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第七章
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しおりを挟む私の想いを精一杯伝えた。
届くことを願って────。
前世と現世を割り切るという事は殿下にとってかなり悩ましい事だと思う。忘れることができないことなど重々承知だ。
殿下は、前世の私を込みで愛してくれる。むしろ、前世の私を主に愛しているのだとは思う。それが嫌という訳ではない。自分のことを大切に想ってくれる殿下は私も好きだ。
…………でも。ふと思ってしまう。それだと、対等な関係になれないのではないかと。ただでさえ、現世は王子として立場が上のはずなのにそういかない。いつまでも、私のことをお嬢様として見ている。このまま婚約者から結婚して夫婦になった所で、前世を引きずった関係が続くのは言わずもがなわかる。私は、それは望んでいない。
ようやく落ち着いたのか、口を開いた。
「……………そんなに、"お嬢様"は嫌ですか…?」
そう問う瞳は少しの悲しさと寂しさを持っていた。
「えぇ。だって貴方にとっての"お嬢様"は前世の話でしょう?今は違う。貴方はこの国の第一王子で私の婚約者です。…婚約者は普通、お嬢様だなんて呼ばないわ」
「…………」
「それにね」
再び黙り込む殿下に一番伝えたかったことを言った。
「お嬢様、だなんて貴方から呼ばれてたら心が休まらないわ。私は今世ではのんびり生きると決めたの。だって知っての通り前世では多忙な毎日だったんだもの。休みたくても休めなかったでしょう?だから、今世は必要以上にのんびりゆっくりと過ごそうと決めたの」
「そ、それは…申し訳ないです」
次期王妃となってしまえばそれができなくなってしまうかもしれない。しかし、今の私にとっては殿下と共に過ごす事が心のやすらぎになっている。
「ねぇ殿下。私の今の名前はアイシアよ?いい加減、今の私を見てほしい」
「今の…………」
「そうよ。…いつまでも過去に囚われていたって、駄目でしょう?それとも殿下は…ルディは、今の私では無くあの頃のお嬢様に恋をしているの?」
「…………それは」
殿下は少し戸惑った。
「……………………あぁ。そういうことなんですね」
しかし、しっかりと考えた後自分の答えを見つけられたようだ。
「……私が好きなのはシア。貴女です。過去の貴女ではなく、今の私を見てくれるシアです。…………ようやく執事という立場が無くなり貴女を心から愛せることが許されるのに、どうやら私は自分でそれを潰していたようですね」
苦笑混じりに語る。
「その立場を消して貴女を愛すなら…お嬢様という呼び名は適切ではありませんね。…………シア」
「なに?ルディ」
晴々とした爽やかな笑顔で私を呼ぶ。
「ようやく…………理解が追いつけました」
「それは良かったわ」
「…………シア、私から改めて言わせてください」
私は無言で頷いた。
「シア、私と共に生きてください」
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