おそらく同じ歳の頃合いで、男性から支持される清純タイプだ――がこちらを見ている。
なんとなく気まずさを感じてスマートフォンを取り出すものの、女が依然として視線を送ってくるので気になって仕方ない。
席を譲ってほしいのかとも思ったけれど、空席なら他にある。どういったことだろう。
(え、なに? 自意識過剰なだけ?)
しばらくして視線に気づいたのか、雅が瞼を開ける。女と目が合うと一言、
「香織ちゃん?」
「わっ、やっぱり雅くんだよね? すごい偶然~!」
女の名を呼ぶ雅に、ドクンッと心臓が脈打った。どうやら知り合いらしいが、ずいぶんと親しげな雰囲気を感じるのは気のせいか。
「あ、座る?」雅が訊いた。
「そんないいよ~。降りるの次だし」
「いいから。女の子に立たせてるの居心地悪いし」
言いながら雅は席を立ち、遠慮していた香織も結局は腰を下ろす。
「雅くんのそういったとこ、変わらないね」
「そう? 香織ちゃんは雰囲気変わったよね。前より綺麗になった感じがする」
さらりと返す雅に呆気にとられた。あまりにも自然すぎて動揺を隠せない。
(こ、このタラシが! マジでエセ草食系じゃねーか!)
憤りをふつふつと感じつつも、二人のやり取りに耳をそばだてる。
他愛のない会話が繰り返されるうち、わかったことがあった。どうやら二人は高校時代に付き合っていた恋人同士らしい。
話としては聞いていたし、玲央だって異性と付き合った経験はそれなりにある。今さらどうこう言うつもりはない。
だが、実際にこうして目の当たりにしてしまうと、心が波立つ思いだった。
(……俺の知らない雅がいる)
などと感じてしまうのは、こちらの方が年上だからか。
同い年の恋人相手にはどう接していたのだろう。二人のやり取りから、汲み取るように想像してしまう自分が嫌だった。
「そうだ、よかったら今度ご飯行かない?」
香織の言葉にギクリとする。横目で雅の顔に目を向けると、彼は平然と笑っていた。
「ごめんね。俺、付き合ってる人いるから、そういうのはちょっとできないかな」
と、嫌味なく率直に断る。
やがて電車がホームに到着して、二人は軽く挨拶をしたあと別れたのだった。
(そりゃそうだよな、今付き合ってるのは俺なんだし。目の前で約束しだしたらビビるし、当たり前なんだけど、なんか……照れるっつーか)
頬が熱を持って、赤くなっているのがわかった。
はっきりと断ってくれたのが嬉しくて、先ほどまでの鬱屈とした気分はいつの間にやらどこかへ消えていた。
(ヤバい。野郎同士とか関係なく、ちゃんと恋人なんだって再認識させられた……)
雅の些細な言動に、心はいつも揺れ動かされっぱなしだ。
こんなにも甘ったるいことを考えるなんて、男として恥ずかしい。そう思うも、胸の高鳴りは抑えられなかった。
「ごめんなさい、玲央さん。つい話し込んじゃって」
雅の声に意識が引き戻される。顔を背けつつ、平静を装うことを決めた。
「いいって。お前が人のこと無下にできない性格なのは知ってるし。それに、元カノなんだろ?」
「……あー、もしかして怒ってますか?」
「は!?」
ところが思いもよらぬ勘違いをさせてしまったようで、雅は慌てて弁解してくる。
「せっかく告白してくれたのに悪いとは思うんですけど、あの子とは続かなくて。だから、なんというか……」
「わーってるよ。ンなの単なるきっかけにすぎないし、結局は一人の人間として好きになるかっつー相性の問題だろ? 好きになろうとか努力するモンでもねえし、大体――」
そこで口をつぐむ。フォローしているうちに、自分のことを言っているような気になって、最後まで続けられなかった。
雅が不思議そうに目をぱちくりさせる。
「ええ、確かにそうですけど……玲央さん?」
「寝る! 肩貸せ!」
どうにもこうにも照れくさくなって、雅に寄り添って寝る体勢に入った。
「えっと、あの」
声の調子から困惑している様子がうかがえる。こちらの態度を気にしているのだろう。
(普段は押し付けがましいくせに)
距離が近づくにしたがって、相手のネガティブなところも次第にわかってきた。そのようなところも含めて愛おしいと思えるのだから、恋というものは厄介だ。
「玲央さん……」
雅が不安げに名を呼んでくる。
ここで無視するほど歪んだ性格はしていない。さも独り言だとでも言うように、目を閉じながら、
「怒ってるとかじゃなくてさ。付き合ってるヤツがいるって、隠さず言ってくれて……嬉しかっただけだよ」
その言葉に雅は何も返さず、重ねるようにして頭を寄せてくる。
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