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108.神殿に属すべき者

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 まさかサミュエルが口を挟むとは私も思わなかったので、驚きながらも後方を見つめた。

「サ、サミュエル……!」
「久しいな、デトロフ」
(……そりゃ知り合いよね)

 サミュエルは反対派が嫌いだと言っていた。それを念頭に置きながら、話に耳を傾けていた。会場内の神官達も興味があるのは同じで、全員が二人の会話に集中した。

「……はっ。神殿を捨てた大神官が、今更何の用だ?」
「もちろん自分の立場は自覚している。私は神殿を去った身。そんな人間が神殿に再び足を踏み入れる資格などないさ」
「ならば!」
「だからひっそりと暮らしていたのさ。誰にも見つからない、奥地のような場所で……」
(これは本当か嘘か、私も知らないな)

 サミュエルは後方の端から、中心へと移動し始めた。

「しかし。聖女様からは全てお見通しでな。私の居場所をいとも簡単に突き止めた。そのお力で」
「「「!!」」」
「そして説得された。神に願うこと、祈ることをするのが神殿だ。しかし、懺悔をするのもまた神殿だとな。私に如何なる事情があったとしても、一度神に仕え大神官にまでなった人間なら、謝罪しに来るべきだと」
(……言ってないな)

 回帰に関して省くとしたら、これくらい美化してもよいか。そう思いながら微笑みつつ話を聞いていた。

「……その通りだと思ってな。私はまだ懺悔をしていなかった。そう思って来たまでだ」

 儚げに言う姿は、見る人が見れば非常に演技じみたものだとわかった。

(嘘だとしても、懺悔をしに来たと言えば追い返す大義名分はなくなってしまう……さすが前大神官)

 デトロフはいらいらとしながら、サミュエルを睨みつけていた。その視線をあしらうように、サミュエルはため息をついた。

「反対派は相変わらずだな」
「何が言いたい」
「神に祈りを捧げ、私欲を捨てなくてはならない立場の人間が、神への奉仕を後回しにして私欲を追い求める……デトロフ。貴殿ら反対派の方こそ、この神殿に不要な存在ではないか?」
「無礼だぞ!!」
「無礼なのは、貴方方の方ですよデトロフ神官!」

 デトロフの声に負けないほど大きな声を響かせたのはサミュエルではなく、ルキウスだった。

「神聖な祝祭という日を、貴方は何だと思っているのですか。レビノレア神への敬意をまるで感じられません。そのような人間が大神官? 笑わせないでいただきたい」
「なっ……!!」
「それに。ルミエーラがお飾りではないことは証明されました。ここにいる全員が、ルミエーラが花を出現させるのを見たのです。それなのにまだ抗うのですか」
「ですから! この花はジュリアに対する神の祝福だと!」
「言いましたね?」

 いい加減、デトロフの相手をする意味もなくなってきたので、今度は私が差し込んだ。

「まだ足りないのなら、さらに証明するだけです」

 ジュリアのために用意されたけが人へと近付く。彼らは一人しか治療を受けておらず、痛々しい姿は残されたままだった。

「ジュリアさんが行った治癒は大神様でもできるものです」
「お飾りの分際で、私を馬鹿にしているの!」
「いえ。事実を言ったまでです。……ジュリアさん。聖女の力を持つのなら、多くの人を治療しなくては。話になりませんよ」

 そう告げると、私は残りの四人のけが人を一気に治療した。

「「「!!」」」

 会場内が再び静まり返る。

「デトロフ神官。これもまた、ジュリアさんに対する神の祝福だと言うつもりですか?」
「ーーっ!!」

 デトロフは返事をすることなく、怒りで顔を真っ赤にさせていた。私はその間に、治療した人々に痛いところはないか確認を取っていた。沈黙を破ったのは、私の知らない声だった。

「……話は明らかだな、デトロフよ」
「!! お、お待ちくださいガドル様!! 話が違います!!」
(ガドル……容認派の重鎮かな)

 ちらりと声のする方を見れば、貫禄のある男性が立ち上がっていた。

「私はもとより容認派の人間だった。……何せその聖女はサミュエル自ら連れてきた人材だったからな」
(……サミュエルと仲が良かったのかな)

 重い腰を上げたガドルは、こちらへとゆっくり歩んできた。すると、その後を同じく容認派が続いた。

「……聖女ルミエーラ様。大神官ルキウス様。我々は貴女様方に付き従います」

 そして、深々と頭を下げるのだった。

「あ、頭をお上げくださいガドル様!」
「ルキウス。そなたはまだ若いが、大神官として必要な資質が揃っている。胸を張っていい」
「……」

 突然の言葉に驚くルキウスだったが、デトロフはまだ納得がいっていないようだった。

「ガドル様!!」
「デトロフ。誰がどう見ても、ルミエーラ様は聖女だ。そこのジュリアという者では足元にも及ばない」
「なっ!!」
「お前の負けだ。これ以上醜態をさらさず、受け入れなさい。神を冒涜した罪もな」
「ーーっ!」

 そう言い渡されたデトロフは、体をわなわなと震わせた。もう反論しようがない、そう思ったのか私を突き飛ばして出口へ逃げた。

「どけっ!!」
「!」

 勢いに倒れそうになるが、先程治癒した人たちが支えてくれた。

「お、伯父様!!」
「ガドル様!」

 もはや重鎮さえも気にせず、突進していった。ガドルに関してはサミュエルがさっと助けた。

「アルフォンス!!」

 気が付けば、私はその名前を呼んでいた。
 
 アルフォンスはその声に応えるように、急ぎ会場の出口に先回りし、デトロフを捕らえるのであった。 
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