24 / 79
23. 選考への準備
しおりを挟む2つ目の選考内容について説明がされた。
お嬢様の予想通り、パートナー適正を見極めるものであった。大公殿下は開催されるパーティーの中、王家開催のものにのみ顔を出すという。日程的には開催期間の最終日とその前日の出席ということだ。どちらも夕刻開催だが、最終日の方が重要度は増す。今回は予め大公側が日程を決めており、お嬢様は最終日にパートナーを務めることになった。意外にもベアトリーチェ嬢が口を出さなかったところを見ると、重要性は理解していないのかもしれない。
開催期間はおよそ一週間。本日より始まったことから、お嬢様の本番日まであと5日ある。
お嬢様とベアトリーチェ嬢は当日まで、ダンスや基礎教養などの授業を受けることになった。基本はそれぞれの別館で行うが、本館にしかない施設も存在するため出向くこともあった。それでも出会わないようスケジュールが配慮されているようで、授業1日目はベアトリーチェ嬢の気配すら感じなかった。
夕刻になり食事を済ませたところで、ようやく一休憩つけるようだった。
「かなりの詰め込みスケジュールでしたね。お疲れ様にございます」
「……そうね」
さすがに教養に関して土台があるお嬢様でも、疲労を感じて当然の授業量であった。正直に言うと、私は付き添うだけで少し疲れてしまった。これを真面目に受けるお嬢様は相当凄いと思う。眠気を誤魔化すために集中して聞いた授業があったが、基礎確認のような授業で私でも理解できた。
「さすが大公殿下が用意した教師陣だわ……!」
「……え」
疲労か見えないわけではないが、それよりも興奮が勝っているように見える。
「やはり王家お抱えの教師は教え方も一流ね。とても有意義な授業ばかりでしたもの!以前学んだ時に比べて格段なわかりやすさといったら……最高よ、シュイナ」
「それは、良かったです」
そう言えば授業中、嫌な顔一つせずむしろ目が輝いていた気がしたがあれは気のせいではなかったようだ。
「こんなに質の良い授業を受けれただけでも、大公家に来た意味があったというもの」
気分が良さげなお嬢様を見て、まだまたま続く詰め込み授業も難なくこなすだろうと感じた。
「明日も授業がございますから、しばらくは早めの就寝にしますか」
「そうしましょう」
こうして初日は好発進で終わった。
翌日、ダンスレッスンにて。
「とてもお上手です。強いていうのならば、気持ちステップが早いところでしょうか」
「わかりました」
ダンスに関しては高評価をもらうも、本人は苦手意識があるようで授業の中で一番難しいと話していた。
「お相手が大公殿下ですから、不手際は許されません。何か少しでも気になる箇所がありましたら、遠慮なくご指摘ください」
「もちろんです」
向上心の強さは教師陣にとって良い評価へ繋がるものだろう。
「ではもう一度踊りましょう」
ダンスの教師は女性の方だが、教師だからか男性パートも難なくこなしていた。その華麗さに惹かれ、思わず夢中になる。
二人の踊る姿を見ながら、昔は自分も練習したなと懐かしく思った。思い出にふけている間に授業は終わったみたいだ。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
教師が部屋を後にすると、お嬢様は小走りで私に駆け寄ってきた。
「次の授業まで時間はありますよ。急がなくても……」
「違うの。感覚を忘れない内にもう一度踊りたくて。シュイナ、相手をお願いできるかしら」
「構いませんが、男性パートを踊り切る自信がありません。先程見ただけですし……それでもよければ」
「もちろんよ」
こうなるのならもっとしっかり見ておけば良かった。後悔しても遅いが、とにかく気合いを入れて覚えているだけやってみることにする。
できるだけ再現はしたい。
「では始めましょう」
「よろしくお願いします」
そうしてステップを踏み始めたが、実際に手を取ってお嬢様と踊ると改めて素晴らしさがわかる。軸にぶれが見られず、ステップは軽やかで品を感じるまであった。余裕のあるお嬢様の踊りに対して、何とか再現しようと焦り気味の私であった。
「…………すみません」
何とか足を踏むことは無かったものの、どたばたした踊りになってしまった。
「何を言っているのシュイナ、初めてにしては素晴らしかったわ」
優しい言葉が胸に染みる。
「お嬢様は本当にお上手ですね。見ているだけでもわかりますが、実際手に取ってみると驚くほどです」
「ありがとう」
「ここまで完璧なら、大公殿下の相手として何も不足なしですね」
「…………そうね、踊る機会があれば」
「パーティーでパートナーと踊るのはほとんど義務では無いのですか」
「それは婚約していたり、結婚していた場合の正式なパートナーとのみよ。さっきはいかにも踊れるような発言をしたけど、あれは本意ではないの。私やベアトリーチェ嬢は互いにまだ候補……踊れる確率は低いと思っているわ」
曖昧な表情で述べるお嬢様。
「それは……」
余計なことを聞いた、そう続けようとした時に高らかな声により遮られた。
「一緒にしないで下さる?大公殿下は紳士的な方ですもの、正式でないとはいえパートナーを蔑ろにはしないでしょう。踊れなかった時は私やフローラ様に魅力がないということ。変な言い訳で踊れないなどと保険をかけるなんて…………ずる賢いですわ」
馬鹿にしたような口調でこちらに近づいてくるベアトリーチェ嬢。
いくらスケジュール調整をしているとはいえ、きっといつかは出くわすと思っていた。
……ここまで早いのは予想外だが。
1
お気に入りに追加
2,532
あなたにおすすめの小説
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
あなたのことが大好きなので、今すぐ婚約を解消いたしましょう!
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「ランドルフ様、私との婚約を解消しませんかっ!?」
子爵令嬢のミリィは、一度も対面することなく初恋の武人ランドルフの婚約者になった。けれどある日ミリィのもとにランドルフの恋人だという踊り子が押しかけ、婚約が不本意なものだったと知る。そこでミリィは決意した。大好きなランドルフのため、なんとかしてランドルフが真に愛する踊り子との仲を取り持ち、自分は身を引こうと――。
けれどなぜか戦地にいるランドルフからは、婚約に前向きとしか思えない手紙が届きはじめる。一体ミリィはつかの間の婚約者なのか。それとも――?
戸惑いながらもぎこちなく心を通わせはじめたふたりだが、幸せを邪魔するかのように次々と問題が起こりはじめる。
勘違いからすれ違う離れ離れのふたりが、少しずつ距離を縮めながらゆっくりじりじりと愛を育て成長していく物語。
◇小説家になろう、他サイトでも(掲載予定)です。
◇すでに書き上げ済みなので、完結保証です。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる