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season1

scene04-01 いたいけペットな君にヒロイン役は(3)

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 八月中旬。世はお盆シーズンで、桜木大樹は戌井誠とともに地元へ帰省していた。
 といっても、父親は相変わらず息子には目もくれず、仕事で海外を飛び回っている。
 以前父親と住んでいた――高校生になってからは、一人暮らしのようなものだったけど――アパートの一室も、すでに引き払っていた。
 別段気にせず、今住んでいるマンションでお盆を過ごそうと思っていたのだが、「誠と一緒に帰ってきたら?」という誠の母親の好意に甘え、戌井家の世話になることになったのだった。
 戌井家は、今やすっかり第二の家族同然だ。
 思えば、父親の海外転勤が決まって猛反発したときも、仲裁に入ってくれたのは誠の両親だった。
 誠と遠く離れるなんて少しも考えられなかったので、本当に感謝してもしきれない。
 ましてや、今もこうして我が子のように接してもらえるとはありがたい限りだ。
 しかし、誠との関係を思うと申し訳なさがある。
 現に彼らと顔を合わせたとき、罪悪感を感じて目が合わせられなかった。決してやましい関係だとは思っていないが、どうにも心苦しいものがあった。

    ◇

 その日は、地元で花火大会が行われる日だった。
 会場の川沿いには屋台が立ち並んでおり、今年も大いに活気づいているようだ。
 大樹は人の間を縫うように進み、屋台の人混みから抜け出る。そして、河川敷の方へ歩いていくと、芝生の上でちょこんと座っている小さな後ろ姿に声をかけた。
「誠、熱いから気をつけろよ」
 熱々のたこ焼きが入ったパックを渡す。こういった人の多い場では、よくはぐれてしまう――誠はいつの間にか人混みに飲まれる――ので待っていてもらったのだ。
「わーい、サンキュー! あ、やった、すげえマヨネーズかかってる!」
 見た目からして味の濃そうなたこ焼きを見るなり、ぱっと誠が無邪気な笑みを浮かべる。思わず眉間に皺が寄るのを感じた。
「喉乾くぞ、それ」
「いいんだよ。味の薄いたこ焼きなんて、たこ焼きじゃねーもん……うわ、あちちっ」
「ったく、火傷しないようにな」
 美味しそうに頬張る姿にやれやれと思いながらも、隣に座って焼きそばを食べ始める。
 それから少し違和感を感じたのだが、すぐに合点がいった。
(そういえば、二人で来るのは初めてか)
 地元の花火大会は毎年のように誠と来ていたのだが、小中学生のときは親が同伴していたし、高校生のときは他の同級生と一緒だった。
 そもそもよく考えれば、恋人同士になってから、このようなイベントに繰り出すのは初めてではなかろうか。
 と、甘ったるいことを考えていたら、
「やっぱこれ喉乾く」誠が小さく呟いた。
(だからといって、色気もクソもないんだが)
 こんなことになるのは予想していた。先ほど購入した炭酸飲料のペットボトルを手に取って、無言で差し出す。
「へへ、さっすがあ」
 誠は受け取るなりゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。上下する喉仏に、つい目がいってしまってドキリとする。
(色気、か)
 毎度のことだが、本当に自分はどうにかしていると思う。ふとした仕草であっても、容易く心が揺れ動かされるのだから。
(恋をすると、きっとバカになるに違いない)
 タイトルは忘れたが、フランスのミステリ映画でそのようなやり取りがあった気がする。
 惚れた弱みというのは恐ろしいものだ。《私は半年前からバカだったわ》と、口にしたヒロインの心情が今なら理解できそうだった。



 花火が上がる時間が近づいてきたところで、二人は喧噪から離れた。
 向かったのは穴場スポット――高校の通学路にある小さな広場だった。距離は少し遠いが、周囲に建物があまりなく、高台に位置するため花火が綺麗に見えるのだ。
「あっ」誠が小さく声をあげた。
 言わずともわかる。ちらほら見物人がいるなか、バスケットボールを手に遊んでいる二人の少年がいた。中学生くらいだろうか、周りのことなどお構いなくといった様子だ。
 みな見て見ぬ振りをしており、仕方なく一言注意しようと足を向ける。
 が、それよりも先に誠が飛び出した。
「ここ、ボール遊びは禁止だぞっと!」
 少年がパスしたボールに、タイミングよく手を出して注意する。素早い動きだった。
「今日は花火見ようって、いろんな人が来るんだからさあ。迷惑だろ~?」
 さすが幼い頃からバスケットボールを続けていただけあって、ボールの扱いにたけている。誠は奪ったボールを、指先や両腕の内側で回転させて自在に弄んだ。
 それを見た少年は、悔しそうな顔で口を開く。
「なんだよチビのくせに! 返せよ!」
 誠の身長は少年たちと大して変わらない。事実といえば事実なのだが、言葉にされるとカチンと来たようで、誠は目つきを変えた。
「面白いヤツだな、気に入った……俺から奪えたら返してやんよ!」
 芝居がかった口調で言いながらドリブルを始める。まるで、ボールが手に吸いついているような見事な技術だったが、
(お前が遊び始めてどうすんだよ)
 呆れて頭を抱えてしまう。
 けれども、誠がバスケットボールをする姿は眩しくて特に好きだった――大樹は数年前のことに思いを馳せる。
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