捻くれ者たちの建国記

あり

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眠る太陽と憤る月、放たれた星

その日太陽は眠りについた

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―その日、太陽は眠りについた。

大帝国アトラティス、それは世界を覆う闇を打ち払いし勇者が作り上げた理想郷。人々は勇者を太陽王と呼び、世界は全てをアトラティスに委ねた。アトラティスは闇を許さない。アトラティスに存在するのは眩い光のみ。皆が太陽を慕い、太陽は皆を平等に照らす。その栄華は永遠に続くものと思われた。

アトラティス建国から100年。太陽王リオは人々の前から姿を消した。人々は突如消えた光を求め苦しんだ。王妃セレナは、動揺する民たちにただ一言告げた。
「太陽王リオは、眠りにつきました」
事実上の王の崩御。100年という長きに渡る太陽王リオの統治は、そんな一言で終わった。光を失った世界が求めるのは、早急なる新たな太陽の即位。
―誰がリオの後継にふさわしいか
―光がなくては生きていけない
―早く我らを照らしてくれ
世界は一刻も早い新たな光を王家に求めた。
そうして、アトラティス建国以来初めての、後継者争いが始まった。

太陽王リオ、王妃セレナには、4人の子供がいた。これがすこぶる仲の悪い姉弟達で、もちろん後継もあっさりと決まるはずがなかった。彼らはセレナを議長に置き、各々声を張り上げる。
第1皇女 紅夢《こうむ》は言う。
「歴史に従うならば、長男である蒼明そうめいが継ぐべきでしょう。しかし蒼明に王たる資格があるでしょうか?己の才能を奢り、今まで何の努力もしてこなかった彼よりも、私の方がふさわしい。尊敬するお父様とお母様にふさわしい娘となるべく今まで誰よりも努力をしてまいりました。それは、他の誰でもないお母様が1番良くご存知のはず」
第1皇子 蒼明は紅夢を睨みつける。
「はっ!自分よりも俺の方が才能があるからと僻んでいるのだろう、姉上?無駄な努力はやめて、大人しくしていたらどうだ。俺は姉弟の中で最も父の才能を継いだ。ならば俺が王となるべきだ。いくら貴方が長子で能力があろうとも、所詮女。所詮努力ゆえの力だ。生まれ持った才能も持つ俺には勝てない」
第2皇子 緑瑛りょくえいは睨み合う兄姉を見ながら呟く。
「僕は何も言いません。いいえ、言えないと言った方がいいでしょう。なにせ僕はこのような身体ですから。まぁ、正直魔法だけで評価するなら僕が最も母上の才能を継いだと言えると思いますけれど。あぁいいえ、なんでもありません。いつ散るかも分からない命、皆様の決断にお任せしましょう…まぁ、黄華おうかを王に据えるということなら話は別ですが」
第2皇女 黄華は緑瑛の視線を感じ一瞥する。
「…その捻くれた言い方を控えよと言っておるのだ、緑瑛。我こそ王にふさわしいと名乗ればいいだろうに、なんと陰気なやつじゃ。その病弱な身体を差し引いても、お前が王にふさわしいとは思わんな。ならまだ妾の方がふさわしいじゃろうて。この帝国で妾に武芸で勝てるものなどおらんのじゃからな」
4人はそれぞれ我こそ父たる太陽王の後継にふさわしいと言い合う。紅夢と蒼明は声を荒らげて言い合い、緑瑛と黄華は睨み合いながら皮肉を掛け合う。家臣達も彼らの圧にたじろぎ、全く声を出せずにいた。それぞれがそれぞれを罵り、己が己がと主張し合う。そんな子らを前に、セレナはただ目を瞑り黙っていた。

どのくらい時間が経ったか、数時間か、数分だったかもしれない。止まらない水掛け論と激しくなるばかりの罵倒に、セレナは目を開け持っていた杖で思い切り床を突いた。
「「「「!!!!」」」」
天そのものが落ちてきたかと思うような、轟音。黙りこくっていた家臣達も、言い争っていた子供らも、一斉にセレナを見る。セレナは子供らに鋭い眼差しを向け、言い放った。
「もう結構。貴方たちの考えはよくわかりました。貴方たちは、今までリオの何を見てきたの?自分のことしか考えず、他者を否定し、家臣たちの顔も、姉弟の言葉も聞かない。そんな目と耳でこの帝国の長など務まるものですか!」
今まで聞いたことのない母の怒号に、4人は目を見開く。鋭い眼差しを変えないまま、母は子供たちに言い渡す。
「追放です。そんなに王になりたいのなら、一から自分たちで王となりなさい!!」

