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第二章 かくして聖魔女は誕生した1
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海に囲まれた豊かな島国、ウサンディサーガ。領土は小さいが、温暖な気候に恵まれ、観光産業が発展している。
七○○年前、海賊が先住民の魔女を焼き払ったいわくつきの土地は、度々魔力持ちが誕生する。
そのなかでも、一五○年に一度、強大な魔力を持って生まれる女児は『聖魔女』と呼ばれ、恐れられていた。聖魔女は額に69の印があらわれる。
聖魔女は国を導く聖女にも、国を滅ぼす魔女にもなりうる。
危険な異分子は監視したほうがいい。そのため、聖魔女は王子と婚姻させるのが習わしとなった。聖魔女を娶った王子は、偉大な王になるという言い伝えがある。
王立魔法学校ロンペール・エル・エチセロでは、初等科、中高等科合わせて十二年間の一貫教育を実施している。
歴史ある学舎で、王侯貴族の子息令嬢は、魔力の制御から、治癒魔法・攻撃魔法など多岐に渡って学ぶ。
男子は詰め襟、女子はセーラーカラーのワンピース。男女共に茶色の制服で、王族だけに白の制服の着用が許されている。
──そのどちらにも属さない漆黒の制服を身につけているのが、ドロテア・ウサンディサーガだ。名が示す通り王族で、王太子サンダリオの妃である。
ドロテアは、孤児院オスクリダッドの門扉の前に捨てられていた。
額に6の印が浮かぶ赤ん坊を目にしたシスターは腰を抜かし、赤ん坊の将来を憂えてドロテア【神の贈り物】と名づけた。
孤児院で静かに暮らしていたものの、八歳のときに王宮に召し上げられ、同い年の第三王子サンダリオと婚姻を結んだ。
額に浮かぶ印は6のままだったが、成長するにつれ完全体になるだろう──聖職者の甘い見通しによって、ドロテアは聖魔女と認定された。
聖魔女を娶ったサンダリオは、王位継承順位一位の王太子になった。
本来であれば、聖魔女の能力が目覚めてから婚姻すべきだった。だが、ウサンディサーガ王家には、婚姻を急がねばならない事情があった。
国王カジェタノと王妃ローザンネの間に子はいない。しかし王は、後宮に住む数多の側室たちとの間に十六人の子がいた。うち、王子は十人。醜い世継ぎ争いが勃発していたのである。
第一王子マルセロは身体が弱く、第二王子ディオニシオの母は権力欲が強い。どちらを世継ぎに選んでも、不安要素がつきまとう。
玉座を狙うのは、王の実子だけではない。王族みなが爪を研ぎ、機会をうかがっていた。
謀反や革命を起こそうとする輩が出てくる前に、早急に世継ぎを決める必要があった。
──聖魔女ドロテアの出現は、渡りに船だった。
側近連中はこれ幸いと、第三王子のサンダリオにドロテアを嫁がせることにした。
サンダリオの母プリシラは平民出身のため、実家に権力が集中するリスクを避けられる。なにより、プリシラは側室のなかでも頭一つ抜けた寵姫。王の最愛だった。聖魔女を妃にすれば、サンダリオに箔がつく。
王族の身勝手な事情と忖度によって、ドロテアの不幸な結婚生活ははじまった。
七○○年前、海賊が先住民の魔女を焼き払ったいわくつきの土地は、度々魔力持ちが誕生する。
そのなかでも、一五○年に一度、強大な魔力を持って生まれる女児は『聖魔女』と呼ばれ、恐れられていた。聖魔女は額に69の印があらわれる。
聖魔女は国を導く聖女にも、国を滅ぼす魔女にもなりうる。
危険な異分子は監視したほうがいい。そのため、聖魔女は王子と婚姻させるのが習わしとなった。聖魔女を娶った王子は、偉大な王になるという言い伝えがある。
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男子は詰め襟、女子はセーラーカラーのワンピース。男女共に茶色の制服で、王族だけに白の制服の着用が許されている。
──そのどちらにも属さない漆黒の制服を身につけているのが、ドロテア・ウサンディサーガだ。名が示す通り王族で、王太子サンダリオの妃である。
ドロテアは、孤児院オスクリダッドの門扉の前に捨てられていた。
額に6の印が浮かぶ赤ん坊を目にしたシスターは腰を抜かし、赤ん坊の将来を憂えてドロテア【神の贈り物】と名づけた。
孤児院で静かに暮らしていたものの、八歳のときに王宮に召し上げられ、同い年の第三王子サンダリオと婚姻を結んだ。
額に浮かぶ印は6のままだったが、成長するにつれ完全体になるだろう──聖職者の甘い見通しによって、ドロテアは聖魔女と認定された。
聖魔女を娶ったサンダリオは、王位継承順位一位の王太子になった。
本来であれば、聖魔女の能力が目覚めてから婚姻すべきだった。だが、ウサンディサーガ王家には、婚姻を急がねばならない事情があった。
国王カジェタノと王妃ローザンネの間に子はいない。しかし王は、後宮に住む数多の側室たちとの間に十六人の子がいた。うち、王子は十人。醜い世継ぎ争いが勃発していたのである。
第一王子マルセロは身体が弱く、第二王子ディオニシオの母は権力欲が強い。どちらを世継ぎに選んでも、不安要素がつきまとう。
玉座を狙うのは、王の実子だけではない。王族みなが爪を研ぎ、機会をうかがっていた。
謀反や革命を起こそうとする輩が出てくる前に、早急に世継ぎを決める必要があった。
──聖魔女ドロテアの出現は、渡りに船だった。
側近連中はこれ幸いと、第三王子のサンダリオにドロテアを嫁がせることにした。
サンダリオの母プリシラは平民出身のため、実家に権力が集中するリスクを避けられる。なにより、プリシラは側室のなかでも頭一つ抜けた寵姫。王の最愛だった。聖魔女を妃にすれば、サンダリオに箔がつく。
王族の身勝手な事情と忖度によって、ドロテアの不幸な結婚生活ははじまった。
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