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73. 親友への誓い

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 お披露目パーティーから一月が経つと、国民全体にも新たな公爵家の誕生知れ渡ることとなった。長らく悪政で苦しんでいた旧ラベーヌ領の民は、フィーディリア公爵の手腕に歓喜した。どうやらお父様には大きな才能があったようだ。問題だらけの領を一ヶ月で平凡な領地へと戻したのは間違いなくお父様の実力だろう。

 ちなみに新しく建てられたフィーディリア邸には、ウィルから分けてもらった花々が綺麗に咲いていた。というのも、彼らは役目を終えたと言わんばかりに美しく散っていったのだ。来年になるまで、しばしの別れとなるだろう。

 また、国民からも様々な噂が飛び交っていた、国の第二王子ことデューベルン大公殿下の婚約も世間を騒がせた。やはり王子であったこともあり心配していた国民は多かったようだ。今ではウィルの婚約話は国中で、一途な思いが起こした奇跡と言われている。幸いにも相手である私に対しての不満は一切なく、むしろこれからの幸せを願われるほどであった。

 そして、あれから私とお父様はアルバートさんの元を訪ねた。パーティーでは会話を交わすことができた。実はアルバートさんはずっとお父様自身の幸せを願っていたのだとか。だからこそ結婚の心配はしていたし、未来を案じていた。婚約発表で幸せそうなお父様を見て、ようやくアルバートさんの気持ちも満たされたのだとか。アトリスタ商会に関しては、今後はフィーディリア公爵として関わっていくのだとか。

 今回は主な目的はアルバートさんではなく、ライナックのお墓参りである。

 数ヵ月ぶりにアトリスタ領に足を運ぶ。感じる懐かしさと暖かさはもはや第二の故郷と呼べるほどだった。

「やっぱり落ち着くなぁ……」

「そうだな、ここは本当に静かで過ごしやすい」

 アトリスタ邸に着くと、そこからライナックのお墓を目指してアトリスタ領内を二人で歩く。

「それにしてもお父様は凄いですね、一ヶ月で領内を立て直して」

「いや、まだまだ足りないさ。ロゼだって毎日大公妃になるための教育を頑張っているだろう」

 そうなのだ。ここ数日前から始めたものだが、ウィルの隣に立つ時にお飾りにならないために多くのことを学び始めた。

「お互いに忙しい日々に追われてますね」

「そうだな」

「ちなみにお父様、フローラ様とはどうですか。しっかりとお会いになられてます?」

「もちろん。以前と比べれば頻度は落ちたものの、何とか時間は作っている」

 お互いの一目惚れから入ったものの、どうやら性格的にも一致するようだった。以前フローラ様が言っていた好みとあまりお父様が合わないことから勝手に不安を覚えていた。だがそれも杞憂に終わり、フローラ様にとってお父様は自由で面白い人なんだとか。今度二人で会う約束があるから、その時に詳しいことを聞きたいものだ。

「お父様が充実した日々を過ごせていて何よりですよ」

「俺も……こんな日々を送れるようになるとは全く思わなかった。ロゼはどうだ?」

「私は学ぶかウィルに会うかの二択ですね」

「ロゼも幸せそうだな」

「はい」

 長い喪失期間を埋めるように、ウィルは私との時間をできるだけ設けた。会えた衝動でどこかたがが外れた彼だったが、徐々に落ち着きを取り戻し出した。今では昔のような、少し嫌味っぽくも私をからかうことが好きなウィルが見え始めている。落ち着いた様子が見られるものの、私を想ってくれているという本質は変わらない。

 何気なく話していると、いつの間にかたどり着いたようだ。

「……着いたぞ」

「ここが……」

 そもそもアトリスタ邸自体来たことがない私にとって、ライナックのお墓の周囲も初めて見る景色だった。

「……ライナック、久しぶりだな」

 お墓の前にしゃがみこむと、お父様は寂しそうな瞳を向けながら呟いた。

「……お前の代わりとして過ごしていた日々から一変した。……ようやく俺は自分として踏み出そうと思ったんだ」

「…………」

「お前の言っていた人並みの幸せを、ようやく手にできた気がするよ」

 お父様とライナックの間にある最後の記憶は、悲しいことにあの惨劇の日だ。その辛い記憶を呼び戻しながらも、お父様は語りかけ続けた。

「お前を死なせた俺が……あの日を招いた俺だけは幸せになってはいけないと思っていたが、愛しい娘のおかげで目が覚めたんだ。それで思い直した。いつまでも気にしてたら、むしろライナックは怒るだろうなってな。だから俺は、お前の分もしっかりと生き抜くよ。ここに誓う」

 その時、一つの光が綺麗にゆっくりと散ったように見えた。まるでライナックの魂が、もうこの世に未練がないと告げたかのように。

「……ありがとう、ライナック」

 その光がどうにも幻に見えなかった私は、空にと消えた光へと笑いかけた。

 少しの間、その場に滞在した後にアルバートさんの元を訪ねた。姿が変わっても、何だかお父様とアルバートさんは本当の兄弟に見えた。それをどこか嬉しく思いながら、紅茶の入ったカップを手に取るのだった。
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