滅びた国の姫は元婚約者の幸せを願う

咲宮

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45. 終わりの幕開け

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 翌朝の目覚めはあまりスッキリとしたものではなかった。考えることが多いせいか、頭が複数の種類の糸で絡まっている気分だった。

 どうにか晴らすために、朝の特訓に森へと出かける。昨日決めた特訓内容をこなしながら、糸を少しでもほどこうと頭を回転させた。

「全ての始まりは、ベアトリーチェ嬢という魔法を使える存在の出現……」

 当然だが、これがなければラベーヌ家は特に何もしなかった筈だ。切り札を手にしたから行動した。だが、その真意が最近になってわからなくなってきた。“権力を手に入れること”が目的ならば発生する矛盾があるからだ。

「好意は……無いだろうな」

 涙の姿とお嬢様の観察眼を含めて改めて考えると、ベアトリーチェ嬢は実際大公殿下のことを好いてはいないようだった。

「大公妃になることがラベーヌ家の養子になる条件……だとしたら時系列が違うしな」
 
 ベアトリーチェ嬢には、何がなんでも大公妃にならなくてはいけない理由があるようだ。初めは嫉妬から誘拐に転じたと考えていたが、これに関しては違う可能性が高まったきた。要因は嫉妬ではなく焦りだろう。

「大公妃にならなくてはいけない理由……身の危険」

 あの時、後がないと捨てられるという言葉が聞こえた。後がないというのは、選考結果が上手く行かないことを指すだろう。では、捨てられるは?

「……洗脳は、違う」

 微力とはいえ、稀有な存在となった魔法使いを脅せる材料をラベーヌ公爵は持っていることになる。それが何かどうにか調べなくてはならない。

「……王家ではなく、大公家」

 権力を持ち、人脈を広げたいのであればアレクサンド国王陛下の方に話を持っていった方がいい。大公殿下は様子を見るに、人脈とは縁が少ない人だろうから。

 王家になくて、大公家にしかないもの。

「……フィーディリアの花」

 あの気まぐれな花は、世界のどこを探しても大公家にしかない。

「……まさかね」

 ふと浮かんだ考えは一瞬で消え去り、他の理由を探すものの答えが出ず。

 気がつけばお嬢様の起床時間は迫っていた。

 特訓を終わらせると、お嬢様の部屋へと向かった。










 昨日のような自分の時間を過ごすことは、残念ながらできなかった。朝食を済ませたところで、大公家の執事により召集があることを告げられた。

「……これで最後になるかしらね」

「それだと良いのですが」

「でも決着がついて欲しくない気持ちもあるの」

「それはまた何故……」

「……事が終息すれば、シュイナは実家へ戻ってしまうでしょう?」

「そうですね」

「それが悲しくて」

「そう仰っていただけるのは嬉しい限りです。ですが、私はそれでもお嬢様に幸せになって欲しいと願いますよ」

「ありがとう」

 選考が終わり、お嬢様の勝利で大公家に嫁ぐことになれば私の仕事は終わりを迎える。寂しい気持ちもあるが、最高の形で別れたいと密かに願うのだった。

 その願いと共に、確実に選考の終幕は歩み寄ってきていたのであった。




 約束の時間を迎え、本館へと向かう。

 何度か訪れたその部屋には、お嬢様以外の人は揃っていた。不思議なことにベアトリーチェ嬢は静かに佇んでいたのだ。そっと顔を覗くと目の隈を隠した跡が見えた。

「お二方とも、急に召集させてすまなかった」

「いえ、大丈夫ですわ」

「お気になさらず」

 後ろ姿から、どこか無理矢理演じている雰囲気を感じた。普段に比べてその雰囲気は濃くなっている気がする。それに大公殿下や周りが気づいているかは不明だ。

「ありがとう。早速で申し訳ないが、次の選考について。まず、今回で最後になることを告げておこう」

 いよいよ終幕の幕開けということか。
 
 そう感じるのと、空気が変わったのは同時であった。

「今まで2つの選考を行ってきた。そのお陰で2人の力量は測れた。残るは家としての姿を見たいと考えてる。端的に言うと、最後は両家の当主を交えて話をさせて欲しいと言うことだ」

 どうやら最終選考は選考という名の確認になるようだ。

 元々家の利益も含まれて考えられた縁談だ。妥当な最後といえばそうだろう。

「今日中にそれぞれの家に、最終選考の内容を届けるつもりだ」

 そう告げた瞬間、ベアトリーチェ嬢のわずかに動揺した反応を見逃さなかった。

「日程は両家の予定が合う日に行う。できる限りの同日に行うつもりだということを、覚えておいて欲しい」

「わかりました」

「……はい」

 説明が終わり、別館へと戻る最後の最後までベアトリーチェ嬢はあまり優れた表情を見せなかった。

「予想はしていたけれど、次で最終選考なのね」

「そのようでしたね」

「何だかあっという間だった気がするわ」

「はい。当主ということは、公爵がいらっしゃるのですね」

「えぇ。久しぶりに会えるわね」

 思えば私もライナックに会わなくて大分経つ。結婚に関して何か進展があればよいのだが。

「そういえば……」

 自室に戻り、腰を下ろしたお嬢様がふと呟いた。

「私、ラベーヌ公爵とはあまりお会いしたことがないのよね」

「そうなのですか。……どういった方なのですか」

「そうね、色々と噂を聞くけれど」

「噂、ですか」

「えぇ。悪い意味で謎多き人ですから」

「その噂について知りたいです」

 ここから何か、ラベーヌ公爵に繋がる核心的なものを得られる気がした。
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