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72. その手を取って
しおりを挟むパーティーが始まった。
陛下による経緯説明と紹介から始まり、お披露目となった。
周囲の反応は当然ながら驚きの一色。
死んだと思っていた人間が生きているのがたから正しい反応だ。疑いようのない銀髪が、かつての王族としての威厳を連想させたのか反対する者は誰一人としていなかった。
続いて直ぐ様に私とウィルの婚約が発表されたが、これに関して陛下からは元に戻しただけとの言葉があった。その発言とウィルの幸せそうな姿により、貴族の方々からは長年の謎がとけたという表情が見られた。
そして、お父様とフローラ様の婚約も同時に発表されたのだ。これには思わぬ早さに私まで驚いた。それと同時にそこまで仲か深まったことに対する嬉しさも感じていた。リフェイン公爵とその隣にいた女性は安堵の様子が見られた。初めて見るが、どことなくフローラ様の雰囲気を感じてリフェイン夫人であることがわかった。
様々な発表を終えると、いよいよダンスが始まった。
私はウィルの手を取り、ホールの中央へと歩いていく。
「……緊張してる?」
「凄く」
「ゆっくり息を吐いて。僕が傍についてる」
何度も何度も練習したけれど、やはり本番は違う。胸の鼓動が収まることはないものの、ウィルの穏やかな声に少し安堵する。
「さぁ、いこうか。僕だけのお姫様」
心から愛しいという視線を受けると、ダンスが始まった。
「……上手だよ、ヴィー」
「……ウィルのおかげよ」
始めの方は慣れない動きをしていたものの、ウィルの華麗なリードにより安定した動きに乗り楽しく踊れていた。
今までで一番幸せそうなウィルの笑みを見て、自然とこちらまで心が満たされていく感覚だった。改めてこんなにも近くで、それも長い間ウィルの顔を見ることになったが、本当にこれ以上ない綺麗な顔のつくりで、これこそ王子と言わんばかりの雰囲気を出していた。そんな彼が破顔するほどの笑みを浮かべるが、それでさえ美しいと感じてしまうもの。ウィルの表情に何故か緊張してしまう。それでもウィルにつられて私も不思議と幸せな笑みを浮かべられていた。
幸せそうな雰囲気を出しながら、綺麗に踊る姿は周囲の貴族を感嘆させていた。
「見て、大公殿下のお姿」
「あのような表情は初めて見ましたわ」
「とても美しい……」
「お相手のフィーディリアの姫君も綺麗で、正に絵になるお二人ですわね」
「大公殿下がいかにお相手のことを愛していらっしゃるか、見るだけでわかりますわ」
「お二人とも幸せそうですね」
ダンスに夢中だった私たちは、多くの貴族が微笑ましく見守っていたことなど知るよしもなかった。そして陛下も安堵の笑みを浮かべており、それは弟の幸せを心から喜ぶ姿だったという。周囲の反応がわからないほど、私はウィルとのダンスに没頭していった。
その後曲が終わっても連続で踊り続けていたことに気付けなかったが、これが愛の深さを周囲に示すことだというのは私が知ることはなかった。同時に周りに無言の牽制をしたウィルは、満足そうに残りのパーティーを楽しんでいた。
開始から時間が経つと、賑わってきた会場を後に私たちは人気の少ないテラスへ向かった。
「……はぁ、よかった」
「とても上手だったよ。踊っていて本当に楽しかった」
「ウィルのリードが全てを物語っていたでしょう。次はもっと練習しておかないと」
「意気込むのも良いけれど、やり過ぎないようにね」
「えぇ」
主役が不在で良いのかと考えが過るものの、今回の主役はお父様でもあることに気付くと、気にせずに夜風に当たっていた。
「それにしても驚いた、お父様とフローラ様の婚約がこんなにも早く進んでいたなんて」
「あぁ、それね」
「何か知っているの?」
「今回のパーティー準備の際に関わることが多かった兄上が、僕の知らない間にフィーディリア公と仲良くなって相談に乗っていたみたいだよ」
「そ、そんなことが」
「後押しをしたと聞いたから、良い役割をしたんじゃないかな」
どうやら私の知らないところで、父は父でしっかりと周囲との関係を築いていたようだ。人付き合いをこれ間でしてこなかったお父様は、上手くやっていけるか不安がっていたがそれも杞憂に終わったらしい。
「でも良かった、相談できる人がいて」
「そうだね。それにどうやら一方的な関係じゃないようだよ。滅多にいない同い年の気が許せる友人をようやく手に入れられたと喜んでいたからね」
「それはよかった」
私やウィルが思っている以上に、お父様と陛下はとても気が合う仲のようだ。
「はぁ……今日は本当に幸せだった」
「幸せそうな顔をしてたのはわかったわ」
「さすがに抑える理由なんてないから、遠慮なく漏らしてたけど気持ち悪かったかな」
「全然、むしろこちらまで嬉しくなって、ドキドキして。さっきまでどうしてだろう、移ったのかなと考えていたけれど理由は思ったよりも単純だった。ウィルのことが好きだから、見ていて鼓動が高まるんだなって。やっぱり大切な人が幸せそうだと私まで幸せになるんだなって思っ────わっ!」
「ヴィー!」
言葉の途中で、思い切りウィルに抱き締められた。
「ど、どうしたの、ウィル」
「お願いだからこれ以上可愛いことを言わないで。頑張って抑えてるのに我慢が効かなくなる。それともヴィーは僕のことを試してる?」
「え、な、なんて?」
感じたことのない甘い吐息を吐きながら、ウィルは熱っぽい視線を私に向けた。腰にあった片方の手を上まで上げて優しく頬を撫でる。対する私はどうしてこうなったかわからないまま、ただ動揺をしていた。
「何だかよくわからないけれど、私もウィルのおかげで今日は本当に幸せだったよ?」
少し不安げにウィルへと上目遣いで伝えると、ウィルの視線の熱は何故か更に増した。
「……ヴィー、僕も幸せだった。叶わない夢が叶った嘘みたいな気分だよ」
「それはよかった」
「でもごめん、やっぱり我慢できない。嫌だったら押し退けて?」
「え……んっ」
反応する隙も与えられぬまま、何かが外れたようなウィルは深く深く口づけを始めた。理解できなかった状況が一変したが、愛おしそうに終始見つめる視線と溶けてしまうような口づけに私の思考は停止した。
どこまでも甘い口づけにより、更なる幸福を感じるのだった。
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