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23. 選考への準備

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 2つ目の選考内容について説明がされた。

 お嬢様の予想通り、パートナー適正を見極めるものであった。大公殿下は開催されるパーティーの中、王家開催のものにのみ顔を出すという。日程的には開催期間の最終日とその前日の出席ということだ。どちらも夕刻開催だが、最終日の方が重要度は増す。今回は予め大公側が日程を決めており、お嬢様は最終日にパートナーを務めることになった。意外にもベアトリーチェ嬢が口を出さなかったところを見ると、重要性は理解していないのかもしれない。

 開催期間はおよそ一週間。本日より始まったことから、お嬢様の本番日まであと5日ある。

 お嬢様とベアトリーチェ嬢は当日まで、ダンスや基礎教養などの授業を受けることになった。基本はそれぞれの別館で行うが、本館にしかない施設も存在するため出向くこともあった。それでも出会わないようスケジュールが配慮されているようで、授業1日目はベアトリーチェ嬢の気配すら感じなかった。

 夕刻になり食事を済ませたところで、ようやく一休憩つけるようだった。

「かなりの詰め込みスケジュールでしたね。お疲れ様にございます」

「……そうね」

 さすがに教養に関して土台があるお嬢様でも、疲労を感じて当然の授業量であった。正直に言うと、私は付き添うだけで少し疲れてしまった。これを真面目に受けるお嬢様は相当凄いと思う。眠気を誤魔化すために集中して聞いた授業があったが、基礎確認のような授業で私でも理解できた。

「さすが大公殿下が用意した教師陣だわ……!」

「……え」

 疲労か見えないわけではないが、それよりも興奮が勝っているように見える。

「やはり王家お抱えの教師は教え方も一流ね。とても有意義な授業ばかりでしたもの!以前学んだ時に比べて格段なわかりやすさといったら……最高よ、シュイナ」

「それは、良かったです」

 そう言えば授業中、嫌な顔一つせずむしろ目が輝いていた気がしたがあれは気のせいではなかったようだ。

「こんなに質の良い授業を受けれただけでも、大公家に来た意味があったというもの」

 気分が良さげなお嬢様を見て、まだまたま続く詰め込み授業も難なくこなすだろうと感じた。

「明日も授業がございますから、しばらくは早めの就寝にしますか」

「そうしましょう」

 こうして初日は好発進で終わった。

 


 翌日、ダンスレッスンにて。

「とてもお上手です。強いていうのならば、気持ちステップが早いところでしょうか」

「わかりました」

 ダンスに関しては高評価をもらうも、本人は苦手意識があるようで授業の中で一番難しいと話していた。

「お相手が大公殿下ですから、不手際は許されません。何か少しでも気になる箇所がありましたら、遠慮なくご指摘ください」

「もちろんです」

 向上心の強さは教師陣にとって良い評価へ繋がるものだろう。

「ではもう一度踊りましょう」

 ダンスの教師は女性の方だが、教師だからか男性パートも難なくこなしていた。その華麗さに惹かれ、思わず夢中になる。

 二人の踊る姿を見ながら、昔は自分も練習したなと懐かしく思った。思い出にふけている間に授業は終わったみたいだ。

「お疲れ様でした」

「ありがとうございました」

 教師が部屋を後にすると、お嬢様は小走りで私に駆け寄ってきた。

「次の授業まで時間はありますよ。急がなくても……」

「違うの。感覚を忘れない内にもう一度踊りたくて。シュイナ、相手をお願いできるかしら」

「構いませんが、男性パートを踊り切る自信がありません。先程見ただけですし……それでもよければ」

「もちろんよ」

 こうなるのならもっとしっかり見ておけば良かった。後悔しても遅いが、とにかく気合いを入れて覚えているだけやってみることにする。
できるだけ再現はしたい。

「では始めましょう」

「よろしくお願いします」

 そうしてステップを踏み始めたが、実際に手を取ってお嬢様と踊ると改めて素晴らしさがわかる。軸にぶれが見られず、ステップは軽やかで品を感じるまであった。余裕のあるお嬢様の踊りに対して、何とか再現しようと焦り気味の私であった。

「…………すみません」

 何とか足を踏むことは無かったものの、どたばたした踊りになってしまった。

「何を言っているのシュイナ、初めてにしては素晴らしかったわ」

 優しい言葉が胸に染みる。

「お嬢様は本当にお上手ですね。見ているだけでもわかりますが、実際手に取ってみると驚くほどです」

「ありがとう」

「ここまで完璧なら、大公殿下の相手として何も不足なしですね」

「…………そうね、踊る機会があれば」

「パーティーでパートナーと踊るのはほとんど義務では無いのですか」

「それは婚約していたり、結婚していた場合の正式なパートナーとのみよ。さっきはいかにも踊れるような発言をしたけど、あれは本意ではないの。私やベアトリーチェ嬢は互いにまだ候補……踊れる確率は低いと思っているわ」

 曖昧な表情で述べるお嬢様。

「それは……」

 余計なことを聞いた、そう続けようとした時に高らかな声により遮られた。

「一緒にしないで下さる?大公殿下は紳士的な方ですもの、正式でないとはいえパートナーを蔑ろにはしないでしょう。踊れなかった時は私やフローラ様に魅力がないということ。変な言い訳で踊れないなどと保険をかけるなんて…………ずる賢いですわ」

 馬鹿にしたような口調でこちらに近づいてくるベアトリーチェ嬢。

 いくらスケジュール調整をしているとはいえ、きっといつかは出くわすと思っていた。

 ……ここまで早いのは予想外だが。
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