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05.死の宣告を受けました

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 翌日、私は学園へ出勤した。何事もなく学園にたどり着いたものの、頭の中にもやがかかったままだった。

 勤務時間を終えて帰路に着くものの、今日は買い出しをしないといけない。晴れない気持ちのまま、お店の並ぶ通りへ向かう。

(……私が死ぬ、か)

 昨日、義娘のルルメリアからとんでもないことを言い渡されたことを思い出す。

「おかーさんはしんじゃうんだよ?」
「………………ルル、嘘でもそんな物騒な……怖いこと言ってはいけません」

 やっと絞り出したのは、ルルメリアを諫めるものだった。
 ルルメリアがふざけて言っているのではない気はしていた。ただ、あまりにも唐突に言われたものだから、驚いてしまった。

「うそじゃないもん! ほんとだもん!」

 そう言い張るルルメリアに、私は疑問が残る。

 何せ私は健康体だから。どこか痛いところもなければ、体が重く感じることもない。それにまだ二十歳なのだ。子どものおふざけで、あり得ないと感じるのが普通だった。

「ほんとに、おかーさんはばしゃにひかれてしんじゃうんだよ!」

 自分の言い分を信じてもらえかったからか、ルルメリアはむっすりとした顔で私の方を見ていた。私はその言葉に深刻な表情になる。

「……馬車」

 オルコット家は馬車に因縁でもあるのだろうか。兄と義姉が亡くなったのも馬車だ。それに加えて、私まで馬車で死ぬと? 冗談じゃない。

 苛立ちを覚えていると、ルルメリアは私の様子を見て下を向いてしまった。

「……おかーさんはしんじゃうんだ」

 どこか寂しそうな、悲しそうな声色に私は何と声をかけるべきか考えた。そっと背中に手を伸ばすと、私は一言伝えた。

「お母さんは死なないからね」

 強く言い切ったものの、ルルメリアの落ち込んだような表情のままだった。


 昨日はああやって強がってみたものの、正直言って怖さはある。ルルメリアからの死の宣告は、子どものおふざけで片付けられないような気がしていたのだ。ぎゅっとバックの持ち手を握り締めながら、周囲を警戒して歩き続ける。

 通りまであとわずか、というところで不気味な声が聞こえた。

「あんた、死相がでてるねぇ」
「……え?」

 声のする方に振り向いていれば、そこにはローブをまとった怪しげな女性が水晶玉に触れていた。

(……もしかして、占い師の方?)

 学園で生徒たちが話している噂を聞いたことがある。なんでも、的中率が高い占い師がいるのだとか。

「あんた、死相がでてるよ」

 目が合うと、今度は確実に私に向けてそう言い放った。

「死相……ですか?」
「そうだとも」

 思い当たる節があるからか、占い師の女性の言葉は私の不安を一気に煽られてしまった。ぎゅっと唇に力を入れ、ごくりと唾を飲み込む。恐る恐る女性に近付くと、一言尋ねた。

「……私は死ぬんですか」
「死相がでてるからねぇ。その確率が高いよ」

 女性はフードを深くかぶっているので、口元しか見えなかったものの、怪しさは拭えなかった。

「あ、あの」
「お客さん。これ以上は有料だよ?」
「有料……」

 話を聞きたい気持ちもあったが、お金を出せるほどお財布に余裕はなかった。断ろうとすれば、女性は引き止めるように話した。

「だがしかし。お金はとらないよ」
「えっ」
「初回さんはね、評判を広めてくれるだけでいいからね」
「ほ、本当ですか」
「あぁ。頼んだよ」

 それは何ともありがたい話だ。そう思いながら女性の向かいに座ると、早速疑問を口にした。

「あの。死ぬという運命は決まっているんですか?」
「そうだねぇ……死相といっても、あくまでも“死ぬ危険性”が高いことを示しているだけだ。あんたが確実に死ぬというわけではない」

 女性は自分の両手を絡ませると、そのままにっと笑った。私は真剣な声で尋ね続けた。

「抜け道はあるんですね」
「そうだね。だけど起こる出来事は変えられない。私もあんたも神様じゃないからね」

 どういうことだろうと頭を働かせれば、女性はすぐに答えを教えてくれた。

「自分以外の、だよ。自分の行動は自分の意思で変えられるが、これから起こる他の出来事――例えば、あんたが死ぬはずだった事故は起こるだろうね」
「じ、事故って……」
「それ以外は私にはわからないね。だからせいぜい、注意深くしなとしか言えないのさ」
「……いえ。それだけで十分です。ありがとうございました」

 自分が死ぬ運命を変えられるのなら、希望はある。警戒を怠らないで買い物を済ませて家に帰ろう。占い師の女性にお礼を言うと、生きて帰れたら評判を広めることを約束した。

 慎重に買い物を済ませると、きょろきょろと馬車がないか他に危険はないかと確認しながら歩き続けた。すると、前方からこちらに向かってくる馬車が見えた。

(もしかして、あの馬車――)

 占い師の言うことを思い出した。起こる出来事は変わらないと。だとすれば、視界に映るあの馬車は事故を起こす。直感でそう思ったのだ。

(普通に走っているように見えるけど、どうして事故が……)

 そう思いながら辺りを見渡せば、よろよろと歩いている男性に目がいく。
 少し離れた状態でもわかる、どんよりとした雰囲気の男性。服装こそ平民の町並みに溶け込んでいるものの、漏れ出る気配は貴族特有のものがあった。

(え……待って。もしかしてあの人)

 嫌な予感が過った私は、慌てて走り出した。そして男性の腕を両手で掴むと、馬車に向かって身を投げ出そうとした体をどうにか引き寄せて留めた。

「…………どうして」

 男性は道を見つめたまま、力ない声でそうこぼしたのだった。

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