その場がどよめき、家臣達は堰を切ったように声を上げる。
「お、王妃!今、皇子殿下たちを『追放』するとおっしゃったのですか!?」
「今は一刻を争うのです!早く新たな太陽を民へ伝えなければ、先王が100年守り続けてきた均衡が崩れますぞ!」
「やっと話したと思ったら一体何をおっしゃいますやら、やはり王妃殿下にまつりごとは無理だったのです!」
「今からでも遅くありません、宰相殿に議長を変えられてはいかがでしょうか」
家臣はここぞとばかりに王妃につめよる。そんなとき、一際低い声がその場に響いた。
「セレナよ、どういうことか」
その声の主は、かつて勇者リオの相棒として世界を救い、100年の間太陽王リオと共にアトラティスを支えてきた宰相ディケであった。セレナも勇者一行として戦った身であるため、セレナとディケも100年来の付き合いである。
「彼らの言う通り、急に追放とだけ言われても戸惑うだけだ。」
「ディケ、貴方も感じたでしょう。この子達は王にふさわしくない。まだ未熟なのです。目先の玉座しか見えていない。」
「…そうだな、私もそう感じた。しかし後継を選ばねば、アトラティスの太陽を信じる民たちから反感を買うだろう。それこそ、絶妙なバランスで取れていた世界の均衡が危ない」
ディケの声は低く重く、しかし優しくセレナに問いかける。そして同じくセレナも、鋭い眼差しを抑え、至って冷静に答えた。
「えぇ、けれど、先王はすぐに後継を立てろ、とは言わなかったわ」
「…つまり、殿下たちが王にふさわしく育つための期間を設ける、と?」
ディケの言葉に再びその場がざわめく。
「お待ちくださいディケ様、それは、しばらく帝国に太陽を置かないということですか?」
「私に聞くことではないだろう、この話の議長はセレナ王妃だ。我らが太陽王リオは、後継の決定権をセレナ王妃に託している」
ディケがセレナに目をやり、それに合わせ家臣たちもセレナを見る。
「その通りです。…1年間、貴方たちに期間を与えます。その間、帝国アトラティスへの一切の立ち入りを禁じます。そしてその間に、自分の国を持ちなさい。王となっても良いし、宰相となり王を支えるのも良い。1年後ここへ帰ってきて、再び話し合いましょう。その時自分で作りあげた国で暮らしたいならそうすればいい。それでもなお、この帝国の太陽でありたいと思ったなら、その時こそこの国の王として擁立しましょう。この1年は、貴方たちを大きく成長させるだろうから。」
「1年!? 1年で、国を作り王になれというのか!?父王ですらアトラティス建国に5年かかったと聞いたぞ!」
蒼明が信じられないというように叫び、紅夢が蒼明を睨みつける。
「蒼明、なんて口の利き方なの?慎みなさい、今私たちの前にいらっしゃるのは、帝国の月 セレナ王妃よ」
蒼明は紅夢を睨みつけ、舌打ちをしてそっぽを向いた。
「何も国を繁栄させろなんて言っていないわ。民を集め、信頼を得て、彼らに王と認められればいいのです。他国の皇太子となり、次期王となってもいい。とにかく、リオがアトラティスを建国するのに何をして何を見てどう感じたか、知ってほしいの」
セレナは子供たち一人一人の顔を見て話した。そこには、彼らが知っているいつもの穏やかな母の顔があった。

「なるほどな、大方同意しよう、王妃殿下」
ディケがパン、とひとつ手を叩く。
「しかし、1つ疑問というか、問題がある」
その場が静まり返り、ディケの言葉を待つ。頼れる宰相殿が、今まで政に全く参加しなかった王妃に対して自分たちの疑問を投げかけてくれると信じて。
「1年間、下手をしたらこの先一生、誰がこの帝国を統治するんだ?」
セレナは、ディケ含める皆の目線に目を閉じる。
「…先王は、今すぐ後継を立てろとは言わなかった」
ふーっ、と一呼吸置き、
「…そして、子供たちを後継に、とも言わなかった」
ゆっくりと目を開け、4人の子供とかつての仲間、そして家臣たちに向けて言った。

「私が、アトラティスの王となります」

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