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26.お姫様ごっこをしましょう

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 昨日は更新できずに申し訳ありませんでした。

▽▼▽▼



 夕食を食べ終えると、ルルメリアが嬉しそうに話を始めた。

「このまえのばざーでいっしょになったこが、ぱんやさんにきたんだ!」
「そうなの」
「うんっ」

 バザー会場から、マイラさんのパン屋まではそう遠くない。偶然訪れてもおかしくはないので、運命的な導きに驚きつつ耳を傾けた。

「それでね。こんどあそぶやくそくしたの!」
「そっか、それはよかった」

 遊ぶ約束まですれば、立派なお友達だろう。オースティン様だけでなく、ルルメリアに年相応の友達ができて良かった。

「よっかごにね、はんなちゃんのおうちにいくやくそくしたの。いってもいい?」
「うん、いいよ」
「やった!」

 まさかそこまで具体的に話を進めていたとは思わなかった。ただ、それほど親しくなという証拠なので喜ぶべき部分だろう。

 遊ぶ当日、パン屋さんに迎えに来てくれるそうなので、ハンナちゃんとハンナちゃんのお母さんに是非とも挨拶をしよう。それで問題なさそうだったら、送り出そうと決めるのだった。



 翌日、遊ぶことがよっぽど嬉しかったのかルルメリアはそわそわし始めた。

 元々元気のある子だったが、動きが粗雑になっていった。お皿をテーブルに置く時にガチャンという音をたてたり、ぬいぐるみなどで遊んだら片付けなくなったり、家の中を全速力で走る等と少し興奮しているようだった。

 ……一応、他所の家に預ける予定なんだよな。

 それを踏まえると、ある程度の動きは注意した方が良い気がした。我が家でできないことを、ハンナちゃんのお家でできる気がしない。

 ……ここで淑女教育を始めるのか。いや、ルルメリアには早すぎるような気がするんだけどな。

 どうしようかと悩みながら昼食を済ませた。

 ルルメリアの性格上、勉強を嫌がるのは聞かなくてもわかる。そうなれば、一対一で教えると理解された瞬間やる気をなくしてしまう。ただ、このまま元気すぎる行動を直さないで送り出すのも不安が残ってしまう。

 うーんと頭を悩ませていると、ルルメリアが奥の部屋から洋服を持ってやって来た。

「ねー、ねー、おかーさん。はんなちゃんちにどっちのふくきていこうかな?」

 まだ三日後のことなのに、よほど楽しみなのか服を悩み始めていた。そんな姿は微笑ましいので、笑みを浮かべながら真剣に見比べる。

「そうだね。こっちの服はピンクで可愛いよね」
「うん、おひめさまみたい!」
「そうだね、お姫様――」

 復唱したところで、はっとあることに気が付いた。もしかしたら、今思い付いた方法なら上手くいけるかもしれない。

「ねぇルル。せっかくだから、そのお洋服着てみない?」
「うん、そうする!」

 大きく首を縦に振ると、たったったと自分の部屋に戻っていった。着替えて戻ってくると、私はぱちぱちと拍手をして褒めた。

「おぉー、良く似合ってるよルル」
「ほんと?」
「うん、お姫様みたい」
「えへへ」

 まんざらでもない様子で喜ぶルルメリアに、私はそっと提案した。

「ルル、せっかくだからお姫様ごっこする?」
「おひめさまごっこ!?」

 よし、食いついた!
 ぱあっと目を輝かせながら、前のめりで聞き返してくれた。

「そう、お姫様ごっこ」
「する‼ あたしおひめさまになる!」
「じゃあやってみよう。私執事役やるね」
「うんっ!」

 これでさりげなく淑女教育ができるぞ! と思いながらルルメリアに誘導し始めた。

「お姫様と言えば、やっぱりお茶会じゃないかな?」
「おちゃかい、あたしもやりたい!」
「では、準備しますのでそちらにお座りください、お姫様」
「はーい!」

 それっぽい口調でルルメリアを椅子に座らせる。我が家には高級なティーセットはないものの、なるべく近い茶器を用意する。

「こちらをどうぞ」
「いただきます!」

 うん、元気がよい。お上品ではないものの、その言葉を直すべきかは悩みものだ。
 飲み終えたルルメリアは、ガチャンと大きな音を立ててカップをテーブルに置いた。

「ルル姫様、どうでしょう?」
「とてもおいしいです!」

 にこにこと笑みを浮かべるルルメリアに、私は口元に片手をたててこっそりと伝えた。

「ルル、せっかくならもっとお姫様っぽくなれる技、知りたくない?」
「おひめさまっぽく……!」

 目を輝かせるルルメリアの正面に座って、茶器を手に取った。

「こうやって、持ったカップを静かにそっと置いてみるの。それで、少しだけ微笑んで美味しかったですというと、お上品でお姫様っぽく見えるよ」
「ほんとだー!」

 私の中にある淑女の作法を思い出しながら、できる限り品よく振舞ってみせた。純粋なルルメリアは、すぐに納得してくれた。

「やってみる?」
「うん!」

 さっそくルルメリアは、もう一度茶器を手にして一口紅茶を飲む。そうしてじっと茶器を見つめながら、息を殺してそっとテーブルに置いた。

「おいしかったです」
「凄いよルル、本物のお姫様みたい。素敵だね」
「ほんと? やった!」

 まだまだ粗削りではあるものの、ガチャンとは置かなくなった。それに加えて以前より、落ち着きのある動きに見える。

 まずは一つ、教えることができた気がするなと、内心で喜びを噛み締めていた。
 
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