15 / 60
14.王家派の救世主(アシュフォード視点)
しおりを挟むヴォルティス侯爵家周辺をうろついていた不審者が地下に集結した。連れてこられたのは十人の男性で、年齢はバラバラだった。
しかし共通点としては、レジスのようにボロボロの影の薄い服装だった所だ。そして、予想通り彼らは全員、レジスと同じ境遇を語った。
「まさかこんなにもロザクに救われた者がいるとはな。ダテウスの野生の勘は正しかったか」
「それだけじゃないぞ、アシュフォード。全員王家派っていうおまけつきだ……ん? 野生の勘?」
「聞き間違いだ。気にするな」
さらりと流しながら微笑んだ。
「……恐らくロザクは暗殺を意図的にしなかったんだな。貴族派を陥れるために。理由こそわからないが、重要なのは王家派を救ったという事実だ」
「暗殺者じゃなくて詐欺師だったって訳だな」
「馬鹿を言うな。あの強さは俺に並ぶ……もしくはそれ以上だ。例えるなら詐欺師じゃなくて救世主だ。失礼なことを言うな」
「そ、それは悪かった」
詐欺師。確かにやったことだけに焦点を当てればそうなる。だが、ロザクの強さまで兼ね合わせれば、その言葉が相応しくないと言える。
「アシュフォード様。追加に判明したことがございます」
「どうした、ローレン」
「暗殺された日を聞いた所、最も古い者で四年前だそうです。他にも三年前、二年前の者もいます」
「気まぐれではないな。……これだけのことをし続ければ、自分の死体偽装なんて朝飯前だろう」
ロザクは生きている。確実な証拠が見つかった訳ではないが、状況が裏付けていた。
「ダテウス、ローレン。ここに来た者を全員保護する。この件は口外禁止だ。かん口令を敷く。絶対に漏洩させるな」
「わかった」
「御意」
レジス同様、彼等もこの屋敷の中で最高機密として扱うことにする。貴族派への牽制に使えることは確かだが、まだその時ではない。
「ローレン、彼等のために衣服と食事を準備してくれ」
「承知しました」
一段落つけば、ダテウスが興味深そうに隣に立った。
「随分嬉しそうだな……まぁそれもそうか。もやが晴れたようなものだからな」
ようやく違和感が払拭できた。確かに喜んでいる理由はそれが一つだ。
「でも驚いたな。まさか本当にロザクが女だなんて。おまけにアシュフォードと互角に戦うだなんて化物じゃないか」
「ダテウス、お前ももっと喜んだらどうだ?」
「何で俺が喜ぶんだ。気分が晴れたのはお前だろう」
「言った筈だぞ? 俺は自分より弱い女など興味はないと」
これ以上ない喜びの笑みを、ダテウス目掛けて見せてやる。
「俺の恋愛対象は“俺より強い女だ”。忘れたのか?」
「お、お前! 正気か!! 相手は暗殺者だぞ!!」
「血で染まっていない救世主だ。ロザクは限りなく白に近い。あれは本当の殺気を知らない目だった」
今思えば、剣を交えたあの瞬間から、俺は彼女に興味を持っていた。崖の上で素顔を露にした瞬間、目が離せなくなった。そして何よりも、崖から落ちる時に見せた笑顔。今でも鮮明に思い出せる程、俺の脳裏に焼き付いている。どうにかもう一度見たいと思うばかりだ。
「だとしても相手は素性の知れない奴だ。そいつを迎え入れるなんて正気じゃない」
「言葉の使い方に気を付けろダテウス。王家派にとっての功労者に“そいつ”などと使うな」
「うっ。悪かった」
鋭い視線で圧をかければダテウスは怯んだ。
「いいじゃありませんかダテウス」
「クリフ!」
レジスの面倒を見終えたようで、話は大方ローレンから聞いたとのことだった。
「生涯独身でいられるより良いでしょう。今まで女性に見向きもしなかったんですよ、ここは喜ぶところです。水を差してはいけません」
「だ、だけどな」
「言いたいことはわかります。私もありますから。ですが、アシュフォードが頑固なのは貴方もよく知っているでしょう」
「…………」
チラリとこちらを伺うダテウス。その眼差しは考え直せという念付きのものだった。だが、折れる気など微塵もない。
「はぁ……初恋が来たことを祝福するべきか」
「そうですよ」
一切表情を変えない俺を見て、ダテウスは説得を諦めた。
「俺はロザクを探しに行く」
「いや、どこにいるかもわからないのに無茶を言うな」
「気配なら覚えている」
「だとしても。目星くらい付けてから出発するべきだ」
「目星ならあるさ」
「えっ」
死体偽装までして、死んだことにしたロザク。彼女がヴォルティス侯爵家付近にいないことは簡単に予想できる。
「死を浸透させるなら、知り合いがいる場所では危険が伴う。そうなれば、ヴォルティス侯爵領及びコジャンの組織から離れた場所だ。そこから片っ端に潰せば、必ず見つかる」
「意外と考えてたのか……」
「当たり前だ。そう心配するな」
ふっと笑うと、今度はクリフが口を挟んだ。
「良い機会です。長期休暇だと思って羽を伸ばしてください。まぁ実際は人探しですが」
「……それもそうだな。ようやく命の狙われない日がやって来たんだ。ゆっくり休んでこい」
命の狙われない日。それは暗殺だけでなく、戦場も意味していた。戦争から帰還した後も休まずだったことを、二人はよく知っている。だからこそ、その厚意をありがたくもらうことにした。
「留守は任せるぞ」
「もちろんだ」
「お任せください」
休暇をもぎ取ると、必要な仕事だけ済ませて出発することにした。
(ロザク、必ず見つけ出す)
10
お気に入りに追加
360
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?
サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。
「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」
リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

忘れられた薔薇が咲くとき
ゆる
恋愛
貴族として華やかな未来を約束されていた伯爵令嬢アルタリア。しかし、突然の婚約破棄と追放により、その人生は一変する。全てを失い、辺境の町で庶民として生きることを余儀なくされた彼女は、過去の屈辱と向き合いながらも、懸命に新たな生活を築いていく。
だが、平穏は長く続かない。かつて彼女を追放した第二王子や聖女が町を訪れ、過去の因縁が再び彼女を取り巻く。利用されるだけの存在から、自らの意志で運命を切り開こうとするアルタリア。彼女が選ぶ未来とは――。
これは、追放された元伯爵令嬢が自由と幸せを掴むまでの物語。


異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。
バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。
全123話
※小説家になろう様にも掲載しています。

地味令嬢を馬鹿にした婚約者が、私の正体を知って土下座してきました
くも
恋愛
王都の社交界で、ひとつの事件が起こった。
貴族令嬢たちが集う華やかな夜会の最中、私――セシリア・エヴァンストンは、婚約者であるエドワード・グラハム侯爵に、皆の前で婚約破棄を告げられたのだ。
「セシリア、お前との婚約は破棄する。お前のような地味でつまらない女と結婚するのはごめんだ」
会場がざわめく。貴族たちは興味深そうにこちらを見ていた。私が普段から控えめな性格だったせいか、同情する者は少ない。むしろ、面白がっている者ばかりだった。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる