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第三章
23 前世という名の過去編
しおりを挟むこれは、ルディエル・グリティスの前世…赤月のお話。
あるところにとてもとても優秀な少年がいました。
彼の名前は××。
彼は元々とある名家の次男でした。しかし、些細なことをきっかけに家を追い出されてしまったのです。
まだ、彼が17歳のときでした。
その名家の当主は昔から悪い噂が絶えない人で、追い出したのもおそらく当主にとってその方が好都合だったことがあったからでしょう。
名家は、皆腐っており誰も少年に優しくは接しませんでした。
何の感情も知ることなく、ただただ優秀に育ってしまった少年。
追い出されては行くところもなく、途方にくれてしまいました。
生きる意味を探しても見つからず、ならば終わらせようという考えにいたってしまったのです。
誰にも迷惑をかけずに静かに死のうとした彼はそれに似合った場所を見つけました。
そして、崖へとむかい飛び降りようとしたそのとき。
彼に声をかけた人がいたのです。
「ねぇ。そこから死ぬのはやめてくれないかな」
その声の主はとても若く見える青年でした。
ですが、声には何かの重みを感じる…不思議な感覚に少年は少し驚きました。
「ここは…妻の墓場なんだ」
さらに驚くことに、青年は大人のようで妻がいたと言います。
「……どうせ死ぬならうちにおいでよ」
少年は、理解ができませんでした。
どうして、今出会ったばかりの何も持たぬ自分にそんな声をかけられるのか。
気まぐれだとしても、変だ。
そう考えます。
「ここってさ…あまり人が来ないんだよね。…妻のお気に入りの場所なんだ。でも、そこに君が来た。…妻が僕と君を巡り会わせてくれたのかなって思うんだ。ちょうど、ある人材を探してたところだし」
「……」
理解できるような…できないような。
でも、少年は少し興味が湧きました。
自分のことを初めてしっかりと見てくれたからです。
「……自分でもいいなら」
「ほんと?…自分でも言うのなんだけど…かなり怪しくない?僕」
「…どうせ捨てる命だから」
「……わかった。…じゃあ行こうか」
「…」
無言で少年は頷き、自分のことを見てくれた彼についていった。
すると、一台のとても豪華な車が見えた。
「おかえりなさいませ、旦那様。………そちらの少年は…?」
「うちで雇うことにするんだ。執事見習いとして」
「……本気で言っておりますか」
「うん。…僕の人を見る目が確かなのは佐山が一番知ってるでしょ」
「…はい。そうですね」
佐山、と呼ばれた人は少年を見て何か納得し車の乗車を許可した。
「ほら、乗って。せっかく佐山から許可がでたんだから。…この車に乗るには彼の許可がいるんだよ。僕じゃ運転できないからね」
「…お願いします」
そう少年は一言言い、車へと乗った。
「執事見習い…」
「あぁ。むいてると思うんだよね」
「…自分が?」
「うん」
「……」
執事。そんなやったこともない…人生経験も浅い自分に務まるのだろうか、いやそれ以前の問題なのでは…。
少年の中で、何一つ理解も納得もできないまま車が走り続ける。
「大丈夫大丈夫。佐山にもさっき言ったけど、僕の人を見る目は確かなんだよ」
「……頑張ります」
「うん」
今言える精一杯の言葉を少年は伝える。
こうして少年の新たな人生が幕を開けた。
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