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season2

scene15-02

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 その日の夜は、自宅で雅とともに夕食をとった。
 気づけば週に一度、彼が自宅に来るのが当たり前になっていた。大学、養成所、アルバイト……目まぐるしい日々に、すっかり家のことがおざなりになっていたからだ。
 それが発覚して以来、雅が――合鍵を渡しているし、勝手に部屋に上がっていいと言ってある――甲斐甲斐しく常備菜の作り置きをはじめとし、掃除や洗濯をしてくれるようになった。
 もちろんのこと、最初は悪いからいいと断ったのだが、やると言って聞かなかったのだ。
 食事は外食やスーパーマーケットの弁当がほとんどだったし、洗濯物も溜まる一方だから、ありがたい限りなのだが……、
(いや、ちゃんと自活しないでどうする。スケジュール管理すれば家事だってできるだろうし、雅と過ごす時間だって少しは……)
「玲央さん、聞いてますか? もう酔いが回ってきましたか?」
 雅の声で我に返る。開けたばかりの缶ビールをちびりと飲んでから、口を開いた。
「なんだっけ?」
「だからね、夢の第一歩を立派に叶えてすごいなあ~って。本当に尊敬してるんですよ、って話です」
「またそれかよ」
 褒められるのは嫌いではないし、純粋に嬉しい。
 だが、所属が決まってからというものの、ずっとそのようなことを言われ続けていた。
「お前はどうなんだよ? 三年になったらゼミ始まるだろ? 就職とか関心ある分野とか、ちゃんと考えて選んだか?」
 と、さすがに恥ずかしいものがあって話題を変える。
「はい、考えて決めましたよ。犯罪心理学が専門の先生なんですけど――」
 すると雅はそう前置きし、警察官になるための勉強をしていると告白してくれたのだった。法学部に身を置きつつも、心理学分野を専攻するというのがなんとも彼らしい。
「へえ、いーじゃん。なんかお前っぽい」
「えへへ、ありがとうございます。俺も子供の頃からの夢なので、玲央さんを見習って頑張りますね」
「ああ。応援するよ」
(……今まで大学なんて同じ環境にいたけど、これからはそれぞれ別の道があるんだよな)
 込み上げてくる寂しさとも不安ともつかぬ感情に耐え切れず、一気にビールを流し込んで喉を鳴らす。
 しばらくすると体が熱くなり、頭も少しぼんやりとしてきた。
「ペース速くないですか? 駄目ですよ、お酒弱いんだから」
「うっせ、こうでもしないと素直になれねーんだよ」
 雅の膝に頭を乗せるようにして寝転ぶと、苦笑する気配とともに撫でられる。
 優しい手の感触に心地よさを感じながら、勇気を出して、気になっていたことを口にすることにした。
「あのさ、雅。これから先、きっと今以上に忙しくなるから……お前との時間あんま作れないと思うんだ。そしたら……俺たち、どうなるのかなって」
 思い出すのは、過去に自分が想いを寄せていた岡嶋由香里のことだ。彼女は社会人と付き合っていたが別れたと言っていた。
 やはり、会えない日々が増えるとうまくいかないものなのだろうか。そう考えると切なくなって、玲央の胸はぎゅうっと締めつけられる思いだった。
「それは……俺も考えてたんですけど、これから先もあなたとありたいです」
「俺だってそうだけどさ。どうにもならないことだってあんだろ?」
「あー、えっと、じゃあこの際ですから一緒に住みませんか?」
 言われた言葉がすぐに飲み込めなくて、理解するのに少しばかり時間を要した。
(つまり同棲するってか!?)
 ガバッと体を起こして雅の顔を見る。頭はまだ混乱していたが、居ても立っても居られなかった。
「あっ、あの、雅……!」
「実は最近、いろいろと物件探してて! そのうちお話できたらいいなあって、思ってたんです!」
 スマートフォンで不動産情報サイトを開き、続けざまに雅が捲し立てる。
「やっぱり1LDKか2DKかなって思ってるんですけど、玲央さんはプライベートな空間あった方がいいですか? 男同士だと入居審査も厳しいみたいなんですが」
「おい、ちょっと待てって! いきなり言われても!」
 まとまらない思考で静止の声をかけたら、雅は少し落ち込んだ表情で目を泳がせた。
「……一人で突っ走ってごめんなさい。こんなにもちゃんと恋愛するの初めてで、わからなくて不安で」
「や、別に謝るようなことじゃ」
「いえ、ワガママなのは承知してますし、ちょっと重いかなとも。だけど、玲央さんが遠くに行っちゃうような気がして……」
「………………」
(俺とのこと、コイツなりに考えてくれてたのか)
 嬉しさに、つい頬が緩むのを感じた。他人からしたら些細なことかもしれないが、そんな些細なことが特別なことのように思えたのだ。
「バーカ、誰が遠くに行くって?」
 俯いた雅の頭を乱暴に撫でてやる。それから、ニッと笑って再び口を開いた。
「いいよ。お前が望むなら同棲でも何でもしてやるよ」
「えっ、いいんですか? 本当に?」
「つーかさ、つべこべ言わずに、俺様の傍にいやがれっての。遠慮しないって言ったクセにめんどくせーヤツ」
「……玲央さんって本当に《ツンデレ》ですよね。あと面倒なのはお互い様だと思います」
「っせーな。面倒なのは認めっけど、《ツンデレ》ってなんだよっ」
「えへへ。俺としては、そういったあなたが可愛くて好きだなって思います」
 不意打ちの告白にドキリとして、一瞬言葉に詰まってしまう。
「くそッ、バッカじゃねーの」
「でも……ありがとうございます。俺、ものすごく嬉しいです」
 顎を掬われ、誘われるように目を閉じて口づけを交わした。
 唇を割られると、静かに雅の舌が入ってきて口内をくすぐられる。負けじと同じように舌先を差し出せば、すぐにちゅっと吸われて歯を立てられた。
「ん、ふっ……」
 深まるキスに溺れていく。アルコールが回っているせいか、体が熱くて仕方ない。
「……玲央さん、ベッド行きませんか?」
「このドスケベ野郎。そうやってすぐ盛りやがって」
 悪態をつきながらもベッドに腰を下ろすと、雅が隣にやってきて服を脱がせてくる。
 黙って脱がされるのも癪で、玲央も相手のシャツのボタンを外してやれば、
「今日は脱がせてくれるんですね」
 この男は、いちいち口にしないと気が済まないのだろうか。
 少しだけムッときて、無言で雅の体を押し倒す。年下のくせに生意気なんだよ、と伝えたかった。ところが、
「わ、玲央さんってば積極的」
 意表を突いたつもりの行動にも、雅はほんの少し目を見開いただけだった。
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