上 下
17 / 41

17.お友達を作りましょう

しおりを挟む



 翌日、マイラさんの元にパンを買いに行くと、興味深い情報を教えてくれた。

「クロエちゃん。お節介だったら聞き流しておくれ」
「マイラさんに限って、そんな風に思うことはありませんよ。どうされました?」
「ありがとね。実は私もお客さんに聞いた話なんだけどね、今日は近くの広場でバザーがあるみたいなんだ」
「バザー、ですか」

 マイラさんの言うバザーとは、子ども達が作ったものを出品しているものとのことだ。

「買う買わないは置いといて、今日やるバザーは地域の子ども達の交流の場みたいなとこがあってね。ルルちゃんも行ってみたらどうかなって」
「なるほど、凄くためになるお話ありがとうございます」

 マイラさんの言うことはもっともで、そろそろルルメリアにも同年代の子どもとの交流をしてほしいと思っていた所だった。

 早速家に帰り昼食を終えると、ルルメリアに誘ってみる。

「ルル、今日はお出掛けしない?」
「おでかけ?」
「そう。今日は広場でね、バザーがやってるんだって」
「ばざーってなに?」
「ルルと同じくらいの子が作ったものを、売るイベントかな」

 バザーの説明だけでは首を縦に振らないルルメリア。これだけでは興味を持てないようだ。

「ルルと同じくらいの歳の子が集まるみたいなの。もしかしたら、お友達できるかもよ?」
「おともだち……!」
「行く?」
「うん、いきたい!」
「よしっ、じゃあ準備しよう」

 やったー! と言いながら、自分の部屋に戻ったルルメリア。身支度を整え始めたのを見届けると、私も外出の準備をし始めた。

 かなり喜ぶ様子を見ていると、どこか寂しい部分もあったのかなと感じてしまう。ルルメリアにとって、良い一日であってほしいと思うばかりだ。

「ルル、私と一つ約束してくれる?」
「なに?」
「貴族だってことを秘密にしてほしいんだ。だから、オルコットって口に出すのは駄目」
「どうして?」
「私達は没落とはいえ貴族になっちゃう。バザーにいる子からすると、びっくりさせちゃうから」

 どうにか優しい言葉で言い換えてみたものの、ルルメリアが納得してくれるかはわからない。

「もしかして、きょりおかれちゃう?」
「……うん。だから内緒にしよう」
「わかった!」

 大きく頷くルルメリアに安心する。

「ルル、今日は暑いから帽子被ろうか」
「おきにいりのぼうし!」

 可愛らしい薄いピンク色のワンピースに、白い帽子を被ったルルメリア。我が娘ながらに愛らしい。私はシンプルな青いワンピースをまとった。

 シンプルさから、貴族には見えないはずだ。

「行こっか」
「うん、しゅっぱつ!」

 わくわくする様子から、友達が作りたくて仕方のない様子だった。

 初めて参加するイベントに、私だけが緊張していた。果たしてルルメリアは友達ができるかどうか、馴染めるかどうかと心配ばかりが大きくなるばかりだった。


 広場に到着すると、たくさんの子どもと大人で賑わっていた。噴水を取り囲むようにお店が並んでいた。

「ルル、食べたいものがあったら言ってね」
「うん!」

 ルルメリアの視線はお店よりも、子ども達が集まる場所にあった。ひとまず広場を歩いてみることにした。すると、子ども達が集まって工作しているスペースを見つけた。

「……ルル、あそこで花冠作ってるって」
「はなかんむり……!」
「作ってみる?」
「うん!」

 受付らしき女性に、ルルメリアも大丈夫か尋ねる。笑顔で歓迎されたので、頑張れと送り出すのだった。

(大丈夫かな……変なこと言わないといいんだけど)

 さすがに、同い年の子にハーレムやイケメンという言葉は言わないと願っている。そもそも、そんな話題にならないとは思っているのだが。

 不安げに様子を見ていると、近くのお母さん三人組に話しかけられた。

「バザーは初めてなんですか?」
「は、はい。こういう子ども達の集まりに参加すること自体初めてで」
「それは心配になるわよね~」
「うんうん。うちの子も初めは心配だったわ」

 朗らかな様子のお母さん方に、少しずつ緊張がほどけていく。

「でも子どもって、意外と大丈夫なものですよ」
「そう、でしょうか」
「そうよ! 子どもの友達を作る力ってとんでもないんだから」

 不安げにいたのを気にして声をかけてくれたのだろう。何て優しい人達なんだ。
 大丈夫という声に背中を押されて、再びルルメリアの方を見てみた。すると、既に女の子と話を開始していた。

 よかった、楽しそうだ。
 
 その後も、お母さん方の考えは的中し、ルルメリアの周りにはどんどん子どもが集まっていったのだった。

 子どもの友達の作る力。さっきのお母さんが言っていた言葉だが、確かにそうだと思う。何せルルメリアの友達一人目は、あのオースティン様なのだから。

 しばらくルルメリアの様子を観察しつつ、お母さん方との談笑を楽しむのだった。

「おかーさーん!」
「おかえり、ルル。どうだった?」

 花冠を作り終えたルルメリアは、走って私の方に戻ってきた。

「いっぱいおともだちできた!」
「それはよかった。ルル、人気者みたいだったね」
「うんっ! みんなはなしかけてくれたの!」

 嬉しそうに報告する姿を見ると、連れてきてよかったと思えた。

「これ、おかーさんに!」
「……ありがとう、ルル。凄く嬉しい」
「やった!」

 作った花冠をもらうと、私はしゃがんで頭にのせてもらった。

「似合うかな?」
「うん! おかーさん、きれい!」
「よかった」

 その後もお店を回ったり、子ども同士の交流を見届けたりと、有意義な一日を送った。

 家に帰る頃にはすっかり日が暮れており、ルルメリアも疲れた様子だった。

「たのしかった……」

 眠そうなルルメリアだが、随分満喫できたようだ。おんぶをすると、すやすやと寝息をたてはじめてしまった。

 今日の出来事が、少しでも良い方に作用してくれると良いなと思いながら、帰路に着いた。



 お友達を作ろうという出来事が、私の意図しない方向にルルメリアへ影響を与えていたことを、今の私は知るよしもなかったーー。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいました

みゅー
恋愛
『転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります』のスピンオフです。 前世から好きだった乙女ゲームに転生したガーネットは、最推しの脇役キャラに猛アタックしていた。が、実はその最推しが隠しキャラだとヒロインから言われ、しかも自分が最推しに嫌われていて、いつの間にか悪役令嬢の立場にあることに気づく……そんなお話です。 同シリーズで『悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい』もあります。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

処理中です...