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62. 惨劇の裏側

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 残酷な描写があります。苦手な方はお気をつけ下さい。

△▼△▼△▼


 私の中でエルフィールドの教えだけではなく、存在そのものが崩れていく音が聞こえた。

「ロゼルヴィア……残念ながら魔法使いというものは、君のように心清らかな存在ではない。むしろ対極だ。欲深く己の栄華しか考えない存在だ」

「それはまるで……ラベーヌ公爵」

「魔神を呼び出すという考え方は同じだろうな。だが、欲深さ汚い感情を持ち合わせた点で言えば、魔法使いか圧倒的に勝るだろう」

「…………私には、違うように見えていました」

「そう見せていたんだ。これは俺の臆測だが、君は婚約者という他国との繋がりがあっただろう」

 曰く、私は利用されていたのだと言う。
 あの婚約は、表向きは帝国との親交を深めるためとされていたが、エルフィールド国としては自分達の国は平穏そのものでどこにも害を及ぼすものではないと宣伝するためのものだったとか。帝国としても警戒していた存在ではあった筈だ。私がウィルと会う回数が多いことも考慮して、私には綺麗な部分しか見せなかったのかもしれない。

「国一の武力を誇る帝国の目を欺かなくては、絶好の機会というのは永遠に巡ってこないだろうからな」

 思惑通り、帝国にはしっかりと無害なことが伝わっていた。それは私とウィルの関係が最後まで続いたことが物語っている。

「己の栄華しか考えない彼ら、エルフィールド国の人間には代々受け継がれている思想があった。それは“魔法使いと人間は同等ではない”というものだ。具体的には、“魔法使いはそもそも人間と生きる土俵が違う。無能で無力な人間は、優れた種族である魔法使いが導かなくてはならない。魔法使いが世界の人間を統治できるようになった時、初めてこの世界は完成する”というものだ」

 統治とは聞こえがいいが、実際に行うのは支配だ。魔法使いと人間を明確に種族と分け、自分達の特別さを無理矢理認めさせるという思想。これを普通は子どもの段階で刷り込まれるように教えられるという。一種の洗脳のように感じ、エルフィールドの知られざる実態に体が震える。

「帝国や世界を欺きながら、エルフィールドは少しずつ理想実現のために準備をしていた。それが一定数の半端者を集めることだ。多くの魔神を呼び出すために、ある程度は必要だった。だが、半端者はそう簡単に生まれるものではない。失敗作と呼ばれる存在も生まれるからな。そんな中、どうにか目的の数に達した彼らは魔神を呼び出すことにした」

 世界を支配するには自分達の力だけでは不可能だと理解していたからか、魔神の力を利用しようと考えた。

「城に半端者を一気に集めて、1回目の召喚を起こそうとした。俺も依り代としてつれていかれた。そこで初めて知ったよ。自分の存在理由を。悲しいことに納得してしまった。怒りに溢れていても、抗う術はない。魔方陣に放り投げられた半端者も、誰一人として抵抗しなかった。そんな気力はなかったのだろう」

「…………」

 残酷すぎる仕打ちに思わず顔が歪む。

「周りの半端者が段々意識を失っていくのを見て、召喚が成功したのを感じた。彼らは喜んでいたよ、理想の実現に近づいたことに」

「……そこには当然、国王もいたのですよね」

「……これを言うのは酷だが、王妃もそこにいた」

「……そう、ですか」

 私にとって穏やかに見えた両親は、全く穏やかでなかったということだ。

「……何もかも成功だと彼らは感じた。けどここで、誤算が起こった」

「誤算?」

「あぁ。俺が依り代としての役目を果たさなかった。そこには彼らの大きな思い違いが原因だった。それは、王族は決して魔神の依り代になり得ないということ。王族は元々神聖魔法を使うだろう。それを行う資格は、例え半端者でも俺にも存在していた。そのせいでフィルターは外れていなく、依り代としての価値はなかったんだ」

 魔方陣に放り投げられた者達の中で、唯一正気を保っていたと言う。

「魔神は欲深い者を見分けられるのは知っているか」

「はい、目の当たりにしました」

「あの日の魔神も正確に見分けていた。あの場で一番欲深かったのは誰だと思う」

「……国王、ですか」

「当初の計画通りであれば、国王だった。だが誤算で生き残った俺の欲の方が余程強かった。比べ物にならないくらいにな」

「欲……?」

「復讐したいという欲だ」

 理不尽な仕打ちを受けた先が一切報われないのだから、そう考えて何もおかしくはない。

「この欲は、彼らの思想実現の欲よりはるかに上回った。あの場にいた全ての魔神がそれを見分け、俺に願いを聞いた」

「……何と答えたのですか」

「“悪しき思想を持つ魔法使いを人間へ変えてくれ”そう願った」

「!!」

「悪しき思想……」

「これに該当しなかった君だけが、失うことを避けられたのだろうな」

「…………」

 言葉が見つからずに沈黙するも、ライオネルの話は続く。

「そうして魔神は黒い笑みを浮かべて承諾した
。その途端に目の前にいた魔法使いは愚か国中の魔法使いをから魔力と魔法の技術が消え去った。年齢関係なしに、幼い子どもも例外ではなかった。魔神の残酷だと感じたやり口は、奴らは魔力や技術だけを消すだけでそれを身に付けていた記憶は残しておいたんだ」

 使えた筈の力は消え去り、自分達が見下していた人間という存在になった魔法使い達。

「魔神達は暫くすると満足して帰っていった。帰り際に命を奪わないのかと聞けば、俺の命は旨くない上に面白いものが見られたから良いと言っていた。だがまだ悲劇は終わらなかった。最悪なことに、何もかも失ったタイミングでトゥーレンが襲撃してきたんだ」

「惨劇の日……」

 確かなことは、そう呼ばれることになった原因は、エルフィールド自らにあったということだ。
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