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season2
intermission いたいけペットな君にヒロイン役は(EX4)
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一泊二日の温泉旅行を提案したのは正解だった――テラスに設置された客室露天風呂に浸かりながら、大樹は思った。
男二人で入浴するには窮屈にもほどがあるが、相手が恋人ともなれば、これもまた乙なものだ。実感を込めて誠の肩に顔をうずめる。
「寒っ……」
山間を吹き抜ける真冬の夜風が、頬を冷たく撫でていく。
思わず口にするほどに寒いのだが、肌を密着させると、高い体温が心地よく伝わってきて、そちらへ意識を向ければさほど気にならなかった。
「幸せメーターが振り切れるう~」
間延びした口調で、誠が呟く。
今日は彼の誕生日だった。特別な日にしようと計画した旅行は、想像していたよりもずっと喜んでもらえたようで何よりだった。
今日一日を振り返って、大樹は表情を緩める。温泉街で食べ歩きをし、旅館の貸切風呂に入り、豪華な会席料理に舌鼓を打ち……そして現在に至る。
非日常的で楽しかった。正直なところ、内心ではずっと気をよくしていたのだった。
(しかし、コイツが成人したとは到底考えられないな)
かく言う自分も、成人した実感など持っていない。
幼少期は早く大人になりたいと、気づけば大人びた言動を意図的にするようになっていたし、だからこそ今の自分がいる。
だが、実際のところは外面ばかりが大人びて、精神面はあの頃と大して変わっていない気がするのだ。
(ま、お互いまだまだガキなんだろう)
あれこれ考えているうちに、誠がもたれかかってきた。顔はとろんとしていて、いつもはどんぐりのように大きな瞳も、今は半分も開いていない。
「お前、眠いだろ」
柔らかな頬を突きながら声をかけると、へにゃっとした笑顔が返ってきた。
「あまりに気分がよくて」
「だからって寝るなよ?」
「わかってるよーだ。……俺さあ、すっげえ大事にされてるよね」
「そう、だな?」
誠は、しばしば脈絡のない話し方をする。長年の付き合いで、すっかり慣れているのだが、思わぬ言葉に不意を突かれる大樹がいた。
「それが伝わってくるから、照れくさいけど嬉しくって。いつもいつも、俺って幸せ者だなあ~って思う」
「そ、そうか」
「今日みたいな特別も嬉しい……けど、そうじゃなくても十分って知ってた?」
「いや」
くすぐったいような気持ちが膨らんできて、どう返事したらいいか戸惑ってしまう。
毎日作ってくれるご飯が美味しいだの、何気なく言ったことを覚えていてくれるのが嬉しいだの、ふとしたときに褒めてくれると自信がつくだの……誠はいろいろと話した。
対して大樹は、よくわからないまま相槌を打っていたのだが、最後にとんでもない爆弾が投下されたのだった。
「バカだから些細なコトで幸せになれちゃうし……大樹からは、毎日たくさんの幸せを貰ってる。大樹がいてくれて最高に嬉しいんだあ」
「………………」
(バカ、こっちの台詞だ)
なんて自分は恵まれているのだろうか。
誠と出会えて、恋人として隣にいることができて、ときには苦しかったり切なかったり、苛立ったりもするけれど、嬉しいことや楽しいことも倍以上あって――どれだけ彼の存在に救われているか。
誕生日プレゼントをいくら奮発しても足りない。本当はこちらの方が、返したくても返せないほどの“もの”――を貰っているのだ。
「こういった幸せな日々がずっと……それこそ、ジイサンになっても続いたらいいよなあ」
誠がだらしなく笑いながら言う。
ああ、きっと眠くて何も考えていないのだろうな――とは思うものの、彼の言葉に喜びを覚えた。
このような自分は、よほど幼稚な恋愛をしているのだと思う。それでもどうしようもなく嬉しくて、華奢な体に腕を回した。
「なら、老後に向けて貯蓄しないとな」
「ん、そんで余裕あったら犬飼いたい」
「ああ。賑やかになっていいかもな」
抱きしめる力を、ほんの少し強くして身を寄せる。
自分とともにいて誠は幸せになれるのだろうか、と何度も悩んだ。けれども……、
(俺を選んでくれてありがとう、誠……大好きだ)
その顔に浮かんでいるのは、子供のような無邪気さを思わせる――はにかむような明るい笑顔だった。
男二人で入浴するには窮屈にもほどがあるが、相手が恋人ともなれば、これもまた乙なものだ。実感を込めて誠の肩に顔をうずめる。
「寒っ……」
山間を吹き抜ける真冬の夜風が、頬を冷たく撫でていく。
思わず口にするほどに寒いのだが、肌を密着させると、高い体温が心地よく伝わってきて、そちらへ意識を向ければさほど気にならなかった。
「幸せメーターが振り切れるう~」
間延びした口調で、誠が呟く。
今日は彼の誕生日だった。特別な日にしようと計画した旅行は、想像していたよりもずっと喜んでもらえたようで何よりだった。
今日一日を振り返って、大樹は表情を緩める。温泉街で食べ歩きをし、旅館の貸切風呂に入り、豪華な会席料理に舌鼓を打ち……そして現在に至る。
非日常的で楽しかった。正直なところ、内心ではずっと気をよくしていたのだった。
(しかし、コイツが成人したとは到底考えられないな)
かく言う自分も、成人した実感など持っていない。
幼少期は早く大人になりたいと、気づけば大人びた言動を意図的にするようになっていたし、だからこそ今の自分がいる。
だが、実際のところは外面ばかりが大人びて、精神面はあの頃と大して変わっていない気がするのだ。
(ま、お互いまだまだガキなんだろう)
あれこれ考えているうちに、誠がもたれかかってきた。顔はとろんとしていて、いつもはどんぐりのように大きな瞳も、今は半分も開いていない。
「お前、眠いだろ」
柔らかな頬を突きながら声をかけると、へにゃっとした笑顔が返ってきた。
「あまりに気分がよくて」
「だからって寝るなよ?」
「わかってるよーだ。……俺さあ、すっげえ大事にされてるよね」
「そう、だな?」
誠は、しばしば脈絡のない話し方をする。長年の付き合いで、すっかり慣れているのだが、思わぬ言葉に不意を突かれる大樹がいた。
「それが伝わってくるから、照れくさいけど嬉しくって。いつもいつも、俺って幸せ者だなあ~って思う」
「そ、そうか」
「今日みたいな特別も嬉しい……けど、そうじゃなくても十分って知ってた?」
「いや」
くすぐったいような気持ちが膨らんできて、どう返事したらいいか戸惑ってしまう。
毎日作ってくれるご飯が美味しいだの、何気なく言ったことを覚えていてくれるのが嬉しいだの、ふとしたときに褒めてくれると自信がつくだの……誠はいろいろと話した。
対して大樹は、よくわからないまま相槌を打っていたのだが、最後にとんでもない爆弾が投下されたのだった。
「バカだから些細なコトで幸せになれちゃうし……大樹からは、毎日たくさんの幸せを貰ってる。大樹がいてくれて最高に嬉しいんだあ」
「………………」
(バカ、こっちの台詞だ)
なんて自分は恵まれているのだろうか。
誠と出会えて、恋人として隣にいることができて、ときには苦しかったり切なかったり、苛立ったりもするけれど、嬉しいことや楽しいことも倍以上あって――どれだけ彼の存在に救われているか。
誕生日プレゼントをいくら奮発しても足りない。本当はこちらの方が、返したくても返せないほどの“もの”――を貰っているのだ。
「こういった幸せな日々がずっと……それこそ、ジイサンになっても続いたらいいよなあ」
誠がだらしなく笑いながら言う。
ああ、きっと眠くて何も考えていないのだろうな――とは思うものの、彼の言葉に喜びを覚えた。
このような自分は、よほど幼稚な恋愛をしているのだと思う。それでもどうしようもなく嬉しくて、華奢な体に腕を回した。
「なら、老後に向けて貯蓄しないとな」
「ん、そんで余裕あったら犬飼いたい」
「ああ。賑やかになっていいかもな」
抱きしめる力を、ほんの少し強くして身を寄せる。
自分とともにいて誠は幸せになれるのだろうか、と何度も悩んだ。けれども……、
(俺を選んでくれてありがとう、誠……大好きだ)
その顔に浮かんでいるのは、子供のような無邪気さを思わせる――はにかむような明るい笑顔だった。
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■同人誌版はコチラ
https://twitter.com/tiyo_arimura_/status/1583739195453222912
■この作品のイラスト・漫画まとめはコチラ
https://twitter.com/i/moments/1263670534077743106
■カップリング・キャラ投票(無期限)はコチラ
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