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54.断罪の始まり
しおりを挟む足を踏み入れた先では、既に国王陛下が玉座に座っており、床に座らせられたサルヴァドールと対面していた。
地べたに座らせられていることが不服なのか、苛立ちが隠しきれていなかった。手首には縄がかかっており、室内中に待機する騎士によって逃げ道が塞がれていた。
入室と共に、全員が国王陛下へ深々と頭を下げると、それが断罪開始の合図となった。
(あの方が、ハルラシオン国王)
遠目から見たことはあったものの、ハッキリと近くで見るのは初めてだった。サルヴァドールよりも若く見える容姿は、王家派が力を持てなかった理由に繋がっている気がした。
(……確か、陛下が基盤を作るより前に、貴族派という勢力が作り上げられていたんだったな)
サルヴァドールに散々侮られていた国王ではあるが、まとう雰囲気は厳格なものだった。
「サルヴァドール・オブタリア。ここに連れられた理由はわかるか」
「……国王陛下。あまりにも不躾ではありませんか? 私はこの国の公爵ですよ」
「今は罪人という立場が優先される」
サルヴァドールから放たれる殺気に近い圧を向けられていても、国王陛下は毅然とした態度を取られていた。
「罪人、ですか。騙し討ちをされたに過ぎませんよ。私が犯した罪はないかと」
王城に連れて来られたにもかかわらず、サルヴァドールは全く動じていなかった。自分が裁かれることなどないと、確信さえしているように見えた。
(スティーブが手にした、暗殺依頼書を消滅させたからか)
それだけではないだろう。ありとあらゆる悪事を働く際、決して証拠を残そうとはしないはずだ。
「その発言は、反省の態度が見られないと取ることができる。それでもよいか」
「えぇ。事実ですので」
余裕たっぷりの笑みを浮かべるサルヴァドール。少しの間沈黙が流れたかと思えば、陛下は小さく息を吐いた。
「その発言、覚えておくように」
陛下は淡々と話を進め始めた。
「サルヴァドール・オブタリア。そなたには貴族に対する暗殺首謀の容疑がかけられている。弁明はあるか」
「弁明も何も。根も葉もない噂ですよ」
ぎゅっとスティーブが手に力を入れたのがわかった。
「私が首謀である証拠はありません。大体、誰か死んだという事実があるのですか?」
こちらをチラリと見ながら薄ら笑いを浮かべる男に、怒りが沸いた。
私が殺さなかった事実を、自分の無罪主張へと利用したのだ。スティーブと同じく、手に力が入っていく。
「貴族に対する暗殺は、各方面から証言が出ている」
「証言、ですか。失礼ながら、私は各方面から恨みを買ってますからね。貶めようと虚偽の証言をしたのでしょう」
まるでそれでは証拠にならないと言わんばかりの態度だった。
しかし、陛下の表情筋は微動だにしなかった。
「では、この容疑は否定できると」
「えぇ。そもそも証拠が不十分であることを、陛下が一番わかられているのでは?」
にいっと笑みを深めるサルヴァドールに、意外にも陛下は肯定した。
「確かに、現状の証拠ではサルヴァドール・オブタリアが首謀であると決定付けることはできない」
「おわかりいただけて何よりですよ」
小さく頭を下げるサルヴァドールは、更に発言を重ねた。
「それではこの縄をほどいていただけますか? 私が無実だと証明されましたので」
立ち上がろうとするサルヴァドールを、二名の騎士達が肩を押さえた。
「……何の真似でしょう。陛下」
「そなたこそ何の真似だ。サルヴァドール・オブタリアにかけられた容疑は一つではない」
「……まさか一つ一つ不十分な証拠に弁明しろと? 時間の無駄でしかありませんね」
やれやれとため息をつくサルヴァドールに、陛下は初めてふっと笑みをこぼした。
「そんな面倒なことはしないさ」
そう宣言するように言い放てば、陛下はゆっくりと立ち上がった。
「サルヴァドール・オブタリア。ハルラシオン国の国益を害した数々の行為により、国家反逆罪を言い渡す」
(……国家、反逆罪)
通告された罪状は、私にとっても予想外のものだった。
「……なんだと」
恐ろしく低い声が室内に響き渡ったが、そんなことをものともせずに陛下は続けた。
「特に目立つものはーー」
「もしや帝国の大公女を誘拐したという話ですか? そもそもあの女は貴族ではなく暗殺者にございます。暗殺者を誘拐など、国益を害したものに入らない。そもそも、誘拐したのではありません。あの暗殺者に侵入されたんです。何はともあれ、これこそ無罪だと証明できる材料がある」
サルヴァドールは陛下の言葉を遮って、自分の意見をまくし立てるように話した。
「サルヴァドール・オブタリア」
「……失礼致しました。これが私の主張ですゆえ」
「何の話をしている」
陛下の問い掛けに、サルヴァドールは唖然とした顔に変わった。
「国益を害した行為は数多に存在するが、最も大きなものは我が国の英雄に対する暗殺行為だ」
我が国の英雄。
その言葉に反応するように、アシュフォードの方を見上げる。それに気づいたアシュフォードは優しく微笑んだ。そしてそのまま小さな声で、ある事実を教えてくれる。
「ラジャン子爵と取引をしたのは、ネルソン伯爵だけじゃないんだ」
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