52 / 60
51.彼の終着点
しおりを挟む殺すことだけが、敵討ちじゃない。
陥れることだって、十分意味があるんだ。
そう理解できたから、この作戦をとることができた。
(私の復讐は、これで終わる)
心の中で息を吐くと、ゆっくりガーランド卿の方を見ながら頷いた。
「はい、怪我はありません」
「ガーランド卿、何の真似だ」
私の反応に被るように、サルヴァドールは怒りに滲んだ声を漏らした。それに答えるように、ガーランド卿はサルヴァドールの方を振り向いた。
「サルヴァドール・オブタリア公爵。帝国の公女を誘拐した罪で貴方を捕らえます」
「なんだと?」
「国と国の関係を悪化させるとも言えるこの行動は、到底許されるものではありません。貴方には国家反逆罪の容疑もかかっていますので、同行拒否は認められません」
わなわなと震え始めるサルヴァドールを、私は冷ややかに見下ろしていた。
「どこに帝国の公女がいる? ガーランド卿。こじつけはやめてくれ」
「わからないとは言わせませんよ。貴方が帝国の大公殿下に会い、殿下より捜索の願いをされていたとご本人様が証言されています。しかし貴方はそれを逆手にとって、公女様を誘拐された」
ガーランド卿の丁寧な説明にも、意味がわからないと言う表情をするサルヴァドール。しかし、叔父様の存在が出たことから余裕はなくなっていた。
「現に公女様を縄にかけ、捕えている。これ程までに弁明が効かない状況はありませんね」
「ガーランド卿……まさか、その女が……ロザクが公女とでも言うのか?」
「ご存じでしょう。何を今さらーー」
「馬鹿なことを!」
ガーランド卿の言葉を遮りながら、声をあらげる。
「この娘はただの暗殺者だぞ。それが公女? しかも帝国の大公殿下の娘だと? 冗談で捕えられる程、私の地位は落ちぶれていない」
断言するサルヴァドールに、私はゆっくりと近付いた。
「理解しないのは構わないが、事実は一つだ。私はエスメラルダ・ノワール。オレリアン大公殿下の娘だ」
姪だという詳細を、目の前の敵に話してやる義理はない。
「戯言を。ガーランド卿、この小娘こそ不敬かつ虚偽の罪で捕えるべきだ」
「生憎ですがオブタリア公爵、エスメラルダ様が公女であることは帝国の皇帝が認めている事実です。抗議は意味をなしません」
「貴様……」
自分につかないガーランド卿に怒りを示しながらも、サルヴァドールの理性はまだ残っているようだった。
「愚かだな。仮にこの女が公女だとしても、その地位はすぐに剥奪される。何せ暗殺者だぞ? 帝国貴族が暗殺者を公女と認めるはずがない」
カッと目を開いて、嘲笑うように主張するサルヴァドール。その煽りに乗ることなく、ふっと笑みをこぼした。
「問題がないのは貴方がよく知っているだろう。私は殺さない暗殺者。今まで一人足りたも殺したことはない」
「その証明はーー」
「可能だよ。何せ、全員もれなく生きてるからな」
むしろ私が殺した人を見つけることこそ不可能だ。それをわかっているからこそ、サルヴァドールはぎりっと歯軋りをした。
「わからないなら教えよう、サルヴァドール・オブタリア。貴方は負けたんだ。王家派に」
「貴様っ……!」
こちらに一歩踏み出したその瞬間、ガーランド卿によってサルヴァドールは取り押さえられた。
「放せっ、何をしているのかわかっているのか……!」
床に押さえ付けられるサルヴァドールをただ見下ろしながら、私は小さく微笑むのだった。
「これで終わりだ」
その呟きと共に、サルヴァドールは騎士達によって部屋の外へ連れ出された。
「触らないで! 私を誰だと思っているの!」
「俺は何もしていない!!」
他の貴族派達も次々と捕獲され、連行されて行くのを眺めていた。
「ノワール様。今縄をほどきます」
「ありがとうございます」
貴族派のいなくなった部屋を見渡しながら、ガーランド卿にお礼を告げる。
「ガーランド卿。一つ頼みたいことが」
「もちろんです」
ガーランド卿に頼み事をすると、私は騎士と共に部屋で待機することにした。自分で動きたい気持ちもあったものの、公女という立場である以上、勝手な動きは騎士達の仕事を増やすことになる。
そう理解していたので、椅子に座って待つのだった。
窓を突き破って外に飛び出た仲間を思い出す。
(銃声を合図にアシュフォード達は外に飛び出る。そうすれば、音を聞いた騎士団が救助に来る)
この作戦は、叔父様の提案が無ければ成り立たないものだった。
(……貴重なものが見れたな)
信頼できる横顔のアシュフォード、場馴れしているローレンさん、歯を食い縛るルゼフ、終始驚いた顔のスティーブ。
もう二度と見ることがないであろう光景を、割れた窓に重ねて思い出していた。
しばらくすると、ガチャリという音と共にガーランド卿がドレスに包まれた女性を連れてやってきた。
彼女の顔を見た瞬間、ガタリと勢いよく立ち上がる。
(……面影が、残ってる)
泣きそうになる気持ちを押さえながら、女性に近付いた。
「……エヴァ」
「えぇ……貴女は、ラルダ?」
「あぁ……!!」
不安そうに尋ねるエヴァに頷くと、私は駆け寄った。
▽▼▽▼
更新を何度も止めてしまい大変申し訳ありません。本日より再開させていただきます。よろしくお願いいたします。
12
お気に入りに追加
349
あなたにおすすめの小説

