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season1
scene03-01 俺様ヒーローな君にヒロイン役は(1)
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獅々戸玲央はヒーローに憧れていた。
両親の影響で、幼少期から『アイアンマン』や『キャプテンアメリカ』といった、《マーベル映画》ばかり見ていたのが大きな要因だろう。
いつでも格好よく正義感に溢れ、どのような逆境でも決して諦めることなく、みんなに――いやたった一人でもいい――慕われるようなヒーローになりたかった。
小学生の頃に、そのことを将来の夢として発表したら周囲に笑われてしまった。
玲央としては大真面目でも、ヒーローに憧れるような年頃は終わっていたのだ。けれども、一人だけ笑わない女子がいたのだった。
「なんで? ヒーローカッコいいじゃん! ししどくんなら、きっとなれるよ!」
彼女の発言は真っ直ぐに胸に響き、幼いながらにときめきを感じた。今なら理解できる、それは恋に落ちた瞬間だった。
しかし小中と同じ学校に通うも、二人の間に何かしらの関係性は生まれなかった。
彼女の周囲にはいつも人が集まり、当時消極的だった玲央は、声をかけることすらできなかったのだ。
そのくせ、少しずつ女性としての成長を見せる彼女に想いは募るばかりだったので、なおさら質が悪かった。
玲央自身もどうかと思ったのだが、高校で進路が分かれても彼女のことが忘れられなかったくらいだ。
そんな彼女と大学のキャンパスで再会したのは、運命のイタズラか。
「ねえっ! 獅々戸くんって、あの獅々戸くん?」
「え……あ、もしかして岡嶋か?」
「そうそうっ、久しぶり! 金髪になってるからビックリしたわよ~!」
そろそろ彼女の名を明かすべきだろう。玲央の想い人は岡嶋由香里。現在所属している映画研究会の部長だ。
岡嶋は変わっていなかった。肩までの艶やかな黒髪に、清楚感のあるナチュラルな化粧。確かに、外見はずっと綺麗になり垢抜けた印象があるのだが、中身はあの頃と同じだとすぐに気づいた。
そして、玲央にとって一つの転機となる言葉を、彼女は口にするのだった。
「獅々戸くんも映研入らない?」
「映研?」
「うん、映画研究会。教科書読むのすごく上手で印象に残っててね? いい役者になるんじゃないかな~って思うんだけど、どう?」
玲央が映研に入部することを決めたのは、彼女の言葉があってこそである。
もともと映画には関心が高かったのだが、なんといっても決め手は惚れた男の弱みであり、好きな相手に言われては黙っていられるはずがなかった。
サークルを通じてともにいる時間が増え、これからのキャンパスライフを想像しては心を躍らせ、いずれ長年の想いを伝えることを胸に決めていた。
この再会はきっと運命なのだ――信じて疑わなかったというのに。
これがもし本当に運命だとしたら、神とやらはなんて酷なことをするのだろうか。
岡嶋に彼氏ができたのは、それから間もなくのことであった。
そして二年の月日が流れ、三年生になった今。気の置けぬ友人関係に進展したはいいものの、すっかり恋愛相談や愚痴を聞かされるようになってしまった。
「そしたらアイツ、『俺には仕事があるんだから、それくらい察しろ』って言うのよ? そーゆー問題じゃないって言ってるのに」
「そう思うなら、別れればいいだろーが」
「なによ。そんな言葉が欲しくて言ってるわけじゃないわよーだ」
当然、それくらい理解している。ただのエゴイズムだ。
(俺なら、もっとお前のことを大切にしてやれるのに)
いつだって想いは一方通行で、どんなに求めても返ってくることはない。
不毛なことをしていると頭では理解しているはずなのに、未だに彼女のことがどうしようもなく好きで、玲央はやるせない感情を抱いていた。
(俺ってカッコわりぃな……)
両親の影響で、幼少期から『アイアンマン』や『キャプテンアメリカ』といった、《マーベル映画》ばかり見ていたのが大きな要因だろう。
いつでも格好よく正義感に溢れ、どのような逆境でも決して諦めることなく、みんなに――いやたった一人でもいい――慕われるようなヒーローになりたかった。
小学生の頃に、そのことを将来の夢として発表したら周囲に笑われてしまった。
玲央としては大真面目でも、ヒーローに憧れるような年頃は終わっていたのだ。けれども、一人だけ笑わない女子がいたのだった。
「なんで? ヒーローカッコいいじゃん! ししどくんなら、きっとなれるよ!」
彼女の発言は真っ直ぐに胸に響き、幼いながらにときめきを感じた。今なら理解できる、それは恋に落ちた瞬間だった。
しかし小中と同じ学校に通うも、二人の間に何かしらの関係性は生まれなかった。
彼女の周囲にはいつも人が集まり、当時消極的だった玲央は、声をかけることすらできなかったのだ。
そのくせ、少しずつ女性としての成長を見せる彼女に想いは募るばかりだったので、なおさら質が悪かった。
玲央自身もどうかと思ったのだが、高校で進路が分かれても彼女のことが忘れられなかったくらいだ。
そんな彼女と大学のキャンパスで再会したのは、運命のイタズラか。
「ねえっ! 獅々戸くんって、あの獅々戸くん?」
「え……あ、もしかして岡嶋か?」
「そうそうっ、久しぶり! 金髪になってるからビックリしたわよ~!」
そろそろ彼女の名を明かすべきだろう。玲央の想い人は岡嶋由香里。現在所属している映画研究会の部長だ。
岡嶋は変わっていなかった。肩までの艶やかな黒髪に、清楚感のあるナチュラルな化粧。確かに、外見はずっと綺麗になり垢抜けた印象があるのだが、中身はあの頃と同じだとすぐに気づいた。
そして、玲央にとって一つの転機となる言葉を、彼女は口にするのだった。
「獅々戸くんも映研入らない?」
「映研?」
「うん、映画研究会。教科書読むのすごく上手で印象に残っててね? いい役者になるんじゃないかな~って思うんだけど、どう?」
玲央が映研に入部することを決めたのは、彼女の言葉があってこそである。
もともと映画には関心が高かったのだが、なんといっても決め手は惚れた男の弱みであり、好きな相手に言われては黙っていられるはずがなかった。
サークルを通じてともにいる時間が増え、これからのキャンパスライフを想像しては心を躍らせ、いずれ長年の想いを伝えることを胸に決めていた。
この再会はきっと運命なのだ――信じて疑わなかったというのに。
これがもし本当に運命だとしたら、神とやらはなんて酷なことをするのだろうか。
岡嶋に彼氏ができたのは、それから間もなくのことであった。
そして二年の月日が流れ、三年生になった今。気の置けぬ友人関係に進展したはいいものの、すっかり恋愛相談や愚痴を聞かされるようになってしまった。
「そしたらアイツ、『俺には仕事があるんだから、それくらい察しろ』って言うのよ? そーゆー問題じゃないって言ってるのに」
「そう思うなら、別れればいいだろーが」
「なによ。そんな言葉が欲しくて言ってるわけじゃないわよーだ」
当然、それくらい理解している。ただのエゴイズムだ。
(俺なら、もっとお前のことを大切にしてやれるのに)
いつだって想いは一方通行で、どんなに求めても返ってくることはない。
不毛なことをしていると頭では理解しているはずなのに、未だに彼女のことがどうしようもなく好きで、玲央はやるせない感情を抱いていた。
(俺ってカッコわりぃな……)
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