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47.渡された武器
しおりを挟む実質、私への不利益はないようなものだった。
さらに、叔父様は微笑んで私の懸念を払い落とした。
「結婚だって口出すつもりはないよ。それに、任せることができそうな相手みたいだからね」
ここまで配慮してもらった以上、頷かない理由がなかった。養子の話を受けることにすると、ルゼフ達に私の出自に関して伝えた。
「いやーラルダさんが貴族とは。予想もしなかたですね」
驚いているのかどうかわからないルゼフだったが、どこか喜んでいるようにも見えた。
「お、俺は帝国の皇女様になんてことを……‼」
「ダテウス、正しくは皇女様のご息女です。まぁ、首一つで足りるのでは」
「なんてこと言うんだ、クリフ!」
「ダテウス、私は気にしてない」
「ありがとうございます!」
そう言えば、対面早々押さえつけられたのを思い出した。だが、ダテウスの行動はヴォルティス侯爵家の門番として正しい行動だ。口から出たのは本心だった。コルク子爵とローレンさんからも祝福をいただいた。
すると、隣に座ったアシュフォードが改めて手を取った。
「……ラルダ。先程の言葉だが」
「あぁ、私の答えだ。アシュフォードの求婚を受けたい」
「ラルダ……!」
大きく目を見開いた後にくしゃりと笑うアシュフォード。私もそれに釣られて笑顔になった。甘い空気が流れ始めると、パンっと誰かが手を叩く音がした。その音は叔父様によって発せられたものだった。
「ひとまず、救出に関する話を始めましょうか」
今まで見た叔父様のどの笑みよりも、作られている気がして、有無を言わせない圧があった。すっとアシュフォードが手を離すと、早速ルゼフ達も交えて本格的にスティーブ救出と貴族派失脚について話した。
話すとはいえ、私が受けた案の具体的な話と、この後の各自の動きについて叔父様から説明を受けるような形だった。全員、叔父様の案には賛成だったため、話はすんなりと終わった。
「……という訳です。早速ですが、明日の夜から動きましょう。スティーブさんの安全も確保するために。夜になる前に、王家派の頭――ハルラシオン国王陛下または王子殿下とお会いできればと思うのですが」
「秘密裏に取り次がせていただきます。クリフ」
「かしこまりました」
クリフさんとコルク子爵が取り次ぎ準備のために部屋を後にした。
「それなら、俺も明日役に立つものを作れるよう準備します。ヴォルティス侯爵様、一部屋お借りできますか?」
「可能だ。ローレン、案内してくれ」
「承知いたしました」
ローレンさんに連れられながらルゼフも退出した。
「ダテウス。武器庫から使えそうなものを取りに行くぞ」
「了解」
「アシュフォード」
「どうした、ラルダ」
「武器庫に銃はないだろうか」
「銃はないな。基本的にうちは騎士団だから……すまない」
「いや、いいんだ。引き止めてすまない」
アシュフォードとダテウスを見送ると、私は自分の暗器を取り出した。
(自分の暗器に不満があるわけじゃない……ただ、サルヴァドールが銃を持っている以上、銃があれば不利にはならないと思ったんだ)
ぐっと暗器を握り締めると、いつの間にか隣に移動していた叔父様がその手に触れた。すると、暗器を手にしていない反対の手を取った。
「叔父様」
「エスメラルダ。必要ならこれを」
「これは……‼」
手に置かれたのは銃だった。予想外の武器の出現にばっと顔を上げて、叔父様の方を見る。
「どうして」
「護身用だよ。他にも剣があるけど、私は撃つのが苦手なんだ」
「叔父様」
「姪にこんな物騒なものを持たせたくないのが本心だが、渡せず失うよりよっぽどいい」
暗殺者だとわかっているからこそ、渡してくれているのかもしれない。向けられた目線は真剣そのもので、後悔がないように銃を渡してくれているのがひしひしと伝わった。
「……無事に帰ってくるんだよ。命さえあれば、後は私が片付けられるから」
「ありがとうございます、叔父様」
小さく頭を下げれば、叔父様はじっと見つめていた。銃を受け取ると、暗器と一緒に服の内側にしまった。
「大丈夫です。必ず帰ってきます」
「……あぁ」
すると、叔父様はしゃがみこんで抱きしめてくれた。優しい温もりに、何としてでも死ぬわけにはいかないという思いが強くなるのだった。
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