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27. 気まぐれな花
しおりを挟むフィーディリアの花はエルフィールドのみに咲く花。主に春が開花時期で、散るのは春の終わりを表すとされている。
そのフィーディリアの花には魔法の国にしか咲かない理由がある。
フィーディリアの花自体も魔力を宿しているからである。魔力源と言っても宿す魔力は微力なものだ。それでも数があればある程度の力になる。
そして、花は時々魔法使いの補助をしてくれる。花にとって魔法使いは慣れ親しんだ仲という認識で、困っているならば助けてやると力を貸してくれる花だ。それならば、花をたくさん咲かせれば魔法使いにとって有益なのではという考えになるが、実際はそんな簡単な話ではない。
花はとてつもないほど気まぐれなのだ。
実際に魔法使いがフィーディリアの花から支援されたのは一握りほどだ。はっきりいって稀有な事例である。かく言う私も助けてもらったことは一度もない。
しかし、今回ベアトリーチェ嬢は支援を受けた。それがわかるのが花が光っていたからだ。花は支援を行ったり、自身が宿す魔力を分け与える時に輝く。これは魔法使いにしか見えない為、お嬢様達にはいつもと変わらない光景に見えていることだろう。
身代わりとして担がれ、屋敷の外へと出ると荷馬車の荷台に放り込まれる。
「……(痛っ)」
仮にも貴族の令嬢に何という扱いをするのか。怪我をしなかったから良かったものの、いくら敷き藁があるといって雑に扱うのはいかがなものか。
眠ったフリをしながら少し文句を心の中で呟いていた。
担いできた男が荷台を去ると、間もなくして声が聞こえ始めた。
「いや、楽な仕事だなぁ。このお嬢さんを誘拐するだけでいいなんて」
「殺しをしないだなんて目的が謎だがな」
「そう言えば、身代金も無しだったな。随分変わった雇用主だ」
声の種類から推測するに、実行犯は二人のようだ。
「さて、ここを離れますか。深夜前にお嬢さんを解放すればいいからな」
「あぁ。ずらかるぞ」
馬車が動き出す。
簡素な作りの上に横たわっている為か、振動がダイレクトに体に伝わる。はっきりいって痛い。
ベアトリーチェ嬢が備品室で話していたように、殺す気や脅すことは現時点で無いようだ。
よく考えてみれば、かなりの圧力をラベーヌ家なりにかけた結果失敗だったのだ。殺しはともかく、今更脅しなど通用しないとわかっているのかもしれはい。拐って婚約者候補の辞退を要求するのではなく、あくまでもパーティーの不参加が望み。
「…………(もしかして)」
ダンスホールで出くわしてしまったあの時、お嬢様に言われた言葉が頭にきている様子だった。仕返しの目的でやったのならば、少し納得がいく。パーティーのパートナーに関する話をしていた。もしかして、ベアトリーチェ嬢は大公殿下が自分以外と踊るのが嫌だったとかだろうか。浅はかな考えに見えるも、素晴らしい持論をお持ちであった為に何だか状況が見えてきた。
馬車は走り続けるも、周りからは人の気配や声がまるでしない。森やどこか奥地にでも向かっているのだろうか。
荷台と御者のスペースは壁があり、お互いに見えない。
男達が話に夢中になっているのを確認して、少し体を起こす。音を立てずに伸びをする。
「……(まだ明るい)」
日中にも関わらず、如何にも怪しげな馬車が誰にも止められないほど大公家では慌ただしくしているのだろう。それに、よく見ればどこかの業者にも見える。
その後もいくらか馬車を走らせると、森の香りがする場所で止まった。
「まだ睡眠薬は効いてるか?」
「かなり強力なやつを使ったから大丈夫だよ。半日は余裕で寝たきりのやつだ。でもまぁ、念のため様子を見てくる」
そう言って馬車から降り、こちらへと向かってくる。すぐさま寝たフリをする。
「……よし、寝てんな」
いや、雑すぎるだろ確認。
一瞬見ただけで確認というずさんさに呆れながらも、相手が生粋の令嬢だからこその対応かと思い直す。
ここへ来てから時間も経ち、日が暮れだす。
お嬢様がどうかパーティーで成功するように願う。何事もなく終われば良いのだが。
「……おい、何か来るぞ」
途端、こちらに近づく馬車の音が聞こえる。
「ここを知ってるのは雇用主だろ?もう回収しに来たのか」
それにしては早すぎる。
恐らくだが、ベアトリーチェ嬢が拐った人間がお嬢様ではないことに気づいたのかもしれない。
「…………」
ここは一旦変身魔法を解き、今日のお嬢様の装いに似た姿の自分へ戻る。
そのタイミングで馬車が止まった。
「貴方達、本当に令嬢を連れ去ったんですよね?」
声の主はダンスの教師だ。
「もちろん、指示通り連れてきましたよ」
「と言っていますが」
「連れてきた令嬢を見せなさいっ」
慌てた声色のベアトリーチェ嬢。
「こ、こちらです」
雰囲気や顔から恐れを察したのか、実行犯達から途端弱さがにじみ出る。
荷台を確認しに来たであろうベアトリーチェ嬢とダンスの教師は、想定外の存在に声を失う。
「違う……彼女は令嬢付きの侍女よ」
「何てことをしてくれたの!!」
ここまで叫ぶベアトリーチェ嬢は意外にも初めてではないだろうか。
意識を失っているフリをしながら、これからベアトリーチェ嬢がどうするのかことの行方を考えるのであった。
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