【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
秋月一花
恋愛
公爵令嬢のカミラ・リンディ・ベネット。
彼女は階段から降ってきた誰かとぶつかってしまう。
その『誰か』とはマーセルという少女だ。
マーセルはカミラの婚約者である第一王子のマティスと、とても仲の良い男爵家の令嬢。
いつに間にか二人は入れ替わっていた!
空いている教室で互いのことを確認し合うことに。
「貴女、マーセルね?」
「はい。……では、あなたはカミラさま? これはどういうことですか? 私が憎いから……マティスさまを奪ったから、こんな嫌がらせを⁉︎」
婚約者の恋人と入れ替わった公爵令嬢、カミラの決断とは……?
そしてなぜ二人が入れ替わったのか?
公爵家の令嬢として生きていたカミラと、男爵家の令嬢として生きていたマーセルの物語。
※いじめ描写有り

アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。
サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。


悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

わたしは婚約を破棄され、捨てられたのだけれど、隣国の王太子殿下に救われる。わたしをいじめていた人たちは……。わたしは素敵な殿下に溺愛されたい
のんびりとゆっくり
恋愛
わたしはリンデフィーヌ。ブルトソルボン公爵家の令嬢として生きてきた。
マイセディナン王太子殿下の婚約者だった。
しかし、その婚約を破棄されてしまった。
新しい婚約者は異母姉。
喜ぶ継母と異母姉。
わたしは幼い頃から継母や異母姉にいじめられていた。
この二人により、わたしは公爵家からも追放された。
わたしは隣国の王都を目指して、一人孤独に旅をし始める。
苦しみながらも、後、もう少しで王都にたどりつくというところで……。
生命の危機が訪れた。
その時、わたしを救けてくれたのが、隣国のオディリアンルンド王太子殿下。
殿下に救われたわたしは、殿下の馬車に乗せてもらい、王都へ一緒に行く。
一方、婚約破棄をしたマイセディナン殿下は、その後、少しの間は異母姉と仲良くしていた。
わたしが犠牲になったことにより、マイセディナン殿下、異母姉、継母は、幸せになったと思われたのだけれど……。
王都に着いたわたしは、オディリアンルンド殿下と仲良くなっていく。
そして、わたしは殿下に溺愛されたいと思っていた。
この作品は、「小説家になろう」様と「カクヨム」様にも投稿しています。
「小説家になろう」様と「カクヨム」様では、「わたしは婚約を破棄され、捨てられてしまった。しかし、隣国の王太子殿下に救われる。婚約を破棄した人物とわたしをいじめていた継母や異母姉は間違っていたと思っても間に合わない。わたしは殿下に溺愛されていく。」
という題名で投稿しています。

婚約者の不倫相手は妹で?
岡暁舟
恋愛
公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる