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41.最高の贈り物(完)
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昼食を食べ終わると、ルルメリアは花冠を作ると言って花畑に駆けだした。私とオースティン様は、その様子を眺めながら二人で話を始めた。
「ルルさんとは話せましたか?」
「はい、おかげさまで。ありがとうございます、オースティン様」
「私は何もしていません。ですが良かったです」
昨日オースティン様がルルメリアのことを優先させてくれたおかげで、私は娘から本音を聞くことができた。私は頭が上がらないほど、オースティン様に感謝の気持ちを抱いていた。
「クロエさん。クロエさんはご自身が思っているよりも、何倍も何十倍もルルさんの母として役目を全うされていると思います。昨日もお話しましたが、ルルさんの洗練された貴族としての動きは、教えが良かったから身に着けられたものかと」
「あ、ありがとうございます」
こちらを射抜くほど真っすぐな眼差しで、真剣な声色で褒めてくれるオースティン様。何度褒められても慣れないが、母親として見られていることは本当に嬉しいことだった。
「私は子育てが未経験なので、素人の言葉にはなるのですが……ここまでルルさんを素敵な淑女に育てるのは並大抵のことではなかったと思います。それでもクロエさんは成し遂げた。そのひたむきな努力と、責任をもって育て上げるクロエさんの姿にどうしようもなく惹かれるんです」
オースティン様の言葉の一つ一つが、胸の中に広がっていく。
「クロエさんは出会った時から、私にとって眩しく美しく……何よりも尊敬できる素晴らしい方でした。話を聞いてくださったあの日から、私は既に心を奪われていました。……それは今も変わりません」
そう言うと、オースティン様は私の片手を取った。じっと真剣に見つめる眼差しは変わらず、ふわりと微笑みを浮かべた。
「私は、子育ては未経験ですが、クロエさんの力になってルルさんの成長を今後も見守ることができればと思っております」
指先から熱が伝わってくるのがわかった。
「クロエ・オルコット様。どうか私と、結婚してくださいませんか?」
その瞬間、私は少しの驚きと喜びに包まれた。
三人の時間が続けばいいのに、そう願ったことが叶うのかと思うと嬉しくて仕方がなかった。
(……オースティン様はいつも私を肯定してくれる。それに、自分ではわからないことを褒めてくれて)
褒めて、肯定してくれる言葉に毎回助けられている自分がいた。身分など気にせず、私とルルメリア自身を見続けてくれた人。
(オースティン様は私に助けられたというけれど、私もオースティン様に助けてもらった)
ルルメリアの成長を見たいと言ってくれる安心感もそうだが、何よりも私がもっと、これから先もずっと、オースティン様の傍にいたいと思った。
この先の人生で、彼よりも素敵な人にはめぐり合わない。そんな自信があった。
だからこそわかる。この手を放してはいけないと。
私は早くなる鼓動を抑えて呼吸を整えると、オースティン様に向かってこれ以上ないほど笑みを浮かべた。
「喜んでお受けいたします。オースティン・レヴィアス様」
「‼」
そう答えた瞬間、オースティン様の目が見開かれるのがわかった。そしてすぐさま引き寄せて、抱きしめられた。
「オ、オースティン様」
「ありがとうございます、クロエさん。……俺の一生をかけても、必ず幸せにしますから」
「……ふつつかものですが、よろしくお願いしますね」
ぎゅうっと力強く抱きしめられると、私もそっと腰に手を回して抱きしめ返すのだった。
少しの間二人の時間を過ごすと、ルルメリアの声が聞こえた。
「やった――!!」
満面の笑みでこちらに駆けてくるルルメリア。
「おーさん、おかーさん。おめでとうございます!」
今までで見た笑顔の中でも、一番生き生きとしたものだった。
「ありがとう、ルル」
「ありがとうございます。ルルさん。クロエさんは必ず幸せにします。もちろんルルさんも」
「うんっ。おかーさんなかしたらだめだよ!」
「もちろんです」
ルルメリアのさりげない一言に、私は涙腺を刺激される。ただでさえ、オースティン様と結ばれて嬉しいのに、追い打ちをかけられた感覚だった。
「ふたりとも、かたてをだしてください!」
「「?」」
自信満々の笑みでそう告げるルルメリアに、私達はキョトンとしながらも手を出した。
すると、ルルメリアは私とオースティン様の指に花の輪を付けた。
「けっこんゆびわ! ふたりともおしあわせにね!!」
まさかこれを見越して、花冠ではなくこの指輪を作っていたのだろうか。そう思うと、ルルメリアの優しさにいよいよ耐えられず涙がこぼれた。
「うぅ……ありがとうルル」
「えっ⁉ どうしてないてるのおかーさん!」
「ルルさんの指輪が素敵すぎて、嬉しくて泣いているんですよ」
「そうなの?」
不安そうに聞くルルメリアに、私は何度も頷いた。
「うん……本当にありがとう」
こんなにも優しい子に育って、私はもう満足だった。
もちろん、これから先の成長が楽しみなのもある。
「あたし、ひろいんなの!」そう言ったあの日を思い出せば、この子が立派に成長してくれた。それを再び実感しては、嬉しくて涙がこぼれ続けた。
私は涙を拭いながら、指輪をもらった手でルルメリアの頬に触れた
「ルルは自慢の娘だよ」
これから先も、それが変わることはない。そう思いながら私はルルメリアを真ん中に、オースティン様と一緒に抱きしめるのだった。
(完)
▽▼▽▼
ここまで『義娘が転生型ヒロインのようですが、立派な淑女に育ててみせます!~鍵を握るのが私の恋愛って本当ですか!?~』をお読みいただき、誠にありがとうございました!!
この話を持ちまして、完結とさせていただきます。
何度も更新が止まってしまったのにもかかわらず、最後までお付き合いいただいたこと、読者の皆様には心より感謝申し上げます。
読んでいただいた皆様に少しでも楽しんでいただけたのなら、とても嬉しく思います。最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!
▼▼▼
新作『ガン飛ばされたので睨み返したら、相手は公爵様でした。これはまずい。』の投稿を始めておりますので、もしよろしければ覗きに来ていただければ嬉しく思います。
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