33 / 41
33.ハーレムとは違う恋
しおりを挟む好奇心の眼差しに、私は小さくと微笑んだ。
「実はこの前の花市場で、オースティン様のお知り合いに会って。その方は貴族のご令嬢だったの」
「ごれーじょー」
「うん」
私が受けた屈辱を、五歳の娘に話すのはいかがなものだろうかと引っ掛かる部分もあった。
(でも……ハーレムという言葉を考えれば、聞かせられない話じゃない)
何よりも、きらきらを解き明かすには必要な話だった。
「私、その方に侍女だと言われたの」
「じじょ……」
「簡単にいうとね、貴族には見えない。令嬢とも思えない。……それよりも下だと、見下されたと言えばいいのかな」
どうすればルルメリアにわかりやすく伝えられるか、考えながら慎重に言葉を選んだ。
伝わっているか不安になりながら娘を見れば、凄く不機嫌そうな表情になっていた。
「ル、ルル?」
「やなひとだ」
「嫌な人……ご令嬢のこと?」
「うん。やなひと。だっておかーさんはぼつらくでもきぞくだもん」
「ルル……」
ムスッと頬を膨らませるルルメリアに、私は嬉しくなってしまった。
「……ありがとう、ルル。私も凄く嫌な気持ちがしたし、何より悔しくて。だからもう二度とそんなこと言わせないぞって頑張ることにしたんだ」
「おかーさんはもえてるんだ!」
「燃えてる……ふふっ、そうかも」
ルルメリアがぎゅっと力をいれた両手を、胸の前に掲げた。その動作が可愛くて頼もしくて、自然と笑みがこぼれた。
「おかーさんはがんばってるから、きらきらしてるんだね」
まるで納得したという声色のルルメリアに、私の笑みはスッと消えた。そして一呼吸つくと、真剣にルルメリアを見つめる。
「ううん、違うの。きらきらしてるのわね、私がオースティン様に恋してるからなんだ」
「こい……おかーさん、おーさんのことすきなの?」
不安と疑問が混ざった表情に、私は自信を持って頷いた。
「うん、好きなんだ」
そこからは自然と自分の気持ちを表現するかのように語り始める。
逆はーれむとは全く別物になる純粋で、単純な恋愛もあるのだということを、どうかルルメリアにも知って欲しかった。
「オースティン様のことが好きで、隣に立ちたいって思った時に、侍女だなんて言われたままじゃ駄目だもの。どこまでできるかわからないけど、できるところまで頑張りたくて……だから練習してたんだ」
本音を吐露した恥ずかしさを隠すように笑みを浮かべると、ルルメリアはじっと私の方を見ていた。そして、再び両手を胸に掲げた。
「あたし、おかーさんのことおうえんする! あたしもおかーさんとがんばる!」
「……ありがとう、ルル」
一緒に頑張ってくれるのはとても心強い。私の練習にルルメリアが付き合うとなると、これは二人で成長するよい機会なのかもしれない。
「それじゃあ頑張ろう!」
「おー!」
二人でそう決めると、早速練習を再開した。立ち姿や雰囲気だけでなく、表情や細かな所作まで見ていくことにした。
これはもはや実質淑女教育になっていたが、ルルメリアは楽しそうに勉強してくれた。
以前抱いていた「おひめさまになる!」という気持ちというよりも「おかーさんとがんばる!」という思いが強いことに、私は感動するばかりだった。
そんな上達する中、演奏会の三日前に素敵すぎる贈り物が届いたのだった。
172
お気に入りに追加
670
あなたにおすすめの小説
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。

酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる