59 / 79
58. 果たされた務め
しおりを挟む《ぎゃぁぁあああっ!!》
神聖魔法は思った以上の強い力で魔神を負傷させていく。
「…ば、馬鹿な……」
「ヴィー………」
唖然とするラベーヌ公爵と何かを想ってウィルが空を見つめていた。残念ながら地上の様子を確認できるほど余裕はなかった。
《こんな、筈では……》
そう呟く声は初めとは比べ物にならないほど、弱々しいものであった。
光が一段と輝きを増して、目が眩む。
<光が散る前に呼び掛けないと!>
<急いで!>
「えぇ!」
素早くリズベットへと近づき、真名で呼び掛けようとした時に腕を強く掴まれる。
《…………あの日、滅びた筈だ》
恐らく魔神を始めとした魔族も、エルフィールドが失くなった惨劇の日について知っているのだろう。
「……幸いに生き延びることができた。残党狩りを潜り抜けてその身を守れた者が一人いてもおかしくない」
《違う……そんな筈はない》
魔神はボロボロになったあまり、現実を受け入れたくはないようだ。
「私が証拠よ」
《王族であれば、尚更滅びた筈だ……!》
「……………」
民を見捨てて逃げたあの日が思い出される。
気づいた時には手遅れで、逃げ出す頃には民の安否は録にもわからなかった。
それでもあの時は、走ることしかできなかった。改めて自分の無力さを感じていたが、魔神からは思いもしない言葉が返ってきた。
《何故魔力が、技術が滅びていない……!》
「……え?」
《あの日、確かに願いを聞き届けたと言うのに……!!》
「願い……。まさかトゥーレンが召喚を」
いや、そんな筈はない。
攻め込まれたとはいえ、まだ彼らの元には魔族に関する本は渡っていなかった。更に、確かな存在としても認識していなかった。彼らが呼び出すのは不可能だ。
《何を言う……我らを呼び出し、欲のままに願いを叶えようとしたのは────っ、くそ、ここまでか!!》
肝心な答えを聞けぬまま、魔神に終わりが迫る。それは私も同じことで。
<今だよ!>
<早く!>
「……えぇ」
何か重要な答えを聞く時間は、悲しいことに存在しなかって。
「戻ってきて、“リズベット”!!」
《……うぅぁああああっ!!!》
その名前がとどめとなったのか、光は盛大に散っていった。すると、浮遊していた筈の彼女の体は糸が切れたように急降下をし始めた。
「不味い!」
遅れて彼女を追いかける。
最後の力を振り絞り、何とかギリギリのところで受け止めた。
「……よかった」
安堵の息をこぼしながら、ゆっくりと地上へ降りる。
<ナイスキャッチ!>
<間に合った!>
フィーディリアはまだ傍にいてくれた。
「……リズベット」
禍々しいオーラは消え失せ、彼女自身の魔力を感知できたが瞳は閉じたままだ。
「フィーディリア、治癒魔法を使う力を……っ」
そう頼もうとした時、自分が血を吐くのがわかった。
魔力の使いすぎだ。
酷使された体は悲鳴をあげていた。
立っていられず、花畑に腰を下ろす。
「…………っ」
歯を食いしばりながら、意識を手放すのをとどめてリズベットの額に手をかざす。
<これ以上は駄目だよ!>
<治癒魔法使えない!>
「でも………」
私の体に限界が来ていることがわかった彼らは、魔法を使うことを制した。
それでもリズベットの命をと再び声を上げようとした時、ゆっくりと瞼が開いた。
「リズベット……!」
「…………」
朧気な表情で、私の瞳を捉える。
「あり……が……とう、…姫……様」
何とか振り絞って伝えると、ゆっくりと微笑んだ。
「……っ」
私が姫だということを彼女が知っている。
どうやら言葉と想いは届いていたようだ。心か暖かくなるのも束の間、背後から怒りの声が飛んだ。
「貴様、よくも……よくも私の邪魔をしたな!!」
ラベーヌ公爵は憤慨した様子でこちらを睨み付けた。そして、勢いよくこちらに向かってくる。
「許さんぞ!絶対に!!」
しかし、その姿勢でいられたのはほんの一瞬だった。
「な、なんだ!」
「ラベーヌ公爵、貴方には王家反逆罪をかける。問われる罪はそれだけでは終わらないだろうな」
「な、こんなことをして良いと思っているのか!」
「こちらの台詞というものだ。……連れて行け」
ウィルの容赦ない言葉に、到着した騎士団と衛兵がラベーヌ公爵を拘束して連れていく。
「ラベーヌ公爵令嬢を医務室へ。まずは治療が何よりも先だ」
「はい」
そうしてリズベットはウィルの指示により連れていかれた。
リズベットを見送り、彼女の無事が確認できたからか、安堵で体の力が抜けていく。
「ヴィー……」
指示を終えたウィルがこちらに向かってくるのが見えた。
「…………」
何かを言おうと思った。
それが何かを考える暇もなく、私の意識は急激に深く落ちていった。
「ヴィー……!!」
落ちきる寸前、誰かに優しく抱き止めらた気がした。
18
お気に入りに追加
2,539
あなたにおすすめの小説
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる