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58. 果たされた務め

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《ぎゃぁぁあああっ!!》

 神聖魔法は思った以上の強い力で魔神を負傷させていく。

「…ば、馬鹿な……」
 
「ヴィー………」 
 
 唖然とするラベーヌ公爵と何かを想ってウィルが空を見つめていた。残念ながら地上の様子を確認できるほど余裕はなかった。

《こんな、筈では……》

 そう呟く声は初めとは比べ物にならないほど、弱々しいものであった。

 光が一段と輝きを増して、目が眩む。

<光が散る前に呼び掛けないと!>

<急いで!>

「えぇ!」

 素早くリズベットへと近づき、真名で呼び掛けようとした時に腕を強く掴まれる。

《…………あの日、滅びた筈だ》

 恐らく魔神を始めとした魔族も、エルフィールドが失くなった惨劇の日について知っているのだろう。 

「……幸いに生き延びることができた。残党狩りを潜り抜けてその身を守れた者が一人いてもおかしくない」

《違う……そんな筈はない》

 魔神はボロボロになったあまり、現実を受け入れたくはないようだ。

「私が証拠よ」

《王族であれば、尚更滅びた筈だ……!》

「……………」

 民を見捨てて逃げたあの日が思い出される。

 気づいた時には手遅れで、逃げ出す頃には民の安否は録にもわからなかった。

 それでもあの時は、走ることしかできなかった。改めて自分の無力さを感じていたが、魔神からは思いもしない言葉が返ってきた。

《何故魔力が、技術が滅びていない……!》

「……え?」

《あの日、確かに願いを聞き届けたと言うのに……!!》

「願い……。まさかトゥーレンが召喚を」

 いや、そんな筈はない。
 攻め込まれたとはいえ、まだ彼らの元には魔族に関する本は渡っていなかった。更に、確かな存在としても認識していなかった。彼らが呼び出すのは不可能だ。

《何を言う……我らを呼び出し、欲のままに願いを叶えようとしたのは────っ、くそ、ここまでか!!》

 肝心な答えを聞けぬまま、魔神に終わりが迫る。それは私も同じことで。

<今だよ!>

<早く!>

「……えぇ」

 何か重要な答えを聞く時間は、悲しいことに存在しなかって。

「戻ってきて、“リズベット”!!」

《……うぅぁああああっ!!!》

 その名前がとどめとなったのか、光は盛大に散っていった。すると、浮遊していた筈の彼女の体は糸が切れたように急降下をし始めた。

「不味い!」

 遅れて彼女を追いかける。
 最後の力を振り絞り、何とかギリギリのところで受け止めた。

「……よかった」

 安堵の息をこぼしながら、ゆっくりと地上へ降りる。

<ナイスキャッチ!>

<間に合った!>

 フィーディリアはまだ傍にいてくれた。

「……リズベット」

 禍々しいオーラは消え失せ、彼女自身の魔力を感知できたが瞳は閉じたままだ。

「フィーディリア、治癒魔法を使う力を……っ」

 そう頼もうとした時、自分が血を吐くのがわかった。

 魔力の使いすぎだ。

 酷使された体は悲鳴をあげていた。

 立っていられず、花畑に腰を下ろす。

「…………っ」

 歯を食いしばりながら、意識を手放すのをとどめてリズベットの額に手をかざす。

<これ以上は駄目だよ!>

<治癒魔法使えない!>

「でも………」

 私の体に限界が来ていることがわかった彼らは、魔法を使うことを制した。

 それでもリズベットの命をと再び声を上げようとした時、ゆっくりと瞼が開いた。

「リズベット……!」

「…………」

 朧気な表情で、私の瞳を捉える。

「あり……が……とう、…姫……様」

 何とか振り絞って伝えると、ゆっくりと微笑んだ。

「……っ」

 私が姫だということを彼女が知っている。

 どうやら言葉と想いは届いていたようだ。心か暖かくなるのも束の間、背後から怒りの声が飛んだ。

「貴様、よくも……よくも私の邪魔をしたな!!」

 ラベーヌ公爵は憤慨した様子でこちらを睨み付けた。そして、勢いよくこちらに向かってくる。

「許さんぞ!絶対に!!」

 しかし、その姿勢でいられたのはほんの一瞬だった。

「な、なんだ!」

「ラベーヌ公爵、貴方には王家反逆罪をかける。問われる罪はそれだけでは終わらないだろうな」

「な、こんなことをして良いと思っているのか!」

「こちらの台詞というものだ。……連れて行け」

 ウィルの容赦ない言葉に、到着した騎士団と衛兵がラベーヌ公爵を拘束して連れていく。

「ラベーヌ公爵令嬢を医務室へ。まずは治療が何よりも先だ」

「はい」

 そうしてリズベットはウィルの指示により連れていかれた。

 リズベットを見送り、彼女の無事が確認できたからか、安堵で体の力が抜けていく。

「ヴィー……」

 指示を終えたウィルがこちらに向かってくるのが見えた。

「…………」

 何かを言おうと思った。

 それが何かを考える暇もなく、私の意識は急激に深く落ちていった。

「ヴィー……!!」

 落ちきる寸前、誰かに優しく抱き止めらた気がした。
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