37 / 79
36. 追憶する姫君③
しおりを挟むデューハイトン帝国の建国祭が行われた。残念ながら訪問は叶わず、自室で変わらない日々を過ごしていた。
その中の一日は、約束してしまったことがありウィルへの手紙を適当に書いたのであった。
前回の別れ際に、手紙を誰にも書いたことがなく書き方がわからないという話になった。教育係の一人に聞こうかなと話せば、ウィルに止められた。何でもかしこまった丁寧な手紙は求めていないのだとか。自由に書いてと笑顔で告げられたが、今思えばやはり遊ばれてるなと感じるのであった。それでも固い文は頭を回転させる必要があるから、私からしても自己流で書くことの方が圧倒的に楽であった。
それと手紙を送る際にやって欲しいことを伝えられた。それは、魔法を使ってウィルにしか開封できないようにして欲しいのだとか。何故かと問えば、自由な文面を他の人が目にして色々とこじつけられては面倒なんだとか。その時はそれもそうかと納得したが、よく考えれば一国の王女の手紙を勝手に開封する方がよほど無礼かつ面倒なことに発展すると思った。承認してから気づいたことで、時既に遅しだが。
とにかく、言われた通り自由に書いてみることにした。
『ウィルへ
自由に書くという話だったので、色々と形式を無視して書こうと思います。と言っても適当に書くので悪しからず。
フィーディリアの花が散り終わり、完全な春の終わりが告げられました。同時に夏の始まりも告げられたけれど、あまり実感はありません。他の国々では、夏は気温が上がり暑くなるという話を聞きます。しかし、エルフィールドは特段暑くならないので春と夏の境目はいつもフィーディリアの花に頼りきりです。いつかデューハイトン帝国に行き、暑い夏というものを感じてみたいものです。
以前、淑女教育に力を入れると言いましたが宣言通り頑張っています。けれど理由はウィルの前での振る舞いではなくて、12歳になったら解禁されるお茶会の為です。12歳になればやっと国内のご令嬢方と交流することが許されます。彼女達の前で王女として恥じない姿を見せる為に日々勉強中です。今度会うまでに少しでも淑女に近づけるようにします。
目標を立てて勉強する日々ですが、やはり代わり映えのしない日々でもあります。学べる環境に満足していますが、最近は退屈に感じることもありその点は不満に感じています。
特に退屈なのが自由時間です。まだ年齢の近い友人もいず、同年代の話し相手と言えばウィルしかいないため一人で過ごすことが多いのです。だからといって来る頻度を増やさなくて大丈夫ですからね。
近頃は王立図書館で時間を潰しています。私の行く時間は人がいなくて、実質貸し切りです。ここにはたくさんの魔法の本があり、読んでいて楽しいです。どのような本があるのかと思い、図書館内をざっと見て回りました。やはり魔法の本が大半を閉めていました。さすが魔法の国ですかね。ですが、少し気になったのはそれ以外の本が少ないということです。例えば他国に関する本は全くありませんでした。他国の文化や風景を見られるかなと期待していたので残念です。
魔法の本ばかり読んでいても少し疲れるので、何か別のことをしようと考えました。そこで思い付いたのが王城探検です。城内だけでもまだまだウィルに紹介しきれてない場所が多いので、いつか見て回るためにしています。それと王城は私が普段過ごす場所ではありますが、知らない場所もまだまだ多いので改めて探してみようと思い探検をしています。これが思いの外楽しいのです。城内に私の魔力が感知できれば常に侍女などのお付きの人とくっついていなくていいので、本当に言葉通り一人で回れています。
最初の方は、見知った場所を見て回りました。それも回りきったので、よく知らない場所へと足を踏み入れてみました。決して危険な場所ではありませんよ。エルフィールド王城内ですから。特に面白い場所はないなと思いながら散策していましたが、ある日とても興味深いものを見つけました。それは高度な認識阻害魔法がかかった一面の壁です。おそらく壁の向こうには何かあるのだと思います。何だろうと思って行こうとしたのですが、残念ながら今の私がこの魔法をとくのには少し力が及びませんでした。なので、次に会うまでにとけるようにしておきます。そうしたら二人で壁の向こうに行ってみましょう。とても、とても気になるので優しいウィルならば付き合ってくれますよね。楽しみに待っています。
ここ1ヶ月はこのように過ごしていました。変わらない日々の中にも何とか変化をつけて、彩りのある日々にしていましたよ。
次に会えるのを楽しみにしています。それよりもウィルからの返事を楽しみにしていますからね。
ではまた。
ロゼルヴィア』
手紙にはしっかりと魔法をかけて、ウィル以外の人間が見れないように施した。
さすがに封筒にはしっかりと形式を守った書き方をした。
書けるだけ書いて満足した私は、ウィルが読んでどのような反応をするのか想像しながら手紙を送り出したのであった。
1
お気に入りに追加
2,539
あなたにおすすめの小説
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる