17 / 60
16.不本意な再会
しおりを挟むどうして、何故ここにアシュフォードが。
困惑と焦りが一気に駆け巡る中、反射的に扉を閉めようとした。
「――っ」
しかし、単純な力勝負では勝つことができない。
「客にする対応にしてはあんまりじゃないか?」
「来客の予定はない」
楽しそうに笑うアシュフォードに、戸惑いは膨らむばかりだ。
(死体は完璧だったはず……! どうしてわかったんだ? それだけじゃない。何故リセイユ村がわかって)
考えることは多かったが、何一つ答えがわからなかった。扉への力は抜かないようにしていれば、アシュフォードはにやりと笑った。
「レジスが帰って来た」
「‼」
(コルク子爵……‼)
集中力に乱れが生まれた瞬間、勢いよく扉を開けられた。
「‼」
「邪魔するぞ」
そう言うと、私の体を持ち上げて中へと入り、扉を素早く閉めてしまった。急いでアシュフォードの手を振り払い、距離を取る。
「ロザク……いや、ラルダか? 聞きたいことがある。君もそうだろう?」
「……」
(名前まで知って……)
そう問われて、警戒しながらアシュフォードを見上げる。あの日のような殺気は感じられず、どこか穏やかな雰囲気を感じた。
(まさか、事情聴取をしに来ただけなのか?)
コルク子爵がアシュフォードの元に戻ったのなら、私に接触しに来るのは必然のことだ。ひとまず命の危険がないと判断すると、席に座るよう勧めた。
「……わかった。座ってくれ」
「ありがとう」
(今は追い出せないし逃げられない。……ひとまずは探るしかないな)
緊張した面持ちでアシュフォードの向かい側に座ると、じっと彼を見つめた。すると、最初に出てきたのは予想外の感謝の言葉だった。
「レジスを守ってくれたこと、感謝する。」
「!」
驚いた。まさか頭を下げられるだなんて思ってもみなかったから。
「事情はレジスから聞いた。君が殺さずに守ってくれたことも全部」
「……そうか。だが感謝される覚えはない」
暗殺者として依頼受けた時点で、恩は発生しないと思っている。だからこそ、アシュフォードが頭を下げる理由はなかった。
「ここに来た理由がコルク子爵に対する謝礼なら不要だ。帰ってくれ」
「謝礼じゃないさ。それはついでだ」
「……」
(何を企んでる?)
アシュフォードがロザクを追いかけて来た理由がわからなかった。
「……長話になるのなら茶を出そう」
「悪いな」
ひとまずは話を聞くことしかできなさそうだった。
お茶を出すと、自分も飲んでどうにか心を落ち着かせる。
「いい茶葉だな」
「……貰い物だ」
家に入って来てからずっと好意的な英雄に、却って不信感が募るばかりだった。
「謝礼以外に用があると言ったな。何用だ」
「迎えに来たんだ」
「……何だって?」
以前対峙した時とはまるで別人のように爽やかに微笑んだアシュフォードに、警戒が増す。
「俺の話になるが……ハルラシオンの英雄として、名を馳せるほど強くなった」
「……知っているさ」
「だがもう一つ、ヴォルティス侯爵という肩書きのために、婚約者ないしは妻を見つけなくてはいけない」
(……勝手に見つければいいじゃないか)
いまいち話の着地点が見えずにいれば、話題はロザクへと繋がった。
「誰でもいい訳じゃない。俺にだって求める理想がある」
「理想……」
「あぁ。それが“俺より強い人”――ロザクだった」
「…………は?」
アシュフォードが放った言葉が理解できずにいると、いつの間にか彼は私の隣に立っていた。そして跪くと、そっと手を取られる。
「ロザク――いやラルダ。君の実力に惚れ込んでいる。俺と結婚してくれ」
「!?」
一体何を言い出すんだこの男は。
アシュフォードの思考回路に困惑し始めると、彼はさらに話を続けた。
「まさか自分より強い人に出会えるとは思わなかった。何よりもそれが嬉しいんだ」
「何を言って……たかが暗殺者が英雄より強い訳ないだろう」
「謙遜するな。あの日君が本気じゃなかったことくらいわかっている」
(……どういうことだ。だから私の方が強い可能性があると勘違いしているのか?)
訳がわからない。可能性だけを追い求めてリセイユ村まで来たとでも言うのだろうか。
「それはもう一度再戦しろという意味か?」
「再戦か。是非とももう一度手合わせ願いたいが、君に怪我はさせたくない」
「喧嘩売っているのか?」
「まさか。お互い、手を抜く戦いなど無意味だろう? 互角の実力なら、怪我は付き物だ」
これは暗殺者に向ける眼差しではない。初めて受ける生温かい目線がさらに困惑を生んだ。
「悪いが他を当たってくれ」
「すまないラルダ。それはできない。君以上に強くて美しい女性など――」
バタン。
言い切る前に、アシュフォードは気を失って横たわってしまった。正確には眠っているのだが、効き目が今出たらしい。
「……焦った。効かないのかと思ったぞ」
スティーブからもらっていた睡眠薬を、先程出したお茶に混ぜておいた。即効薬と言う割には効き目がでなかったので不安になっていたが、アシュフォードがぐっすり眠っている辺り、問題なさそうだ。
(出発前に毒薬や風邪薬とあらゆる薬を渡されたが……睡眠薬もあってよかった)
安心するのも束の間で、今はこの男をどうにかしなくてはならない。
(結婚してくれって……新手の罠か? それとも気を抜かせるための文句か……どちらにせよ、危険なことに違いないな)
英雄を外に放り出すわけにも行かないので、ひとまず縄できつく縛っておくことにするのだった。
10
お気に入りに追加
353
あなたにおすすめの小説
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
【完結】婚約破棄された私は昔の約束と共に溺愛される
かずきりり
恋愛
学園の卒業パーティ。
傲慢で我儘と噂される私には、婚約者である王太子殿下からドレスが贈られることもなく、エスコートもない…
そして会場では冤罪による婚約破棄を突きつけられる。
味方なんて誰も居ない…
そんな中、私を助け出してくれたのは、帝国の皇帝陛下だった!?
*****
HOTランキング入りありがとうございます
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす
初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』
こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。
私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。
私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。
『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」
十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。
そして続けて、
『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』
挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。
※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です
※史実には則っておりませんのでご了承下さい
※相変わらずのゆるふわ設定です
※第26話でステファニーの事をスカーレットと書き間違えておりました。訂正しましたが、混乱させてしまって申し訳ありません
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる