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49. 晴れない疑念
しおりを挟むベアトリーチェ嬢の説明はまだまだ止まらない。
「こんなことを普通の魔法使いであった貴女に言うのもあれだけど……エルフィールド国が滅びた裏には半端者が大きく関わっていると断言できる。半端者は隠されて生きてるけど、半端者同士の繋がりももちろんあった。その時に知ったけれど、私よりももっと上の高位貴族から生まれた半端者の人達は、自身の処遇を不満に感じてた。その彼らが多くの目を掻い潜り、決死の思いで家から国の情報を取得してたの。そして、その情報を他国へ……トゥーレンへと流してたことを知ってる」
「……そう、だったんですね」
「私も……他の半端者も決して誰も止めなかった。これが総意だったのかもしれない」
不満という言葉で表しているが、本当はもっと多くの想いがそこにあったのだろう。彼らは情報を流した。国を滅ぼすまではいかずとも、追い詰められて欲しかった気持ちは伝わってくる。
「とは言うけれど、それだけで滅びたとは考えられない。他にも色々な要因が偶然重なったのだとは思うけれど、今となってはわからないわ」
「…………ちなみに、滅びる寸前はどちらに」
「実家よ。そう呼びたくもないけれど……ただ、1つ気がかりなことはある。滅びる寸前、といっても一月の間だけれど……その間、周囲の半端者は王城へと連れていかれてた。てっきり情報を流していたことが気づかれたのかと思っていたけれど……どうだったのかしら」
「…………」
王城へ連れていかれてた、か。残念ながらそういう光景を見たことはないし、全く知らない情報だ。
「半端者と失敗作についてはあらかたわかったかしら」
「はい……話してくださりありがとうございます」
「大したことではないわ。それに……ここからが本題よ」
「はい、次はラベーヌ家について」
「えぇ」
話題はラベーヌ家について変わる。
どんな出会いから、何を経て今に至るのか。迷いなく、ベアトリーチェ嬢は話し始めた。
「情報を流していたことを知っていた者としては、トゥーレンが攻め込んできた時に悟ったの彼らは本気だと。半端者の中には、彼らに助けを求めて滅ぼす手助けをした者もいたみたい。けれど、結局彼らもトゥーレンに滅ぼされたみたいだけれどね。私は元々、エルフィールドから抜け出す機会をずっと伺ってきた。だからあの日は転機だと思ったの。だから、運良く逃げ延びられた。私の他にも何人か半端者は逃げ延びた。その後が残党狩りの対象になったかは……何とも言えない」
もしかしたら、生き延びている可能性はあるかもしれない。ベアトリーチェ嬢の魔力も近くによって初めて感知できたのだから。世界を旅したとはいえ、隅々まで探した訳ではないから確率としては高いと思う。
「逃げることだけを考えていた私は、上手く逃げ延びれた。そこから数年は親切な人が拾って世話をしてくれた。デューハイトン帝国付近で自然と暮らすことになった。やっと穏やかな生活ができる、そう確信してたのに」
「……何があったのですか」
「売られたの。親切だと思ってた人達の奉公先は、ラベーヌ家だった。ふとしたときに魔法使いだとバレたんでしょうね。それがバレた時期と、ラベーヌ公爵が魔族研究家と噂され始めたのは同じくらいだった。その噂は皮肉でもあったけど、本当だった。エルフィールド国にあった筈のその本は、巡りめぐって渡ってはいけない人の手に渡ってしまった」
「……奉公人である彼らはそれを知っていた」
「えぇ、だから売ったのよ。大層な金額になったか……はたまた殺されたかは私は知るよしもないけれど」
「……そうですね」
「それが本当に2年いかないくらい前の話」
「なるほど」
「養子として引き取られても、すぐには公表されなかった。公爵は何かを待ってるみたいだった。恐らく、それがこの縁談に横やりをいれるタイミングなんでしょうね」
その流れとして、不自然なことはない。ただ、疑問なのは何故大公なのかということだ。
「あの、疑問なのですが。何故陛下の側室ではなく、大公妃を狙ったのですか」
「私も疑問に感じてその話をしたことがある。何でも都合が良いからと言ってた。てっきり、ラベーヌ家の人脈やこれからの立場に関して言っていたのだと思ったけど」
「…………そうですか」
どこか腑に落ちないまま、その答えを取り敢えずのむ。
「ちなみに……その、悪魔や魔神を召喚するには結局相当な魔力量が必要になりますが」
「えぇ。それはもちろん告げたわ。それでも、私のようなちっぽけな魔力量でもゼロではないから依り代としては十分と言われた。大したものは呼び出せないでしょうけど……言い分としては通ってるわ」
「確かに……今魔神を呼び出されても太刀打ちがないですからね」
「……貴女は、大丈夫?」
「最善を尽くします。そもそも、召喚には時間がかかりますから何としても阻止します」
「……ありがとう」
「いえ、取り引きですから」
守ると誓った。それを破る気はない。
「明日、お嬢様の選考が午前に行われます。ちなみにラベーヌ公爵はいつ頃こちらにお着きになると」
「お昼前には来るでしょうね……後はわからないけれど。幸いにも今のところ行った選考は、どちらも結果が出ていないでしょう。上手くやってるとだけ伝えているの。それが通じるのは、最終的に結果を下されるまででしょうけど。少なくとも、大公殿下と明日会い結果が出るまでは安全よ。結果が悪いものとされた時、私の利用価値は依り代のみになるから」
「はい」
実は結果が下されるのも明日なのだ。最終選考後、少しの時間を経て発表される。
「明日で全てが決まる」
その言葉通りであることに、間違いはない。
「私は、結果発表の前後からリフェイン公爵令嬢様を守れるように準備をしておきます」
「…………」
「どうなさいましたか」
「私ね、本名は当然ベアトリーチェではないの。リズよ。リズベットが本名」
「リズベット様……」
「……久しぶりだわ。その名前で呼ばれたのは。国を出てから、違う自分になりたくてリーチェと名乗っていたけど」
切ないような気持ちは、私にまで伝わった。
「貴女には……同郷の人には、リズベットと呼んでほしいの」
「……わかりました」
「一段落ついたら、いつか、貴女の話も聞かせてちょうだい。その時まで貴女の真名は取っておくわ」
「はい、そうしましょう」
今話すべきではないとベアトリーチェ……リズベットも直感的に感じ取ったようだ。
「では、また明日」
「えぇ。もう日が回ったけれどね」
「本当だ……そろそろ戻ります。命の危機を感じた場合は、もう自分のことだけを考えてください」
「わかった、そうする」
「はい」
最後にもう一度だけ段取りを確認して、私は別館を後にした。
風が強く吹き、それが不穏なものを運んできてしまっているように感じた。
フィーディリアの花が散る時期はすぐそばまできていた。
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